4.酒場「血まみれジーニャ」へようこそ
2019.05.06 改稿(可読性向上)
次の日の朝早く。料理店も兼ねた酒場「血まみれジーニャ」の、開店前の店の中で。店を任されている料理人が従業員に一人の新人を紹介するという、普段にはない「儀式」が執り行われていた。
「今日からこの酒場で働くことになった『人消しビーツァ』君だ」
「――よろしく頼む」
……正直なところ、相手は、同業者の中では有名人だし、多分自分のことも知られてるだろう。紹介する必要はあるのだろうかと、そんな風に思っていたビーツァは、いきなり「殺し名」で紹介されたことに苦笑しながら、目の前の、もう一人の従業員に挨拶をする。
――「血まみれジーニャ」。業界では、仕事のたびに必要以上に血を撒き散らすことで有名な殺し名。この街に君臨する組織、アティーツ一家の誇る腕利きだ。
「ふうん。ホントに来たんだ。――なんか、私とは合わない気もするけど、ヨロシク」
ジーニャの言葉にビーツァは再び苦笑する。辺り一面に血の雨を降らすような派手な仕事をするジーニャと自分は、確かに相性が悪いかもしれない。――何せ自分の殺し名は、その標的が生きていたという痕跡を「まるで生まれてこなかったかのように」綺麗にこの世の中から消すことでついた名前なのだから。
そう思いながらも、とりあえずはまあ、来てもいない殺しの仕事よりも、毎日の平和な仕事だろうと、目の前の相手に挨拶を返す。
「ああ、よろしくな」
そんなビーツァの、なんの変哲もない挨拶に、ジーニャはニヤリと笑う。まるで、自分のことを知りながら自然体で接してくる名の通った「殺し名」に、次は実力を見せてもらわないとねと、そう言いたげに。
そんな、どこか肉食獣めいた笑い方を見て、ビーツァは思う。――物騒だけど、見た目は悪くない。まあいいんじゃね? かわいいんだから、と。
この日からビーツァは、この街を仕切るアティーツ一家の一員として、この店の調理人やジーニャと共に、表と裏、両方の「仕事」に当たることになる。それは、ビーツァにとって初めての、シエレイとは違う「仲間」で。
――それは同時に、ビーツァがこの街を「故郷」と定め、骨を埋める覚悟を持って生きていく、その第一歩でもあった。