第71話
魔法はイメージ――想像し、創造するもの。
指先に集める魔力の塊は小さくイメージしやすいが、肩口に集める魔力の塊はどうしても大きくなる。
ミミルの説明では大きな魔力の塊を指先の小さな塊にぶつけると、小さい塊が耐えられずに崩壊し、大きい塊の方も潰れてしまう――結果的に一気に音をたてて広がって霧散するらしい。
『ゆび、さき、ねもと、つくる』
「わかった」
とは言ったものの、とても近いところに魔力の塊を作るというのは難しい。どうしても、先に作った指先側に意識がいってしまう。
イメージを固定化するためにも自分で作った魔法名を口にしてはいるが、失敗するイメージが固定化されているのではないかと思うほど失敗が続いた。最初は挑戦した回数も数えていたが、20回を超えた辺りから面倒になってきてやめてしまった。
だが、訓練をはじめて1時間ほどしたときのことだ。
指先に作った魔力の塊を、根元側で作った魔力の塊が弾き飛ばすと、地面に放置されていた弁当箱のすぐ近くに着弾した。
ミミルのように射出した瞬間に衝撃波のようなものは発生しないが、なかなかの速度は出ていると思う。
「おしいっ」
『そくど、まりょく、ふそく。かぜ、まがる』
「そ、そうか……」
魔力に質量があるかどうかはわからないが、エネルギーは大きさと速度に依存するようだ。射出された魔力の塊がもつエネルギー量が大きければ風で曲がってしまうということもないのだろう。
だが、射出する魔力の塊を作り出すだけでもたいへんだ。
更に20発ほど狙いを定めて魔力を放つと、徐々に失敗することなく射出することができるようになってきた。だが、指先と根元の間しか加速距離がないので勢いが出ない。
この“コラプス”でどれだけ自分の魔力が減っているのかわからないが、少なくとも50発くらいは打ち続けているだろう。
ゲームならMP切れを起こしてもおかしくはない。
少し休むことにしよう。
「すこし休憩な……」
『ん――』
どっかと尻もちをつくように腰を下ろす。
ミミルは少し離れた位置で俺の練習を眺めていたが、とことこと歩いて俺の斜め前の位置きて止まる。
『ダンジョン、まそ、もの、つくる。まほう、まそ、もの、つくる』
「――ん?」
突然話しかけられたから一瞬、何を言っているのかわからなかったが、「ダンジョンは魔素で物質を実体化させている。魔法も魔素で物質を実体化する」ということか。
つまり――
「このダンジョンに土があり水があり、空気がある。同じように魔素を使って土、水などを作り出すことができるってことか?」
『ん、そう。みず――』
俺の問いに首肯と共に返事をすると、ミミルはそのまま右の掌に水を湧き出させる。
『て、みず、そうぞう。まりょく、こめる』
「こ、こうか?」
ミミルに言われるまま、俺も右手を差し出すと、その掌に水が湧き出すイメージを作り、魔力を集める。
だが、いまひとつ理解が足りないせいなのか、それとも魔力の扱いに慣れていないせいなのか――俺の掌には水が湧き出さない。
『て、あつめる、ちがう。おす、だす』
確かに掌をイメージしても魔力が身体の中で集まっているように感じるだけだったのだが、掌から外に押し出すようにイメージすればいいのか。
再度集中して、水が湧き出すイメージをしつつ、魔力を右の掌に集め――押し出す。
〝コラプス〟で魔力の塊が飛び出すときのように、するりと魔力が外に流れ出るのを感じると同時、右の掌にとても澄んだ水が湧き出した。
「お、おおっ!」
『おめでとう』
「ミミルが先に手本を見せてくれたおかげだよ。ありがとう!」
実際に目の前で水が掌に湧き出るのを見ているからイメージしやすい。本当にミミルのおかげだ。
つまり、「魔力をこめる」というのは「魔力を集め、事象を発生させたい場所に押し出す」ということなのだろう。まぁ、すべてが同じとは言えないかも知れないが……。
近くで俺のことを見上げているミミルも心做しか嬉しそうだが……すぐに表情が変わる。
『つち、つくる』
ミミルはそう伝えてくると、今度は左の掌にこんもりと土を作り出した。いや、水分がないので土というよりも砂かな。
砂が出せるなら、石もできるはずだよな。
左手を差し出して、掌に小石がもこもこと出てくるのをイメージしつつ、魔力を集めて押し出してみる。ポコッポコッと小さな石がポップコーンのように飛び出してくる。イメージでは掌の中心から押し出されるように出てくる感じなんだが、どうしてだろう。
「失敗かなぁ」
『おして、だす、むら、ある』
「そうは言うけど、難しいんだよ……」
流れ出すように魔力を出そうとしても、呼吸の加減と心臓の鼓動のせいか身体が上下したり、腕が動いたりしてどうしても動きに波ができてしまう。それを最低限にしていかなきゃ斑になるというのは理解できるんだが、本当に難しいんだ――。