第101話
〈 〉 内はミミルの母国語を表しています。
魔力で作ったチャクラムのようなものを使って2頭のキュリクスを倒すと、ドロップアイテムに骨のない肉が出た。
何やら「不公平だ!」等と怒りを爆発させそうなミミルを宥めるのに苦労したのだが、ミミルが倒すと何故か肉をドロップしないのだ。ダンジョン管理者たるミミルには自由にドロップの設定などもできるはず――いや、ゲームではないのでそんな設定などあるはずもないか。
数歩先でミミルがまた雷魔法を使ってキュリクスをまとめて倒している。
大量に殲滅され、落雷しなかったキュリクスは慌てて逃げ出すのだが、俺が魔法の練習をするにもキュリクスを探して移動せざるを得なくなるのだが、ミミルはそのことに気がついているのだろうか……。
ミミルの魔法で黒焦げになって霧散したキュリクスが残した魔石を、2人でのんびりと拾いながら歩く。生き残ったキュリクスが逃げてしまうと俺の練習効率が下がるのだが、魔物が逃げずに残っていれば、こうして気楽にドロップ品を拾って歩けない。痛し痒しというやつである。
十数分かけて魔石を含むドロップ品を拾い終える。俺が拾った魔石が9個、ミミルが拾った魔石が12個なので合計21頭のキュリクスに雷を落としたことになる。
1回目は23頭だった。外れるものもあることを考慮して80%の命中率だとすると25本ほどの雷柱を発動できているということになる。魔物の集団に対して80%の命中率ならかなり勢力を削ぐことができるので楽になるだろう。
問題は……
〈また肉がないではないかっ!〉
ミミルが不機嫌になるところだろう。
だが、雷は非常に高温になるらしい。
自然現象の落雷では瞬間的に1万℃を超えるというのだから、ミミルの雷も高温になるのも予想がつく。黒焦げになるのも仕方がない。
結果的に、雷で黒焦げになるせいで肉がドロップしないような気がする。
〈ミミル、恐らく……〉
声をかけると、ミミルはふわりと髪を靡かせ、こちらに振り返る。不機嫌そうな顔じゃなければ絵になるのだが、残念だ。自分が地球ではトップクラスの美人に分類されるなんて考えたことも無いだろうな。
〈恐らく――なんだ?〉
〈恐らく、落雷で黒焦げになるから肉が出ないんじゃないかと思うんだが……〉
〈い、いや……そんなことは……〉
ミミルは反論しようとしたところで俺の顔を見ると、次の言葉が出てこなくなった。さっき俺が風刃で倒した2頭のキュリクスは肉をドロップしたことを思い出したのだろう。
〈た、試してみることにしよう〉
〈いや、もう周囲には1頭もいないから〉
〈探しに行くぞ、ついてこい〉
闇雲に歩き回ってもキュリクスが見つかるかわからないが、ミミルは「こちらにいるはずだ」と確信に満ちた顔で自分が進む方向に指をさして歩いていく。
だんだん祭壇から遠くなっていく気がするが、別に祭壇周辺でないと狩りができない――などということはない。
ただ、朝焼けを見て“雨が降るやもしれん”と言っていたのはミミルだ。傘など当然持ち歩いていないので、もし降ってきて濡れたりすると……まぁ、地上に戻って風呂に入ればいいか。
自己解決した俺は、ミミルの後を追うようにして駆け出す。
生い茂る草の高さは150cm程度あって、ミミルの身長よりも高い。ミミルは草を掻き分けるようにして進んでいるが、ほとんど周辺が見えていないだろう。恐らく、探知魔法のようなものを使って歩いているはずだ。
俺の超音波で探知できるのは半径50m程度だが、ミミルの探知魔法はどのくらいの距離まで探知できるんだろう……。
ミミルが歩いた跡をトレースするようについて歩き、時折停止して音波探知を使う。音波探知のメリットは自分を中心に全方位に向けた探知ができることだが、他にあるのか?
〈しょーへい、このあたりにいるか?〉
〈いや、いないぞ。探知しながら歩いているんじゃないのか?〉
〈私の探知は少し時間がかかるからな。しょーへいの探知の方が早いのだ〉
〈ほう……〉
魔力探知の方法は知らないからわからんが、音波探知の方が探知速度が速いということなんだな。
音の速度は約340m/s。
周辺の魔物に音波が届いて返ってくるまでの時間を考えると、半径50mであれば脳内で処理する時間を含めても1秒以内にできる。魔力探知はそれ以上――ということか。
〈そういえば、魔力視というのを教えてくれるんだよな?〉
〈魔力視は基礎的な技能だからな、覚えておくといい。方法は……〉
ミミルが立ち止まってこちらを見る。
〈魔力を見ることができる薄い膜を通して見る――私はそう想像している。想像して魔力をそこに流すだけだから名前などつけていない〉
――魔法とは想像し、創造するもの
魔法を使うのなら忘れてはいけない大事なことだ。
特に「魔力視」は基本技能であり、とてもシンプルな魔法なので名前もいらないだろう。
心を落ち着かせ、ミミルの言うとおり魔力を見ることができる薄い膜……フィルターのようなものをかけるイメージをつくる。
次に魔力の流し方だ……一瞬だけではなく、継続的に魔力の流れが見えるようにしたいので、蛇口を開いたままにするようなイメージで魔力を流し込んだ。