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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第10章 風刃と雷魔法
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第92話

〈  〉 内はミミルの母国語を表しています。


 客席の縁側にぺたりと座る。

 板の上にそのまま座ると少し冷たいが、そこから身体が冷えるというほどでもない。


 庭に向かって左側にミミルが座り、俺との間に2種類のピザが並んでいる。もちろん、取皿も用意している。

 まあ、食べ慣れないミミルは零したり落としたりして汚すだろうが、先に床へラップを敷いてあるので大丈夫だろう。


 床の上に置いたパドルボードから焼けたピザ生地の香り、バジルの香りなどが漂ってきて、またミミルの腹で虫が鳴き声を上げる。


〈美味そうだ。これは?〉

〈まぁ、ピザと覚えておくといい。イタリアという国の名物料理の1つで、現地ではピッツァと発音する。

 こっちの卵が載った方がピッツァ・ビスマルク。もう1つがピッツァ・マルゲリータだ〉


 順に指さして説明する。

 さて、まだ熱いうちに食べたいところだが、食べ方から教えないといけない。

 イタリアではテイクアウトのピース売りの店やカジュアルなお店以外では()()()()ナイフとフォークを使ってピザを食べる。

 19世紀にナポリを訪れたイタリア王国の王妃マルゲリータに提供したとされるのがピッツア・マルゲリータだが、このとき世界で初めてピザを食べるためにフォークとナイフが出されたという(まこと)しやかな()()()()()。それから着席してピザを食べる際にはナイフとフォークが出されるようになったとか……。

 昔は握り寿司を手づかみで食べるのが当たり前だったのが、今は箸を使うのが当然のようになってきているのと似たようなものだろう。

 だが、ここは日本だ。うちの店は今日のように複数のピザを数名でシェアして食べ比べたりすることも多いだろうから、手で食べていい。

 ただ、やはりボロボロと生地カスを落としたり、溶けたチーズや具を零したりして欲しくないし、美味しく食べて欲しい。


〈こうやって……〉


 取皿を使った模範演技をしてみせる。

 まず、既にカットされたピザの耳を摘み、取皿にスライドさせて移動する。

 次に、フォークを用いて具が乗った部分をピザの耳の方に向けてパタリと折り畳む。


〈最初に畳むと食べやすい〉


 三角形をしていた生地が台形になる。こうすることで、具の乗った部分の生地に厚みがでて強度が増す。


 あとは耳の端を持って取皿から口元へと運ぶ。

 ミミルが零すこと、食べかすを落とすことも考えて取皿で受けるようにして食べてみせるのを忘れない。


〈こうして――〉


 具がたっぷり乗った生地の部分にがぶりと(かじ)りつく。

 ピザ窯の中で高温で焼かれた生地から漂う小麦の香り、バジルの甘く鮮烈な芳香、オリーブオイルの香りがふわりと鼻に抜ける。続いて口いっぱいにトマトソースの旨味と酸味、モッツアレラチーズのミルキーな甘み、バジルの仄かな苦味が広がり、一体となって舌を包み込む。


 ――美味い。


 新品の釜で焼いた試し焼きのピザとはいえ、上手く焼けている。


 5回、6回と顎を動かし、口の中にいるピザを咀嚼して飲み込む。

 右手にはピザが残ったままだが、ミミルが食べ方を理解したか確認しないといけない。


〈食べるんだ。わかったかい?〉

〈よくわかった。手づかみで食べていると美味そうに見えるな〉


 ミミルは期待に満ちた顔をして右手をピッツア・マルゲリータの耳へと伸ばす。

 俺がやってみせたように取皿を左手に持って、ひと切れだけを滑らせて移動させると、フォークで先をくるりと畳む。そのまま取皿を左手で顎の下まで持ってくると、ガブリと(かぶ)り付いた。


 2回、3回と咀嚼をすると、ミミルが大きく目を瞠る。

 口いっぱいにピザを頬張っているのか、下顎を動かしながらこちらを見つめると、少しずつ目が潤んでくる。


『う、うまい……』


 昨夜つくったパスタを食べたとき以上の反応だ。使っている具としてはタリアテッレか、ピザなのかの違いと言ってしまえばそれまでだが、ピザの場合は釜で焼いた芳ばしい香りが加わるので風味も変わってくるからな。

 どちらが好きなのかは「好み」なんだが……。


〈そっか、そりゃよかった〉


 右手に残ったピッツア・マルゲリータを齧り、最後に耳の部分をまとめて口に頬張る。鼻腔へとける小麦の香りと、もっちりむっちりとした食感を楽しむ。やがて塩気の効いた生地の味がゆっくりと舌に広がると、ビールを呷って流し込んだ。


 店の準備を始めてから暫く作っていなかったのだが、特に今日の生地は出来がいい。これはビスマルクの方も楽しみだ。


 早速ビスマルクへと手を伸ばし、取皿へと一切れ確保する。

 半熟の卵が乗っているので汁気が多く柔らかい。丁寧に折りたたんで口に運ぶ。

 モモハムの香りと焼けたピザ生地の香りが鼻に抜けると、旨味が濃厚なハムに半熟卵とトマトソース、チーズの味が口の中で混ざり合う。全体にこってりとした味なのだが、ほうれん草がいい仕事をしていて重くない。

 こちらはガツンと肉の味がするので、とても満足感のある仕上がりだ。

 開店時には自家製ロースハムなども出したいと思っているので、メニューに加えるならそのハムを使って作ることにしよう。


ピッツア・マルゲリータのイメージはこちら


挿絵(By みてみん)

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