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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第11章 ゴールドホーン
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第108話

〈  〉 内はミミルの母国語を表しています。


 俺がひと言だけ言葉を発したので、またミミルが俺の方へと視線を向けた。


〈エルムがどうかしたのか?〉

〈エルムへイムというのは街の名前なのか?〉


 この流れで確認してしまった方がいいな。少なくとも、これでパズルのピースが1つ(はま)るはずだ。


〈いや、私がいた――しょーへいから見ると異世界にあたる星そのものだな。チキュウに該当するものだと思えばいい〉

〈なるほど、ありがとう〉

〈何を考えているのか知らんが、冷めてしまうぞ〉

〈そ、そうだな。でも、キュリクスの肉で腹がいっぱいなんだ〉


 牛にしろ、豚にしろ、肉を焼くとそれなりに縮んで小さくなるが、キュリクスの肉はほぼ縮まないのだ。俺の分は厚さ1cm程度に切ったので合計400gあるかないか……といったところだったが、結構腹に溜まる。

 ミミルは2cmの厚みで2枚焼いているから、1Kg近くあるはずなのにもう残っていない。この小さい身体のどこに入ってくのだろう……もしかして、胃袋も空間収納みたいになっているんだろうか?


〈残すのなら、空間収納に仕舞っておくが――いいか?〉

〈ああ、お願いするよ。腹が膨れて動けない……〉

〈そうだな、私もだ〉


 このあとダンジョンに戻る予定だったはずだが、この腹具合ではふたりとも動くことも(まま)ならない。


 立ったまま食べていたので、本当は動くことにはまったく不都合がないのだが、どうにも動きたくないのだが……料理人としてはどうしても「後片付け」があるので動かないわけにもいかない。


 食べ終えた皿とフライパンなどを手早く洗っていく。

 店で営業するときに使う皿はまだ届いていないので、この皿やカトラリーはすべて俺、個人の所有物だ。ピカピカに磨き上げる必要などないのだが……習慣というのは恐ろしいもので、つい丁寧に洗い上げてしまう。

 だが、それ以上に丁寧に洗うのは調理器具だ。


 ――商売道具を大切にしない人間は成功しない


 修行先で必ず言われたことだ。

 だからフライパンや鍋は丁寧に磨き上げる。


〈熱心なことだな〉

〈ああ、商売道具だからな……〉

〈ふむ……〉


 ミミルは俺が調理器具を手入れするのを見て、時間を潰している。ミミルがいたエルムへイムというところと、地球では恐らく調理器具などにも違いがあるだろうし、興味深いのだろう。


 フライパン、グリルパンを磨き上げたあとは、包丁を研ぐ。

 水に漬けておいた砥石をお手製の砥ぎ台の上に載せると、キュリクスの肉を切った牛刀、ペティナイフの順で研いでいく。


〈何をしている?〉

〈包丁を研いでいるんだよ。刃先を常にいい状態に保つための――日課だな〉


 包丁研ぎは、3種類の砥石を用いて行う。最初は荒砥石(あらといし)で刃こぼれが無くなるまで削るように研ぎ、中砥石(ちゅうといし)で形を整え、刃を付ける。最後は仕上砥石(しあげといし)――中砥石でできる細かい傷を取り去り、刃をより滑らかにするとともに、美しい光沢をつけることができる。

 日々の調理ではすぐに切れなくなるので、中砥石を使って刃先の形を整える作業も必要になるが、今日の調理程度であれば仕上げ砥石だけで充分だ。


 砥石をズレないように板の上に固定し、刃角は15°、包丁は砥石に対して45°になるようにして、押して研ぐ。

 ――包丁を研ぐところを映像などで見た人は、包丁を前後に動かして研ぐというイメージがあるかもしれないが、押すときだけ力を入れるのが正しい。


 包丁の刃が砥石に(こす)れる音が小気味好(こきみよ)いリズムを刻み、それを興味深そうにミミルが見つめている。

 泥だらけになった包丁を水で洗い流すと、鏡面のように輝く刃が現れる。


〈きれいだろう?〉


 磨き上げたばかりの牛刀をみせると、ミミルは「オーッ」と感嘆の声を上げて、数回(うなず)いてみせる。

 ミミルから貰った二双のナイフは赤銅色の刀身をしていて、刃は白銀色をしている。もちろん、磨き上げられてとても美しい姿をしているのだが、工芸品に近い美しさだ。

 だが、包丁は刃面だけが鈍色(にぶいろ)の鏡のように磨き上げられる実用品という違いがある。その良さもミミルは理解してくれているようだ。

 コンロまわりの汚れを拭き取り、火をつけて、刃面をさっと炙り、包丁を仕舞う。


 時計を見ると、地上に戻ってから1時間半ほど経過してしまっている。調理そのものは40分も掛かっていないのだが、食べるのと後片付けに同じくらいの時間が掛かってしまった。


〈片付け終了っと……このあとはどうする? 俺はダンジョンに戻るつもりだけど――〉

〈そうだな、私も戻るとしよう〉

〈ダンジョンでミミルがいた世界の話を聞かせてくれ〉

〈それは構わんが……〉


 ミミルの顔を見ると、どこか不満げに見える。


〈なにかやりたいことがあるのか?〉

〈いや、簡単なことだ。しょーへいに第2層の攻略を進めてほしい〉


 地球の1時間は、ダンジョン第2層の10時間に相当する。

 それだけ時間をたっぷり使えるというのに、第2層を攻略する意味というのはあるのだろうか。

 ミミルは簡単に説明するつもりだろうが、裏になにか考えがあるように思えて仕方がない。


〈ああ、問題ない〉


 短く返事を済ませると、ダンジョンに戻ってからミミルの考えを探ることにした…。


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