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第三十四話 暗躍

No Side

 グランハムはこの日、とある人物の来訪を受けていた。自らの自室のソファに横になりながらぞんざいな態度で対応する辺り。グランハムが来訪者に対してどんな感情を持っているのか把握する事が出来た。


「……で? 一体何の用?」

「はっ! この度は……」

「いいから。次関係ない事を言ったら追い出すよ?」


 グランハムの口調は変わらないが圧を感じていた。それを真っ向から受ける男、メグル公爵よりも少しだけ体格が引き締まっているが胡散臭い風貌をしていた。その男は全身から汗を流しながら話す。


「し、失礼しました。では単刀直入に言わせていただきます。メグル公爵を捕らえるべきです」

「なんで?」

「彼が領民に対し不当な扱いを行っている証拠が出てきました」


 その男、同じ公爵であるズーク公爵は身振り手振りを必死に行いながら説明を行う。


「メグル公爵ですが、実は人目に付きやすい領民には優しく振舞っていたのですが実はそれ以外の場所では領民を奴隷のように扱っていたのです! いえ! 我が国で最低の地位にいる戦犯奴隷よりもひどい境遇だそうです! 何たる卑劣! そして、他にも婦女暴行に人身売買、麻薬製造と言った事を行っていたのです!」

「……そうなの?」


 グランハムは完全に信じていないようで眉を顰めている。メグル公爵とズーク公爵、どちらを信じるかと問えばだれもがメグル公爵と答えるだろう。それだけメグル公爵の名声は高く、ズーク公爵の陰湿さ、ずるがしこさは悪名として轟いていたのだ。グランハムも同じ思いであり最初から彼の話を話半分で聞いていた。

 その思いがズーク公爵にも伝わったのだろう。彼は慌てて説明をする。


「殿下! 私をお疑いなのですか!?」

「疑っていないように見える? むしろ君が反逆者にしか見えなくなって来たよ?」


 これ以上は話す気にならないとばかりにグランハムは呆れ気味で立ち上がると部屋を出ようとする。しかし、次のズーク公爵の言葉で彼の動きは止まった。


「殿下、帝位が欲しくはありませんか?」

「……」

「皇太子でありながら陛下は貴方様より妹君のメリエル様を溺愛していています。最近では皇太女としようとしている動きもあると聞きます。その場合、皇配はメグル公爵の長男となるでしょう。メリエル様は彼と相思相愛と聞きます。貴族にありがちな仮面夫婦ではないのです。国中の注目の的となりましょう」

「……何が言いたい?」

「殿下が陛下へとなるためにもメグル公爵には消えていただくべきです」

「……それで俺が帝位に就けるとでも?」

「私が全力を持って支援いたします。メグル公爵さえ没落すればもう一つの公爵など私の敵ではありません。陛下とて私と殿下両方を無下に扱う事など出来ないでしょう」

「……」


 グランハムはズーク公爵に背を向けたまま黙り込む。しかし、その背中には悩んでいる様子がありありと伝わってきた。それを見たズーク公爵は口角を上げて笑みを浮かべた。

 その後、ズーク公爵は長時間にわたって(・・・・・・・・)皇太子の部屋から出てくることはなく部屋を退出する時には獰猛な笑みをうかべているのだった。













「ここが、日本帝国……」


 とある日の深夜、一人の男が小さなボートに乗りアルバ島へとやってきた。パララルカ王国が行っていた貿易は全て停止している為態々アルバ島に向かって行く船はない。そして何よりこの男の不自然な動きからも察せられるように男はとある国の密偵だった。

 近年、パララルカ王国を倒しアルバ島を制覇した国に対して幾つかの国は興味を示した。特に、この男が所属する国家は過敏に反応しこうして密偵を送り込むまでになっていた。

 すぐにボートを岸に上げ船底を破壊する。壊れていたら誰も気にしないだろうという思いの下。

 外套を改めて羽織り、顔が隠れるようにしてこの暗闇に乗じて街へと走る。狙うのはこの近くにある都市だ。夜という事もあり都市の入り口は閉まっていたが男にとっては関係ない。男は右手を腹部に当てると魔力を込めていく。すると彼の全身に力がみなぎっていきそれを確認した男は人間とは思えない身体能力を発揮して都市の外壁を登っていく。

 この世界において魔力を使い、魔法へと昇華させる事が出来る人物は限られていた。例え出来たとしてもそれは使い道に困る程度の物ばかりだった。加えて、ガルムンド帝国を始め各国では科学技術の研究が盛んに行われていた。魔法技術も研究は行われているが誰でも使う事が出来るという科学技術に比べて才能を持つ者しか使えないという魔法技術への関心は薄かった。それでも、魔法を極める事が出来れば男の様に超常と言える現象を起こす事が出来る為完全に廃れているわけではなかった。

 無事に外壁を登り都市に潜入できた男は裏路地を基本的に通り都市の様子を確認する。30分もあれば横断できてしまう程度の小規模な都市であるが表通りを歩く兵と思われる存在を確認していく。


「成程、治安維持はきちんと行われているようだな。都市の人間の表情も明るい。侵略者である日本帝国を受け入れているのか? ……ここだけでは判断できないな。もう少し調べていく必要があるか」


 男は様々な事を観察すると見たことを忘れないうちにメモするべく見つかり辛く且つ、明るい場所を探して都市を歩き始めるのだった。


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