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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第13章 街の暮らし
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第121話

 ミミルと一緒にツノウサギの煮込み、パタタ・ア・ロ・ポブレを食べる。

 先に食べ始めていたミミルはこの料理が気に入ったようだ。特にパタタ・ア・ロ・ポブレを幸せそうに食べている。

 昔から女子の好きな食べ物を「いもたこなんきん」と言ったりするが、エルムも同じなのかも知れない。


 ツノウサギの肉は比較的淡白な味をしているのだが、そこからじっくりと煮込んでいるのもあり実に柔らかく仕上がっており、スプーンで簡単に(ほぐ)れると、そこに煮汁が絡んで美味いんだ。ニンニクの風味を(しっか)り移したオリーブオイルで表面を焼いてから白ワイン、香味野菜、トマトを入れてあるので旨味もたっぷりと含んでいる。また、隠し味に入れたエスプレッソコーヒーの苦味が全体の味を引き締めている。


 ゆっくりと時間が流れていく……ここらで気になっていたことをミミルに聞いてみよう。


〈なあ、ミミル。ダンジョンの転移石だが……〉

〈――ん?〉


 口にウサギ肉を押し込みながらミミルが返事をする。

 返事になっていないが、俺の方を見つめながらも顎は動かし続けている。


〈転移石は誰がつくるんだ?〉


 俺の質問を聞いてからもミミルの顎はとまらない。

 充分に咀嚼してゆっくりと飲み込む。まぁ、噛まずに飲み込むよりは余程いいことだし、質問するタイミングを間違った俺が悪いな……。


〈ダンジョンがつくる……というのがエルムへイムでの定説だ。では、ダンジョンは誰が作るのかという話になる〉

〈ああ、そうだな〉


 ダンジョンが作るということは、ダンジョンに出入口を作る機能を組み込んだ者がいるということ。ではそれは誰か――という話になるのは自然なことだ。


〈そこはエルムへイムでも不明だ。私は……〉


 ミミルは次のひと口分をスプーンで(ほぐ)しながら話をしていたが、手を止めて俺の方へと視線を向ける。


〈いや、先ずはダンジョン第21層に到達することだな。自分の目で見て考えて欲しい〉

〈第21層はこのダンジョンの最奥部なのか?〉

〈そうだ。まずはそこを目指してもらうしかない〉


 多数のダンジョンが存在するエルムへイムでも明らかになっておらず、ミミルも知らないということなのだろう。

 そして、ダンジョン最奥部で見る。ミミルと共にそれを見ることで判るものなのかも知れない。いや、ミミルの様子を見る限りまだ推測の域を脱していないのかも知れない。


〈そっか、じゃあやはりダンジョン攻略を進めていくしかないな……〉

〈ああ、期待している〉


 ミミルは最後に期待を込めた目で俺を見ると、視線をツノウサギの煮込みへと戻し、先程(ほぐ)していた肉を(すく)って口へと運んだ。


   ◇◆◇


 食事を終えた後、俺は残りのパスタ生地を作り上げた。

 合計1Kgものパスタ生地だが、2人換算だと5食分といったところだ。ミミルが話したとおり、ダンジョン第2層の攻略をするのに最短で5日掛かるとすれば、この5食分では足りない可能性がある。多めにパンを買ってくることにしよう。

 あと、ピザ生地を用意して焼いてしまうなら今から仕込む必要がある。もちろん、トマトソースも必要だ。


 時計を見ると3時を回っているが、仕方がない……たくさん作ってミミルに保管してもらうことにしよう。


 ふとミミルに目を向けると、調理台の上に突っ伏したままこちらを見上げている。

 ずっとパスタ生地を打っていたので、退屈だったのだろう。

 パン生地なら好きな形のものを作らせたりできるのだが、パスタはそれができないから、仕方がない。


〈ミミル、ピザをたくさん焼いておけば空間収納に仕舞っておけるかい?〉


 ミミルは素早く起き上がり、瞳をキラキラと輝かせる。

 どうやら返事はいらないようだが、律儀にも言葉にして返してくれる。


〈全く以て問題ないぞ〉

〈よし、じゃあ今から生地とソースを仕込む。具材は……〉


 先日買い込んできた食材を思い出す。

 基本、トマトソースとモツァレラチーズ、リコッタチーズなどがあればいろいろとできるのだが、ゴルゴンゾーラやパルミジャーノ・レッジャーノなんかも余っているはずだ。四種チーズクワトロ・フォルマッジのピザも作れるし、アンチョビもあるのでマリナーラのようなシンプルなものも作れるはずだ。


〈――問題なさそうだな〉


 足りなければ買ってくればいい。

 ピザは焼いた状態で空間収納に入れてもらうが、他の食材もミミルに仕舞ってもらうことにしよう。

 そういえば、荷物が届いたらそれもミミルに預けないといけないんだよな。簡易コンロに調理用の鍋、折りたたみテーブルと椅子……何もかもミミル頼りだ。

 できれば俺も空間収納ができるようになるといいんだが……何か方法があるんだろうか?


〈なあミミル、空間収納ってどうやって覚えるんだ?〉

〈んあぁ……魔法は教えるが、技能として覚えるなら運だ〉


 食べすぎて動くのが辛いのか、また突っ伏していたミミルが少し面倒臭そうに声をあげてから教えてくれた。

 魔法版の空間収納を教えてくれるのはありがたいが、時間経過しない技能版の空間収納は「運」なのか……。


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