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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第13章 街の暮らし
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第127話

 この店には本館と新館があり、本館の方は昔ながらの町家をベースにした建物になっているようだ。

 いつもは新館の方で食事を済ませたらすぐに店を出てしまうのだが、ミミルもいることだし奥庭に出て本館へと足を進める。

 奥庭は両方の建物で共通なので、自由に行き来できるのが有り難い。

 本館の奥の間にあたる場所は2階分の吹き抜けになっていて、とても開放感がある造りだ。整然とテーブル、椅子が並んでいて美しくさえ感じる。

 俺たち以外にもお客さんがいるし、食事を済ませたのであくまでも通り過ぎるだけのつもりだが、つい足を止めてしまう。


 これくらいの規模の町家は他にもあると思うが、売りに出ることはないだろう。そういう店は老舗として200年以上前から続くところばかりだからな。


 ふと客席の一角へと視線を向けると、家を出る時に会ったお婆さんがいた。

 どうやら向こうも気がついたようで、小さくその手を振っている。こちらに来いということらしい。

 相手はお年寄りだし、ご近所さんなので無視して帰るわけにもいかない。挨拶くらいなら席につくことなく話しかけるのはよくあることなのでミミルと2人でお婆さんの近くまで移動する。

 ミミルは警戒しているのか、また俺の背後へと身を隠した。


「あんたはんもここにきたはったんやねぇ」

「ええ、偶然ですね」

最前(さいぜん)はこないな年寄りの相手してくれておおきに」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」


 意外な言葉というと失礼だとは思うが、お礼に関してはなかなか裏表がない場合も多いので素直に受け取っておく。

 たまに、本音を隠している場合もあるので、気をつけなければいけないが……。


「そうや、お嬢ちゃんは鳥さんは見はった?」

「いえ、まだだと思いますが……」

「ほな、そこの通路んとこにいたはるさかい、見に行きよし」

「あ、そうですね。ありがとうございます」


 お婆さんからの提案に、礼を言う。

 この店の通路には鳥かごが吊るされていて、そこにインコが飼われているのだ。ミミルに人間以外の動物を見せるいい機会だ。


 一方、お婆さんからは自宅前で会ったときに感じた殺気のようなものが籠もった雰囲気は消え去っていて、いまは柔らかな微笑みを湛えてミミルに手を振っている。

 俺の背中から半分だけ顔を出しているミミルも少し警戒感を解いたのか、お婆さんに向けて手を振り返している。


「うちは、(はた)ていいます」

「あ、俺は高辻将平、こちらはミミル」

「ミミルちゃんね、よろしゅうに」


 ミミルは眉尻が下がった「困った」顔をして、俺を見上げる。

 助けてくれということなんだろうな。


「すみません、日本語がまだ駄目なので……」

「ええんよ。こういうのは気持ちの問題やさかい」


 お婆さん――秦さんはミミルに向かって「ねー」と言いながらまた笑顔を作っている。

 相手が笑顔を作っていることはわかるのだろう。

 少々引き攣った笑顔でミミルは応じ(なが)ら、『どうすればいい?』と念話を飛ばしてくる。

 本当に日本語がわからない状態で、京ことばを使って話しかけられる……ミミルが混乱するのも仕方がない。それに、ミミルからすると秦さんは明らかに年下なのだが、完全に自分が子ども扱いされているということがわかればミミルもまた不快に思うことだろう。


〈ミミルはまだ日本語がわからないと言ってあるから大丈夫だ。軽くお辞儀すればいい〉


 俺の言葉にミミルは小さく頷き、秦さんに向かって小さくお辞儀をするとまた背に隠れてしまった。

 こういう可愛い仕草がお年寄りの庇護欲をまた唆るのだろうが、ミミルは無意識なので仕方がないな。


「すみません、しかも人見知りで……」


 蟀谷(こめかみ)のあたりを指先で掻きながらミミルのフォローをする。

 秦さんは少し残念そうに溜息を()くと、(そば)に立つ俺のことを見上げる。


「そうみたいやねぇ……」

「また機会があったら話しかけてやってください」

「ええ、そうさしてもらいます」


 少し前のめりになって座っていた秦さんだが、ミミルと話すのを諦めたのか、居住まいを正した。

 言葉も通じないし、人見知りという設定のせいか、気分を害することはなかったようだ。


「では、このへんで……」

「ええ、さいなら」


 俺とミミルは向きを変え、新館と本館の間にある通路へと足早に戻った。

 我ながら絶妙なタイミングで辞去できたと思う。


 さて、通路には4つの鳥籠が吊り下げられていて、それぞれ違う種類のインコが飼われている。


〈インコというチキュウの鳥だ。観賞用としてニホンでも飼われている〉

〈鑑賞用か……綺麗な鳥だな〉


 南国特有の鮮やかな羽色に、囀る澄んだ声をミミルも気に入ったようだ。

 先程から何やら話しかけているが、当然通じるはずもない。


〈鳥は籠の中よりも、外に出したほうがいいのではないか?〉

〈いや、ニホンはインコたちが生きていくには環境が厳しいらしい。元々南国の暖かいところで生まれ育つ鳥なんだよ〉

〈ここも充分暖かいと思うが?〉


 そうか、ミミルはまだ日本に来て6日だからな。

 春夏秋冬という季節があるとは伝えているが、それぞれがどんな時期なのかということを教えていなかったな。


白玉ぜんざい様よりミミルのファンアートをいただきました。

 

【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】


白玉ぜんざい様、ありがとうございました。

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