ミミル視点 第4話
ダンジョンの出口、入口は石造りの部屋になっていて、転移石が設置されている。
私は管理者の部屋からそこへ転移させられた。
出口の部屋はできているが、実は外部とはまだ接続できていない。いきなり穴を開けて出口を作ると、そこに建造物があったときに崩壊させる可能性があるからなのかは不明だが、面倒なことだ。
海底にできた出口なら水圧で勝手に穴があいてくれるのだがな……。
さて、ここから手作業で外部につながる出口を作る。
魔法をぶっ放してしまう方法もあるが、穴を開けた先に建物や巨岩などがあれば色々と問題があろう。
仕方がないので収納庫の中からツルハシを取り出し、部屋の隅から上に向かって穴を掘る。
いくら魔力で身体強化しているとはいえ、どちらかというと魔法主体の私にはとてもきつい作業だ。
鈍い音を立てて土を削り、石を取り除くことを繰り返すこと30分。
ようやく、土の天井を叩く音が軽くなってきた。出口は近い。
更に5分ほど彫り続けると、ガラガラと音を立てて天井が崩た。
私はそこから這い出し、異世界の大地に立つ。
「おや?」
出た場所は何やら庭のようだ。
目の前には木造の建築物……恐らく住居だろう。すぐ近くに扉がある。
空気は少し臭いが、ここに住民がいるということはエルムヘイム人である私もなんとか暮らせる環境なのだろう。
さて、イオニス帝国からこの世界への侵入を防ぐためには、この出口と入口を統合しなければならない。フィオニスタ王国内に移動しても、誰かが踏破した際にこの出口に転送されてしまう。管理者以外に出口から中に入ることはできないので、踏破したその誰かは帰れなくなってしまう。
それなら、私が責任をとってここに残ればいい。事故とはいえ、異世界につないでしまったのは私自身なのだ。
もちろん、この異世界側の出口と入口を統合してしまえば、私はエルムヘイムに戻ることはできなくなる。
だが、これは仕方がない犠牲だ。
私ひとりが涙を飲むだけで、この異世界の住民たちが救われる。
ただ、覚悟していたとはいえ、この作戦ではじめて異世界に繋がってしまったのが自分というのは不運なような気がして滅入ってしまうな……。
穴を目の前にしてそんなことを考えていたら、扉を開けてこの世界の住民がやってきた。
私を見つけるとジロジロと服装などを見ているようだが、どういうつもりだろう。そして大きい……巨人族か?
「ここはどこだ?」
ん?
返事がないぞ……ちゃんと話を聞いてるのか?
「あぁ……ここはどこだ?」
「ガミワ、ンコロノエ……」
何を言ってるんだ?
言葉が通じないのだな。まぁ、ここは異世界なのだから仕方がない。
お、この異世界人、眉を八の字にして困ったって感じの顔をしているぞ。
どうやら、表情は私たちエルムヘイム人と変わらないようだ。
「アリホトコツゼスャヒエ。クムホ?」
「すまん! 何をいってる?」
ああ、この言葉も通じないのか……。
仕方がない……面倒だが、思念で話をできるようにしよう。
ところで、この異世界人、親指で自分のことを指してるのか?
それとも異世界人の私と話すために自分を鼓舞しようとしている?
「アリナ ノモイホ トコツゼ スャヒエ。」
「ちょっとまて」
この異世界人も腕を組んでいるところを見ると、どうしていいか悩んでいるようだ。
「――ッ?!」
手も大きいな……私の顔くらい簡単に隠れてしまいそうだ。
もしもこの男が巨人族だったとしたら、私の手は握りつぶされたりしないだろうか……。
恐る恐るだが、私は右手を差し出す。
手を握らせないと、相手の思念への経路が作れないから仕方がない。
「手を出せ!」
恐らく言葉は通じていないのだろうが、私が手を差し出したのを見て、異世界人が握り返してきた。
ここは魔素がとても薄いが、自分の中に溜め込んだ魔素で対応できるだろう。
つないだ右手から男の中に糸を伸ばすイメージをすると、異世界人と接している部分が熱くなり、そこから光が2人を包み込む。
魔力の糸が相手の男の中に入り、頭の中まで到達した。
成功だ。
これで少しは意思疎通できるだろう。
『いま、なに? なに?』
異世界人が突然の出来事に慌てているようだ。
それにしても、初めて接触する異世界人の言葉でもある程度思念で通信できるとはいえ、とてもたどたどしい。
まぁ、これは私にこの世界の知識が不足しているからだ……仕方がない。
「これで意思疎通できるだろう……」
思念に乗せて、この異世界人に言葉を送る。
まずは落ち着いてほしいものだ。
「ここはどこだ?」
『わたし、いえ。みせ。にかい、ねる』
ここは店舗兼住宅ってことか。といっても、ここから見る限り店舗のようには……おや、こっちの庭らしきところからは何もない大きな部屋が見える。
まだ開業前ということだろうか……店内にはなにもない。
恐らく、いまは営業に向けた準備でもしているのだろう。
住居は2階か……。
それにしても、この建物の雰囲気はなにやら風情のようなものがあっていい。
その店の敷地に穴を開けたとなると、なんとなく申し訳ない気分になるな……。
一応、謝っておくことにするか。
「私の不注意で、ここに来てしまった。すまない……」