表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
町家暮らしとエルフさん ――リノベしたら庭にダンジョンができました――  作者: FUKUSUKE
第一部 出会い・攻略編 第9章 将平の料理
125/594

第85話

〈  〉 内はミミルの母国語を表しています。


 ミミルの斜め前に座り、俺も朝食をいただくとしよう。

 まずはスープから手をつける。いきなりトルティージャを口にすると、ジャガイモで喉が詰まるかもしれないからな。


 スプーンをソパ・デ・アホ――ニンニクのスープへと滑り込ませる。

 パプリカと焦げたバケットのせいで赤茶色に染まったスープには所々にオイルが浮かんでいるが、気にせず掬い上げる。

 スプーンの壺に溜まったスープからは、ニンニクの芳醇な香りが漂い、食欲を刺激してくる。

 そっと口の中に流し込むと、ニンニクの風味がふわりと鼻腔に抜けて、ニンニクの旨味と生ハムから出た旨味が舌に染み込んでくる。


「うん、美味い」


 塩加減もちょうどいい。

 ミミルもスプーンを口に含んだまま、こちらを向いて目をキラキラと輝かせる。どうやら気に入ってくれたようだ。


『なつかしい』


 遅れてミミルから念話が飛んでくる。

 スプーンが口に入った状態では確かに喋り辛かろう。


 中世欧州、ファンタジーの世界などでよく出る料理――固いパン、干し肉、少しの野菜が入った塩味のスープって、このニンニクのスープやポトフみたいなものだ。

 ミミルがいた異世界でも似たような食文化があるのかも知れないな。


 続いて、スプーンでトルティージャを切り崩し、口へと運ぶ。

 炒めた玉ねぎの甘い香りと卵の風味が口いっぱいに広がると、玉ねぎとジャガイモの甘み、卵のコクと優しい味が舌を包み込んでくれる。なにより、ジャガイモのホクホクした食感が幸せだ。

 やはり、俺は凝った料理よりもこんな素朴な料理の方が好きなんだろうな。


 だが、ピザ窯業者とエスプレッソマシンの業者が来ることを考えるとゆっくり食べてもいられない。

 忙しなく料理を口の中へと放り込むと、最後に残ったニンニクのスープに浸ったバケットだったものを口に入れる。

 バケットが吸い込んだスープがジュワッと溢れ出し、口の中が包まれた。


 ミミルに視線を向けると、目を細め、頬を片手で抑えたまま顎だけを動かしている。どちらも気に入ってくれたんだろう。

 次にトルティージャを焼くときはガーリックマヨネーズを添えて出してやろう。


 さて、そろそろ業者が来る頃だ。

 俺が食べ終えた皿だけでも持って厨房へと移動しておくことにしよう。


    ◇◆◇


 厨房に到着するや否や、窓の外にピザ窯業者がやってきたのが見えた。

 インターフォンを鳴らされる前に玄関を開き、招き入れる。どうやら事故で近くの道路が混み合っているそうだ。エスプレッソマシンの業者の到着は少し遅れるだろうな。


 気を取り直してピザ窯業者の予定を確認する。

 タイルの乾燥状態を確認し、空焼きをして様子を見るそうだ。タイルの内側は既に完成した状態なので空焼きでなくてもよく、ピッツアを焼いても問題ないらしい。

 そうなると、早速焼く準備をしないといけないだろう。

 煙突の場所や薪を置く位置によって特徴があるし、ドーム型なのでどのあたりが温度が高いとか癖のようなものもある。

 開店まであと10日だからな……早めに確認しておくべきだと思うんだ。


 業者の2人組が窯の状況を確認するのを横目に、俺は朝食に使った調理器具をテキパキと洗い、ピザ生地の準備に入る。

 ナポリでは厳格に小麦粉、イースト、塩、水で作るというルールがあるので、俺はそれを守ることにしている。


 まず、計量したピザ用小麦粉をボウルの上で(ふるい)に掛ける。そこから少量をボウルに移し入れ、そこにドライイーストとぬるま湯を入れて混ぜ合わせる。


 小さな手間だが、これをしておくだけで何故か(むら)なくイーストが混ざり合うのだ。


 別のボウルでつくったドライイーストに半分量の小麦粉と3%の塩水を入れて混ぜ合わせる。均等に混ざったら残った小麦粉を混ぜ合わせ、体重をかけて練り上げていく。

 この作業が結構たいへんだ。ある程度生地がまとまると麺打ち台の上で捏ね上げていく。こっちの方が力が入りやすい。


 季節柄、薄らと汗かいてくる。だが、ダンジョンに入るようになったからか、そんなにきつくない。筋力が全体的に上がっているような気がする。これがミミルの言う「身体が最適化される」ということなのだろう。


 さて、生地の表面がつるりとしてきた。これで捏ねる作業は終了だ。ボウルに戻し、濡れた布巾をかけて30分ほど寝かせておく。

 そろそろエスプレッソマシンの業者が来る頃だろうと思っていると、やってきた。

 早速設置場所へと業者を案内し、設置を進めてもらう。カウンター席を客席側に作る予定だが、その中に設置するよう指示しておく。


 そういえば今日はまだコーヒーを飲んでいない。

 こちらも機械に慣れるまでは何度か練習しないといけない。特にカプチーノのフォームには俺も拘りがあるんだ。

 唇をつけたあとがスッパリと切り取ったような美しい断面になるようなフォーム。

 これがベストだと思う。


 おっと、この間に2階へ戻って食器類を下げないといけない。

 あと、ミミルに今日の予定を話しておこう――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓他の作品↓

朝めし屋―異世界支店―

 

 

異世界イタコ

(カクヨム)

 

 

投稿情報などはtwitter_iconをご覧いただけると幸いです

ご感想はマシュマロで受け付けています
よろしくお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ