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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第12章 将平の心
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第116話

 地球における生物の設計図――DNA。

 グアニン、アデニン、チミン、シトシン……四つの塩基によって構成されるDNAは、螺旋(らせん)構造をとって染色体になる。この染色体は生物の種類によって本数や長さが違う。人間の場合、染色体は22種44本の常染色体とXとYの2種2本の性染色体に分類され、合計46本の染色体が存在する。

 その仕組み上、生物は遺伝子の数が違う場合や、長さが違う場合は子を成すことができない――はずだ。違う星で生まれ、進化してきたという時点で持っている染色体の数や長さが違うのは必然といえるだろう。いや、そもそも進化してきた過程からして違うのだから、ミミルたちエルムに染色体があるかどうかもわからない。

 その違いを考慮すれば、俺のように人間とエルムの間に子を成すことはできないだろう推測するのは当然だと思う。

 それに、数え切れないほどの星の中で、似たような姿に進化してきているだけでも奇跡だ。そのうえで、更に染色体の数やDNAの構造まで同じ……なんていうことまで求めるのは無理がある。


 だが、そのあたりの理屈というものをミミルは知らないのかも知れない。

 これもまた図鑑に頼ることになりそうだ。


 索引から「ヒトのからだ」という分類があるのを見つけ、そこから遺伝子に関して説明されているページを探す。


 子ども向けの図鑑だから難しすぎて載っていないんじゃないかと心配したが、見つけることができた。

 目的のページを開くと、遺伝子の説明をする際に必ず出てくる螺旋構造――それがカラフルに描かれている。メンデルによって発見された「遺伝」という概念、それを証明した染色体、DNAの発見、DNAの構造などが()()()説明されている。あくまでも()()()()()の図鑑だから仕方がない。

 まあ、これ以上に難しいことが書かれていても俺には説明できないな。


 さて、なぜ地球人とエルムの間に子どもができないという話だったよな。そうなると最初に話さないといけないのは、地球の場合はどのように生命が生まれるかという話をしないといけない。


 図鑑のページを捲って考え込んでいる俺を見つめるミミルの視線を感じる。

 どうやら少しミミルを放置した感じになっていたようだ。だがこのシチュエーションは……。


 ――子どもに性教育をするときってこんな感じなのかな。


 そう考えると少し照れくさくなる。

 だが、ミミルは大人の女性だ。

 エルムの生殖は地球人とは異なっていてもおかしくないし、その違いを説明すれば理解してもらえるだろう。


 軽く咳払いをして、照れくささを一緒に吐き出すとミミルに話しかける。


〈ミ、ミミル。草花には()()()()()()があって、()()()の先から出る花粉が()()()の中にある胚珠というところに……〉

〈何の話だ?〉


 エルムと地球人の間に子を成すことができないという話をしていたのだが、突然植物の話を始めたのだから疑問に思うのは当然か。

 それに、地球の植物とエルムヘイムの植物では違っていても不思議ではない。

 あくまでも地球の植物の場合というのを話しておく必要があるな。


〈すまん。エルムとチキュウ人との間に子ができないという話を説明するのに、その……チキュウ上の生物の生殖方法を説明しようと思ったんだ〉

〈――せ、生殖!?〉


 ミミルがまた顔を赤らめ、俯いてしまう。やはり耳まで赤い。

 そもそもアルビノで透けるように色が白いから余計に赤く見えるな。

 別に具体的にどうやって子どもを作るか――という話をするのではなく、生物学的に説明するつもりなので卑猥な話は無いんだが……。

 やはりエルムヘイムでは()()()のような学問も盛んではないのかも知れないな。


〈手段の話ではなくてだな……目に見えない世界での話だよ〉

〈――見えない世界を語ってどうする〉


 下から軽く睨むような目でミミルが見つめてくる。

 どうやらエルムヘイムには顕微鏡のようなものがないのかも知れないな。だが、ダンジョンの中では微生物が生きられないとも言っていた。微生物の存在を何故知っているのかはまた(たず)ねるとしよう。


〈チキュウにはケンビキョウという器具がある。普通は小さくて見えないものを見える大きさにまで拡大してくれる器具なんだ〉


 いま開いている図鑑のページに指を挟んだまま、今度は「科学と技術」のカテゴリのページを捲って顕微鏡について書かれたページを探して開く。


〈これがケンビキョウ。高性能のものになれば分子や原子まで見えるらしい〉

〈……すっ、すごい。しょーへいは持っていないのか?〉


ミミルは興味津々だ。目を輝かせ、図鑑を覗き込んでいる。


〈こっちのシャシンにあるケンビキョウは持っていたけど、日常生活には必要ないからな……今は持ってない〉


 実家にいたときは持っていたが、家を処分する時に一緒に廃棄したはずだ。他に望遠鏡などもあったはずだ。

 まぁ、それはいいとして……。


〈エルムとニンゲンには明らかな違いがあって、子を成すことができないという話を説明するには、ミミルにニンゲンのことをよく知ってもらう方がいいだろう?〉

〈ふむ、違いを確認するためにも先ずはチキュウ人の場合はどうするのかという話をするのだな?〉

〈そのとおり〉


 ミミルの理解を得て、俺は地球上の生物の生殖について説明を続けた。


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