第114話
なんでこんなものが入ってるんだろう。
確かここには真鍮のような黄銅色をしたカードが入っていたはずだ。最初は赤銅色をしたカードだったのが、魔物をたくさん倒したので魔素を取り込んで黄銅色に変化したんだったか――ということは、またカードの色が変わったということだろう。
〈お、カードの色が変わってる〉
〈しょーへいは先ほどの戦いでキュリクスを卒業したからな。色が鈍色になったのは第5層くらいまでは行けるという証拠だ。魔力を流してみるといい。自分の成長がわかるはずだ〉
〈あ、そうか!〉
ミミルに指摘されて思い出した。
魔力を流し込めば、自分の技量が数値化されて表示されるんだった。
確か、エルムヘイム側の高難易度ダンジョンに入る際にチェックされるとか言ってたな。
考えながらカードに自分の魔力を流し込むと、カードが輝いて文字が浮かび上がった。
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氏名:高辻 将平
種別:ヒト
所属:地球 日本国
年齢:36歳
職業:無職
スキル:
料理Ⅳ、目利き(肉Ⅳ)(魚Ⅲ)(野菜Ⅳ)、包丁術Ⅳ、狩猟Ⅱ、解体Ⅱ、皮革加工Ⅰ、短剣Ⅱ、弓術Ⅱ、身体強化Ⅰ、魔力操作Ⅰ
基礎魔法(無Ⅱ)(風Ⅰ)(水Ⅰ)(雷Ⅰ)
四則演算
加護:波操作、エルムヘイム語Ⅲ
――◆◇◆――
「あ……」
加護に「エルムヘイム語Ⅲ」というのが増えている。他にも身体強化や魔力操作、基礎魔法などが増えているな。あと、短剣の数値が増えている気がする。
〈どうした。大幅に成長していたか?〉
〈エルムヘイム語という加護が増えてる〉
〈はぁ? 冗談は休み休み言え〉
事実なんだから仕方がないだろう?
頼むからそんな呆れたような顔をしないでくれ。
〈いや、嘘吐いてないぞ〉
再度魔力を込めてミミルに裏面を見せる。
やはり俺には読めないが、でもどこかで見たことがあるような文字が羅列されている。たしかこれがエルムへイムでの共通文字とか言っていたか。
――◆◇◆――
ᚿᛆᚡᚿ: ᛋᚼᚮᚼᛂᛁ ᛐᛆᚴᛆᛐᛋᚢᛁᛁ
ᛐᛦᛔᛂ: ᛘᛁᛑᚵᛆᚱᛑᛁᛆᚿ
ᛐᛁᛚᚴᚿᛦᛐᚿᛁᚿᚵ: ᛘᛁᛑᚵᛆᚱᛑ ᛁᛆᛔᛆᚿ
ᛆᛚᛑᛂᚱ: ᛐᚱᛂᛐᛐᛁ ᛋᛂᚴᛋ åᚱ ᚵᛆᛘᛘᛂᛚ
ᛦᚱᚴᛂ: ᛆᚱᛒᛂᛁᛑᛋᛚᛂᛑᛁᚵ
ᚠᛂᚱᛑᛁᚵᚼᛂᛐ:
ᛍᚮᚮᚴᛁᚿᚵ ᚠᚮᚢᚱᚱ, ᛍᚮᚿᚿᚮᛁᛋᛋᛂᚢᚱ (ᛘᛂᛆᛐ) (ᚠᛁᛋᚼ ᛐᚼᚱᛂᛂ) (ᚡᛂᚵᛂᛐᛆᛒᛚᛂ ᚠᚮᚢᚱ), ᚴᛁᛐᛍᚼᛂᚿ ᚴᚿᛁᚠᛂ ᚠᚮᚢᚱ, ᚼᚢᚿᛐᛁᚿᚵ ᛐᚥᚮ, ᛑᛂᛘᚮᚿᛐᛂᚱᛁᚿᚵ ᛐᚮ, ᛚᛂᛆᛐᚼᛂᚱ ᛔᚱᚮᛍᛂᛋᛋᛁᚿᚵ ᚮᚿᛂ, ᛑᛆᚵᚵᛂᚱ ᛐᚥᚮ, ᛆᚱᛍᚼᛂᚱᛦ ᛐᚥᚮ, ᛔᚼᛦᛋᛁᛍᛆᛚ ᛋᛐᚱᛂᚿᚵᛐᚼᛂᚿᛁᚿᚵ ᚮᚿᛂ, ᛘᛆᚵᛁᛍ ᛘᛆᚿᛁᛔᚢᛚᛆᛐᛁᚮᚿ ᚮᚿᛂ
ᚵᚱᚢᚿᚿᛚᛂᚵᚵᛂᚿᛑᛂ ᛘᛆᚵᛁ (ᛁᚿᚵᛂᚿ ᛐᚮ) (ᚡᛁᚿᛑ ᛂᚿ) (ᚡᛆᚿᚿ ᛂᚿ) (ᛐᚮᚱᛑᛂᚿ ᛂᚿ)
ᚠᛁᚱᛂ ᛆᚱᛁᛐᛘᛂᛐᛁᛋᚴᛂ ᚮᛔᛂᚱᛆᛋᛁᚮᚿᛂᚱ
ᚡᛂᛚᛋᛁᚵᚿᛂᛚᛋᛂ: ᚥᛆᚡᛂ ᛘᛆᚿᛁᛔᚢᛚᛆᛐᛁᚮᚿ, ᛂᛚᛘᚼᛂᛁᛘ ᛐᚱᛂ
――◆◇◆――
アルファベットに似た文字もあるが、読めたもんじゃないな。
〈ほう……思った以上に成長しているではないか。それに加護が増えている。だが、加護というよりも内容は技能だな〉
〈エルムヘイム語Ⅲというやつか?〉
〈そうだ。言葉なら日常生活ができるのがⅠ、世間話などもできるくらいなのがⅡ、専門的な言葉を理解できるのがⅢだ。その基準は私が作ったから間違いない〉
ミミルはどうだと平たく薄い胸を張ってみせる。
思わず頭を撫でて褒めようとしてしまうが、それをするとミミルが怒る姿が目に浮かぶので既のところで我慢する。
漸くスキルに表示されている数字の意味が理解できた。
〈なるほど、俺は他のエルムと会話できるくらいの能力があるということなんだな〉
〈そのとおり。Ⅱに相当する読み書きができればⅣ、Ⅲに相当する読み書きができればⅤになる。しょーへいは読み書きはできんからⅢということだろう〉
〈よくわかった、ありがとう〉
スキルの末尾に書かれている数字の意味を理解したところで、エルムへイム共通文字に意識を向ける。
この文字――どこかで見たことがある気がする。この図鑑に説明があるとしたら、カテゴリで言えばどこになるんだろう。文字文化となると……「人びととくらし」「歴史」「芸術と文化」の3つの中のどこかだろう。
ペラペラとメージを捲って目的の内容があるか探してみる。
〈前から気になっていたのだが、このズカンとやらの表紙にはチキュウの言葉で〝コドモ〟と書かれているが、子ども向けなのではないか?〉
〈様々なことを網羅的に書いてあるものを探すと、子ども向けの方がいいんだよ。大人向けになるといろんな分野別――専門的なものばかりで難しいんだ〉
〈ふむ――〉
子ども扱いされると妙に機嫌を悪くするミミルのことだ、子ども向けの図鑑を読まされていたことに不快感を感じたのだろう。
だが専門的な図鑑となると、1冊では足りなくなってしまう。
まずは基礎的な知識を得てもらうためには浅く広く説明できるものがいいと判断して買ったのだ。
「あった……」
歴史カテゴリに、ギリシャ神話、ローマ神話などと共に北欧神話についての説明を見つけた。