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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第13章 街の暮らし
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第124話

 赤、緑、黄色に染まったアーケードの屋根から届くカラフルな日差しが路面を鮮やかに彩っている。

 商店街に入って歩くと、まだ早すぎたのか殆どの店のシャッターは閉じたままだ。

 そんな中、出汁をひく匂いが漂うのは惣菜の専門店だ。今は営業に向けて調理中なのだろう。

 この街に戻ってきて一番最初に食べたかったもの――懐かしい味がここに並んでいた。海外生活が長かったせいもあって、ついお惣菜の出汁の味を求めてしまうんだろうな。

 ミミルにもデパートの惣菜を出して食べてもらったが、ミミルさえよければまた買ってきてもいいだろうか。


〈ミミル、最初に食べた料理のことを覚えてるかい?〉

〈なんだ唐突に〉

〈いや、俺が作る料理は違う国の料理なんだ。ただ、俺としては食べ慣れたこのニホンの料理を食べたいときがあってさ……〉

〈なるほど〉


 ミミルは俺の言葉に納得したのか、満足そうに頷いている。

 俺の言葉のどんなところに納得したというのだろう。


〈チキュウの料理は美味いのだが、私もたまにエルムヘイムの料理を思い出すことがあるからな〉

〈遠く離れた場所に行って、そこの風土や文化、食べ物などの違いのせいで憂鬱になることはよくあるからな〉


 最初にイタリアに渡ったときは俺もホームシックにかかったものだ。日本と同じように素材の味を大切にした味付けが多いが、それでもカツオ節や昆布出汁の味、白くてふっくらと炊きあがったねばりのある米を握ったおにぎり……そんなものが食べたくなったものだ。

 ミミルが日本にやってきて今日で6日目だが、そろそろホームシックになってもおかしくはない。


 話をしながら歩いていると、業務専門の魚屋が営業しいていた。

 肉類は仕入れルートを確保していたのだが、魚介類はいまのところ仕入れを決めていないのでちょうどいい。


〈ミミルの好きなエルムヘイム料理はあるのかい?〉

〈そうだな……〉


 魚屋の中を覗きながらミミルに訊ねてみると、ミミルはおとがいに指を当てて視線を宙に泳がせる。

 比較的真剣に考えるときのポーズだ。


 店頭には(ハモ)(カツオ)、チダイ、真鰯、鯵、イサキ、メバルなどの旬の魚、子持ちの剣先イカ、アオリイカ、ホタルイカなどが並んでいる。


〈こういった魚料理はよく食べるぞ。塩をして焼いて、油を回しかけて食べるのが美味い。他にも、パンと共に海老や貝を入れて煮込んだ料理などもある〉


 なるほど、魚のグリルや、魚介のスープはよく作るんだな。

 確か、陸地は星全体の1割しかないと言っていたから、海産物を食べる文化は発達しているのだろう。


 俺は適当に魚介類を選びながら、ミミルの話に返事をする。


〈じゃぁ、魚介類を使った料理も作らなきゃな〉

〈それはありがたい。頼んだぞ〉


 ミミルの目がキラキラと輝き始める。既にホームシック気味なのかも知れないが……あの食欲なら俺の勘違いだろう。

 魚は舌平目、(カツオ)、真鰯、メバルを選び、剣先イカとアオリイカを選ぶ。アサリは産卵を終えて痩せているものもあるが、できるだけ状態のよいものを選ばないとな。

 他に、シャコと冷凍のムール貝、スカンピ(手長エビ)も欲しい。


「うちは業務用専門やけど、兄さんはどちらのお店で?」


 白い長靴が一体になったズボン、前掛けを下げた兄さんが声をかけてきた。

 これは店員さんには話を通しておくべきだろうな。今後は長い付き合いになるかも知れないからな。


「その先の町家を改修して羅甸(ラテン)という名の店を開くんですよ。10日後にオープンする予定なんです」

「ああ、あっこの先の店やね。お名前は?」

「高辻と言います。ところで、買い物してもいいかな?」

「もちろんですわ」


 こちらが飲食店の関係者だとわかった途端、気持ちよく接客するように変わった。

 専門店だというのに普段から観光客の冷やかしばかり相手にしているから仕方がないのかも知れないな。


「配達とかお願いできるのかな?」

「近所やさかい、(かま)しまへんで。十時過ぎくらいになると思いますけど、よろしいか?」

「ええ、ではこれだけお願いします」

「へぇ、おおきに」


 店員さんは発泡スチロールの容器にポンポンと魚や貝などを放り込んでいく。

 ミミルは俺が選んだ魚介類を見て、目をキラキラと輝かせていて、明らかにどんな料理が出るのかと期待で平らな胸を膨らませているのがわかる。


〈ダンジョンの中で食べる分だからな〉

〈そ、それは楽しみだな〉


 ダンジョン内で目覚めてから少し時間が経っているせいか、ミミルは腹を空かせているのだろう。キラリと輝く液体がいまにも口から溢れそうになっている。


 店員さんに支払いを済ませ、店を出ようとすると名刺をいただいた。残念ながらショップカードはできているが、名刺がまだできていないんだった。やはり作っておくべきだろうな。


「この商店街、八百屋はこの時間営業してるかな?」

「うち以外はほぼ、9時か10時からの営業ですわ」

「そうか、ありがとう。また来るよ」

「ええ、おおきに。またおこしやす」


 もう少し遅い時間に来ればよかったのだが、仕方がない。

 喫茶店で朝食を摂っても、9時には業者が店にやってくるはずなので賑わう商店街をミミルにみせるのはまだ先になりそうだ。


京の台所と呼ばれる市場のお話でした。


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