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町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第9章 将平の料理
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第88話

〈  〉 内はミミルの母国語を表しています。


 ピザ窯職人の2人組にプレオープン時に招待をする旨を伝えたところ、大層喜んでくれた。

 その後、彼らは1時間ぐらいかけて清掃を済ませると、車に荷物を積み込んで帰っていった。


 こうして考えると、まだプレオープンの案内を出していない人たちがいる。基本、同業の知り合いや友人知人などには既に連絡済みだが、改装工事を請け負った建築業者や関係する職人さんたちはまだ連絡できていない人たちもいるのだ。

 とにかく、案内を印刷して午後の買い物に出る前に電子メールで案内状を送っておくことにしよう。


 さて、今日の業者作業はこれで終了だ。

 ミミルとの買い物の準備をするとしようか。


   ◇◆◇


 事務所でパソコンの電源を投入し、この店の工事に携わった人たちの名刺を追加入力する。この人達にはお礼も兼ねてプレオープンに招待することにし、既に送信済みのメールをベースに案内文を作成して送付しておく。


 作業を終えて時計を見ると12時を少し過ぎたところだ。

 ミミルと出かけるにも丁度いい時間といえる。何せ、昼は外食を約束しているからな。


 事務所を出て、自室の方へと移動する。

 部屋の中に入るとミミルはまた図鑑とにらめっこだ。

 見かけるたびに感じることだが、ふりがながあっても意味までは理解できないと思うのだが、そんなことはないのだろうか?


〈待たせたね。そろそろ出かけようか〉

〈――ん。服なんだが、これでいいか?〉


 ミミルが立ち上がり、くるりと一回転してみせる。

 ふわりと広がったノースリーブの白いワンピースの裾がするりと身体に巻き付いて落ちる。

 透き通るほどに白いアルビノの肌に、純白のワンピースという出で立ちだが、不思議と日本人の肌よりも違和感がない。


〈ああ、とても似合ってる〉

「むぅ……」


 ミミルがじとりとした視線で俺の方を見上げている。

 これはあれだ、少し離れたところだから手が届かないだけで、近くにいたらポコリと殴られてたやつだ。


〈しょーへいはその……誰にでもそんな褒め言葉を使うのか?〉

〈誰でもってわけじゃない。似合ってるから似合っていると言うだけだよ。おかしいか?〉

〈い、いや……なんでもない〉


 ミミルが顔を赤くして俯いてしまった。

 怒らせてしまったのだろうか……これは、ご機嫌をとらないといけないパターンかも知れない。

 それにしても……。


〈でも、こんなに肌が露出していると、日に焼けてしまうんじゃないか?〉


 ミミルはアルビノだ。紫外線に極端に弱い肌をしている。

 この時期は霞んでいることが多いとはいえ、紫外線が最も強い時期だ。肌に強いダメージを与えてしまうかも知れない。


〈魔力で保護膜を作っているから心配はいらん〉

「――へ?」


 保護膜があるということは、外出するたびに紫外線対策をしないといけないと気をつかっていたのは――俺の取り越し苦労ってことか。

 昨夜まで言葉が通じなかったとはいえ、なんだか少し(むな)しい気分になるな。


〈い、いや。このカラーコンタクトとかいうものはとても――嬉しい。ともすれば子どもさえ怖がる赤い目をしていたからな。その印象を和らげてくれるのはとてもありがたい。

 心から礼を言う〉

〈あぁ、うん。それはどうも……〉


 ミミルにとってはやはり赤い目がコンプレックスになっていたのだ。

 カラコンを装着することで解放されるのならそれはそれで僥倖といえるだろう。

 とにかく、屋外の紫外線についてはそこまで気にする必要がないというのであれば、このまま外に出ても大丈夫……だろう。

 もしかすると、俺と同じように余計な心配をして声を掛けてくるオバハンがいるかも知れないが、気にしていたら何もできないよな。


 靴を履いて、2人で店の前の通りに出る。

 前回と同じようにお昼時というのもあって、日差しはきつい。だが、道行く観光客の数は気持ち少ない。言い換えると今の時間帯に食事を摂りに店に入るというのはどの店も満員で行列ができている――ということだ。


 扉に鍵を掛けると、ミミルに向けて手を差し伸べる。

 当然のようにミミルは俺の左手にその白く小さな右手をのせる。


 一瞬、精神的には充分に成熟しているミミルの手を握る意味はあるのだろうか――という考えが頭を(よぎ)る。


 これで街に出るのは3度目だ。

 道路を歩く上でのルール……右側通行や信号ルールなどは理解しているだろう。

 また、この店に戻るためには何がある角を曲がればいいかというのも理解していると思う。

 実年齢は別として、11歳くらいの少女であれば独りでこのあたりの街で歩いていても不思議ではない。あまり縛り付けるのも良くないだろうか……。


〈どうした?〉


 手を(つな)いだはいいが、一向に動こうとしないことを不思議に思ったのだろう。

 まぁ、こういう問題は「本人がどう思うか」だ。


〈いつまで手を繋いで歩くのがいいのかなと……〉

〈むぅ、私の手を握りたくないというのか?〉

〈いや、そろそろミミルも手なんか(つな)がず、自由に歩きたいだろう?〉


 俺の左手を握る力が強くなる。とはいえ、痛いというほどではない。


〈あ、わかった。嫌になったら教えてくれ〉


 ミミルは何も言わず、ただこくりと頷いた。


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