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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第13章 街の暮らし
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第128話

 朝食を終えた俺たちは店へとまっすぐ戻っていた。

 スマホを見ると時刻は既に9時前。予定では9時くらいに家具屋が、その後に厨房機器業者が来る。

 それまでの間にいくらか料理の準備を始めるとしよう。


〈ミミル――〉

〈何だ?〉


 厨房へと入っていく俺の後ろに続くミミルに話しかける。

 例えばパスタソースのようなものはトマトソースのようにある程度まとめて仕込んでおけるものと、その場で作れるものがある。

 ダンジョン内に持ち込む簡易コンロなどで手軽に作るものとしてはそういったものの組み合わせでやれるが、ちょっと手の込んだパスタとなると、地上で作っておく方が調理スペース的にも都合がいい。


〈今からダンジョンで食べる料理の仕込みをする。その間、ミミルはどうする?〉

〈ふむ……〉


 おとがいに指を当て、首を(かし)げるとミミルは視線を宙に遊ばせて考え始める。


 俺からするとダンジョンに入るか、2階に行ってまた配信されているアニメなどを見るかの2択しかないと思っていたのだが、そんなに真剣に考えることなのだろうか。


 ミミルは10秒間ほど考えを巡らせると、(おもむろ)に俺へと視線を向ける。


〈作っているのを見ることにする〉

〈俺は構わないが……退屈だろう?〉

〈2階にいても変わらん。まだこちらから声を掛ければ返事が返ってくる分、見ている方が楽しかろう〉


 確かにストリーミングコンテンツを見ていたところで、一人ならコミュニケーションが成り立たないからな。

 その点、料理をしているのを見ているだけならミミルが興味を持ったことを色々と訊ねることができる分、退屈にはならないということか。


〈邪魔にならないようにしてくれよ〉

〈大丈夫だ〉


 ミミルの視線を感じながら、調理に取り掛かる。

 今日打ったパスタ生地があるので、それを使ったものにしよう。

 まとめて作ってダンジョンに持っていけば、茹でてトマトソースに和えるだけで美味しく食べられるからな。


 まずは鍋に塩を入れてお湯を沸かす。

 その間にパスタマシーンで生地を伸ばしていく。

 ある程度の薄さまで伸ばし終えたら、麺打ち台の上に打ち粉をし、綿棒を使って均一な厚さになるようにしながら広げていく。


 途中で沸騰した鍋にほうれん草を入れる。

 さっと茹でるだけでは灰汁が抜けないので、全体に色鮮やかな緑になるまで茹でる。


〈なぜ茹でるのだ?〉

〈ホウレンソウは生だとアクが強いんだ〉

〈アク?〉

〈シュウ酸という渋い成分があって、食べると中毒を起こすんだよ。でもこうして茹でてから水に晒せば消えるんだよ〉


 シュウ酸は人体には有害で、過剰摂取は良くないんだよな。

 激痛がするという尿路結石の原因にもなるらしいし……。


〈生で食べてはいけない草ということか?〉

〈まあ、そうだな〉


 巻き()を使って絞り、ほうれん草の水気を(しっか)りと切ったら丁寧にみじん切りにし、リコッタチーズ、パルミジャーノ・レッジャーノ、ナツメグ、卵、塩と共にボウルに入れて均等に混ぜ合わせる。


 これで具の準備は終了だ。

 続いて広げたパスタ生地を更に均一に薄く伸ばしたら、全体の半分の範囲に一定の間隔で同量の具を並べていく。


〈ほう、器用なものだな〉

〈慣れてるからな〉


 ミミルの感心した声に応えながら、黙々と作業を続ける。

 具を並べ終わったら、上から残った生地半分を被せる。あとはラビオリスタンプで生地を圧着していく。


〈面白いな。私にもできるか?〉

〈いや、失敗するほうが難しいだろう〉


 具材が真ん中になるようにスタンプを置いて、力を入れるだけでできる単純作業だからな。

 ミミルにはこの調理台は位置的に高いかもしれないが……大丈夫だろう。


〈やってみるか?〉

〈いいのか?〉


 ミミルはもう目を輝かせて俺のことを見上げている。

 この状態で断る勇気は俺にはないな……。


〈いいぞ、やってみるか?〉

〈ああ、もちろんだ〉


 俺と調理台の間にミミルが割り込んでくる。

 やり方を教えるという意味ではこの場所の方が確かにいい場所だ。

 ただ、ミミルの髪からコンディショナーの香りがふわりと立ち上る。俺と同じシャンプーとコンディショナーを使っているとは思えないくらい、いい匂いがする。不思議なものだ。


 気を取り直してミミルの指導に集中する。


〈このスタンプを真っ直ぐになるように置いて、ズレないようにギュッと……そうそう〉


 既に俺が3個ほどスタンプを押しているせいもあって、そこにまっすぐ並ぶようにスタンプを置くだけだ。

 正直、ずらしてスタンプを置くほうが難しいだろう。


〈おおっ!〉


 いい感じで型がついたところを見てミミルが感嘆する。

 力が入りづらいとおもったが、上手く型がついているところを見ると力も足りている。


〈上手じゃないか〉


 軽く褒めると、ミミルは俺を見上げて平らな胸を張り、どうだと言わんばかりに鼻息を荒げて自慢げな顔を見せつける。

 ここまで「褒めろオーラ」を出しておいて、これで頭を撫でると怒られるんだろうな。


 さて、これをあと20個ほどやってパスタカッターで切り離せばラビオリの出来上がりだ。


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