表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/594

第67話

 祭壇のような台の上、入口部屋に下りる階段近くに立って、眼前に広がる草原を見渡しているとまだ眠そうに目を擦りながらミミルが階段を上がってきた。


「おはよう」

『ん――』


 先に眠ったのは俺の方だし、ミミルがどれだけ起きていたかもわからない――というか、俺もどれだけ眠っていたかわからない。

 第2層で地上の十分の一になることで与えられる時間が増えるのはとてもありがたいが、第1層で7時間ほど過ごしていると、合計でどれだけ時間が過ぎたのかわからなくなってくる。


 ポケットに入っているスマホを取り出して時間を確認すると、画面表示は14時23分。


 ミミルと買い物に出かけたあと、ピザ窯の職人達が帰っていったのは17時くらい。料理をして食事を済ませたのは20時を過ぎていた。ダンジョンに入ったのが21時だとすると、17時間と23分経過していることになる。

 ダンジョン第1層で7時間、第2層で絵本を読んだりして体感で3時間経過しているとすると、7時間くらい寝ていたということになるだろう。実際に21時にダンジョンに入ったわけではないだろうし、誤差はあると思うが結論としては「充分な睡眠時間は得られた」ということだ。


 そんなことを考えていると、左腕の袖口がくいくいと引かれる。

 視線を向けると、そこにはミミルが少し不機嫌そうに俺を見上げている。


「どうした?」

『あさ、ごはん』

「ああ……そうだな」


 ミミルに返事をしたものの、俺は特に荷物を持ち歩いているわけではない。手に入れた魔石がポケットに入っているだけ……食べるものはミミルが持っている。

 その場に座ると、ミミルがスーパーで買ってきたお惣菜などを広げ始める。目覚めてすぐに鶏の唐揚げやコロッケ、チキン南蛮などを並べられても食欲が湧かない。

 いくつか袋を取り出したところで、ようやくサンドウィッチやおにぎりが入った袋が出てきた。


 俺は迷わずたまごサンドとツナマヨサンドが入った袋を手にとる。一方、ミミルは目の前に鶏の唐揚げを広げ、片手にはおにぎりを手にしている。


「ミミル、それ……」

『――ん?』


 唐揚げをおかずに、唐揚げが入ったおにぎりを食べようとしてないか?


 まぁ、本人に違和感がないのなら別にいいことなのかも知れないが……せめて、少しはバランスというものを考えて欲しい。

 もしかすると、ミミルのいた世界ではそこまで食事に気をつかうことがなかったのだろうか?


「その中も唐揚げだぞ?」

『ん、もんだい、ない』

「バランス良く栄養を摂らないと大きくなれないぞ?」

『――ッ!』


 ミミルは一度(うつむ)くと、顔を真っ赤にして手に持ったおにぎりを投げつけてきた。

 もちろん俺は避けてしまうのだが、おにぎりは昔話のように転がっていく。まだ開封していないので、セーフだ。


『なに、たべる、おおきい、なる?』


 また俯くと、ミミルは念話で俺に尋ねる。

 128歳とはいえ、やはりこの身長にはコンプレックスがあるんだろうな。

 身長を伸ばすにはやはりカルシウムだろう。そしてビタミンDも共に摂取できるのがいい。特にミミルはアルビノだから太陽光を浴びてビタミンDを自己生成するのが難しいからな。


「これと……」


 まず、鮭のおにぎりを手にとってみせる。

 ビタミンDを豊富に含む食品を考えると、すぐに手が伸びていた。他にはマグロや鰹もいいし、キクラゲなどのキノコ類、鶏卵なんかもいい。

 そして買ってきた惣菜の中でカルシウムとなると――。


「これだな」


 残念なことに吸収効率が良い牛乳がない。ハムやチーズを挟んだサンドウィッチを手渡す。

 惣菜という意味では先日買ってきていた「小松菜と油揚げの炊いたん」なんかもいい。


 ただ、これではサンドウィッチとおにぎりを同時に勧めたように見えてしまう。サンドウィッチでビタミンDが摂れるものとなると……。


「よし、これとこれにしよう」


 自分用に手に持っていたツナサンドと玉子サンド、それにハムチーズサンドを持ってミミルに手渡した。

 ミミルは不思議そうに受け取ったサンドウィッチをしばらく見つめ、視線を俺に向ける。


『たべる、おおきい、なる?』

「ああ、大きくなる――と思うぞ」


 ミミルの話だと、幼い頃にダンジョンに入ると成長が止まるという。

 俺のように既に成長しきった状態だと、ダンジョンで暮らすことができるように最適化されるそうだ。

 つまり、ミミルが今からカルシウムを摂取したところで身長が伸びたりしないかも知れないのだが――ここはミミルが暮らした世界とは異なる()()に繋がっている。

 必ずしも同じ結果になるとは限らない。

 本音を言えば、ミミルにはもう少し大きく……できれば一八歳くらいには見える程度に成長してもらえると世間の目を気にしないで済むのでありがたい。だが、そんなに急激に大きくなることはないだろうな。


 ミミルはムフッという声が聞こえてきそうな笑みを湧き上がらせ、サンドウィッチの包装を破いて齧り付いた。


 そういえば、飲み物を持ってきてないな……。


明らかにミミル視点がある話なのですが、別途公開とさせていただきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓他の作品↓

朝めし屋―異世界支店―

 

 

異世界イタコ

(カクヨム)

 

 

投稿情報などはtwitter_iconをご覧いただけると幸いです

ご感想はマシュマロで受け付けています
よろしくお願いします。

小説家になろうSNSシェアツール


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ