ミミル視点 第2話
我々がダンジョンを踏破する目的……それは、隣国であるイオニス帝国による異世界への侵略を阻止することにある。
なぜ我々フィオニスタ王国がイオニス帝国が行う侵攻を阻止するのか……それを理解するには、数千年前の歴史を知る必要がある。
エルムヘイムには魔素があり、エルムヘイム人にはそれを溜め込み魔力とする能力と、魔力を使って魔法を生み出す能力をもっている。
数千年前、古エルムヘイム人は食料や鉱物資源、森林資源などを求め、異次元にある多層構造体――ダンジョンへと接続することに成功した。
エルムヘイムは陸地が表面の1割程度しかがなく、その半分は寒冷や高地、火山や猛獣が暮らす密林などで人が暮らせる環境になかった。つまり、惑星全体の5パーセント程度しか、人が暮らすことができる環境がなかったのである。
だが、5パーセントの陸地だと人が暮らすだけならなんとかなるが、食料を得るための畑をつくる場所としたときには不足していた。
その食糧問題を先ず解決したのがダンジョンなのだ。
次に住む場所が必要になった古エルムヘイム人は、ダンジョンの出口を異世界に接続した。
異世界への移民を考えたのだ。
移民先候補の条件はただ1つ。
〝魔素が存在すること〟
魔素があり、それを取り込んだ魔力で魔法を行使する。
魔素がなくなれば、エルムヘイム人は水を出せず、火を使えず、怪我を治療できず、道具を作ることもできない。ただの動物へと成り下がってしまうことだろう。何万年もの間、魔法がある前提で生活してきたのだから仕方がない。
いくつものダンジョン討伐隊が勇んで異世界へと旅立ったが、ほとんどすべての異世界では魔素が薄い、又は存在しないという場所ばかり。
逆に魔素が存在する場所は、灼熱の世界であったり、雪と氷で閉ざされた極寒の世界。
とてもエルムヘイム人が暮らせる環境ではなかったという。
だが最大の問題は、一部の討伐隊が異世界の住民をエルムヘイムに連れてくるという事態が発生したことだ。
エルムヘイムの生態系では猫にあたる生物から進化したと思われる猫人や虎人、獅子人。
同じく犬にあたる生物から進化したと思われる犬人、狼人。
成人してもエルムヘイム人の半分ほどの身長で成長が止まるが、酒と様々な技術に秀でた小人族。
他にも兎人、熊人、馬人、牛人……等々、多数の民族が連れてこられたのだ。
その中でも、ルマン人と呼ばれる民族は繁殖力と環境適応力が強く、エルムヘイム人が住めない場所にも適応し住み着いた。
そのルマン人が作った国が、イオニス帝国である。
イオニス帝国は周辺に点在する各民族の小国に攻め込み、従属させて勢力を伸ばした。
現在では、エルムヘイム人が所属するフィオニスタ王国に肩を並べるほどの大国になりつつある。
イオニス帝国は人口がどんどん増え、新たに開墾して畑を作るような土地もほとんど残っていない状況だ。
そこで彼等が考えたのは、数千年前のエルムヘイム人と同じこと……つまり、移民である。
だが、エルムヘイム人の移民と異なるのは、そもそも彼等は魔法が使えない世界からやってきたので、魔素が薄い世界でも問題なく暮らしていくことができること。そして、手元には魔素を含んだ魔石や魔道具、小人族の鍛冶師が作った高品質な武防具が揃っている。
そこで莫迦な皇帝が先住民の有無など関係なく、異世界を侵略するよう命じたのである。
つまり、我々は数千年前にルマン人を連れてきた古エルムヘイム人の尻拭いのために、ダンジョンを踏破しているのだ。
◇◆◇
このダンジョンの守護者を討伐した我々は、遠くに見えた城に向かって歩いている。
まもなく、城の入口。
だが、城の入口を潜ると、そこはダンジョンの出口になっている。
不思議なことに城に入ることはできない。何かの条件があるのだろう。
これまでに踏破したダンジョンは、私がダンジョン管理者となり、出口を海の中に移動させて沈めてしまうことで、イオニス帝国による異世界侵攻が防げるようにしてきた。
今回も同じ方法を採用する。
ダンジョン守護者を討伐したので、転移石が置かれた台に文字のようなものが浮かんでいる。
この状態で転移石に触れれば、管理者のための部屋へと移動することができる。
もちろん、移動は1名……私だけに限られる。
〈私がここに入り、おまえたちは先に出口に転移する。
その後、私が出口を海底に移動して固定し、確認。ダンジョン管理者の権限で入口に転移、脱出する〉
〈これまでと同じニャ。問題ないニャ〉
エオリアが猫耳を立ててチェックリストを確認し、結果を伝えてくる。
〈気をつけてな〉
〈待ってるね〉
〈姉さま、お気をつけて……〉
ティル、ローネに続き、妹のフレイヤが声を掛けてくれる。
百年以上、ほぼずっと一緒にいるせいなのか、フレイヤは心配性だ。
フレイヤの頭をポンポンと撫でると、私は転移石の横に立つ。
〈では行ってくる〉
4人の方に向いて立ち、私は文字が浮かび上がった転移石に手を乗せ、目を閉じた。