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第十三話 第一次南部領土防衛戦

NO Side

「何?前衛がやられた?」


無法地帯を堂々と進軍していたアクラ・ベル・ブレストラッパー率いる第一軍はその足を止めていた。先行していた騎馬隊が攻撃によって退いてきたという報告を受けたからだ。


「ふむ、山賊は意外と強固な防衛陣地を築いているのか?」


「しかし、敵や防衛陣地の姿は見えなかったと言っておりますが」


「まあいい。取り合えず進軍するぞ。近くで見ないことには何も分からないからな」


アクラはそう言って再び軍をすすめさせるがその足は先ほどよりも少し重かった。既にここまで歩き詰めで兵士の体力を奪いつつあったのだ。


その様子を見たアクラは苦々しそうにしている。


「(兵の消耗が激しすぎる。あの馬鹿王め、正規兵を大して用意しないとか私に対する嫌がらせとしか思えないな)」


アクラは心の中でパララルカ王国国王を罵倒する。現国王は若い歳で活躍するアクラを快くは思っておらずねちねちとした嫌がらせを行っていた。今回の進軍もその一つで山賊を駆逐してそのままアインザックに攻め込めと言われていた。そんなことは直ぐに出来る訳がないが反抗しても王に逆らう不届き者となじられるだけなので仕方なく受けたのだ。


「(副将もほぼ役に立たない無能者。これでは勝てる戦争も勝てないな)」


現在快進撃を続けるアクラとは裏腹に二人の副将は海岸線をゆっくりと進んでおりアクラが大きく突出した状態となっている。本来彼女の予定では三軍が足並みをそろえて進軍山賊を逃さないように北へ追い詰める作戦だったが山賊は北に逃げたり東西へ逃げたりして半数以上が取り逃がしていた。それも副将の進軍の遅さが原因であった。


「(私だけでもアインザックを落とすか?…いや、二万では到底足りない。せめてあと一万は欲しかった)」


アクラは大軍を与えた事に後悔するも後の祭り状態であるのであきらめて騎馬隊が撃破された付近まで進軍した。


「アクラ様。ちょっと言いたいことがあります」


「なんだ?」


そこへ副将よりも頼りがある卓也が話しかけてきた。


「恐らく敵の攻撃は大砲とよばれる物からの攻撃だと思います」


「大砲?」


アクラは首をかしげる。この世界では火薬は存在したが大砲はまだ発明されていなかった。


「火薬を使って鉄の球を撃ちだす兵器です。威力はありますが射程は短いので突き抜ければ攻略できると思います」


卓也はそう言うが実際の所転生者がいるのではと睨んでいた。そして特典が大砲ではないかと。


「(くそ!クラスメイトのどの連中かは知らねぇが必ずそいつを殺して奪ってやるぜ。そしていずれはこの国を乗っ取って…)」


卓也はそう考えていたがすぐに現実を知ることとなる。相手がただの転生者ではなく神に選ばれチート級の特典を貰っているクラスの弾きものだと。




















まず槍兵を前衛に歩兵部隊二千を前進させた。本来は盾を構えて進軍するが敵の工芸には無力とアクラが判断したため小走り気味に前進させる。すると大きな音が断続的に響き槍兵や歩兵部隊が吹き飛び始めた。その音は凄まじくアクラや騎士が乗っていた馬が暴れ振り落とされそうになるほどだ。中には振り落とされて馬に蹴られて死ぬものもいた。


暫くすると砲撃が止むがそこには認識できないバラバラの死体があるだけで生き残った者は後方に逃げた者だけであった。


「まさか、ここまでとは」


その威力にアクラはここを突破する事は不可能だ、と言う結論に至る。この威力では走り抜ける前には肉塊に変わっているだろう。故に別の案をすぐに実行する。


「歩兵部隊を細かく分けろ!横に長く布陣させるのだ!」


アクラは敵の攻撃から少しでも守らすために横長に陣形を作り進める。しかし、敵の攻撃は先ほどよりも多くの音がして横長に配置していた軍勢が直ぐに吹き飛んでしまう。


「馬鹿な…!」


アクラは山賊の攻撃のすさまじさに驚く。既に三千以上の味方が死んでいる。負傷者は千を超えていた。


「…ここは引くしかないか」


アクラはこの状態で戦争を継続することは難しかった。アクラが今率いている二万の軍勢全てで挑めば何とかなるかもしれないかったがアクラの使命は山賊の根絶とシードラ王国への攻撃である。ここで兵を失うわけにはいかなかった。


「…全軍撤退だ!一旦引いてほかの軍勢と合流する!」


アクラがそう声を張り上げたときアクラの近くに砲弾が落ちてきた。現在アクラがいるのは防衛陣地から10km以上離れた場所である。しかし、155mm榴弾砲FH70は最大射程が24km。更に多少の誤差はあれど砲撃手は優秀な者が務めていた。距離が距離だけに少しずれると着弾するころには大きなずれとなってしまうがそれもちょっとした誤差のみであったのだ。しかし、その誤差のおかげでアクラへの着弾は防げたが近くに着弾したことで衝撃が伝わり馬から落ちてしまう。


「くっ!?」


アクラは直ぐに起き上がり周りを見るがそこには砲撃を受けて混乱の極みにある自軍があるのみであった。中には混乱を落ち着かせようとするものもいたがそう言ったやつらには砲弾が飛んできて吹き飛ばしていた。アクラは敵に見つからないようにしゃがみ後方へと退避する。こうなっては敵の攻撃が止むまで混乱は収まらない。ならば今は自分の身を守るために全力を注ぐことにした。


しかし、そう簡単にはいかなかった。


「どこに行くつもりだ?」


「きゃっ!?」


逃げるアクラを突き飛ばし地面に倒したものがいた。その顔を見たアクラは驚く。


「タ、タクヤ?」


アクラはその男、卓也の姿を見て驚くが卓也の目には欲情の色があった。


「…アクラ、今なら好きにしてもいいよな。お前は俺を見殺しにしようとしたんだから」


「ち、ちがっ!」


「まあいいさ。別にそんなことは気にしていない」


卓也はそう言うとアクラの服に手をかける。騎士団団長でありパララルカ王国最強の騎士と言われていても女であり恥ずかしさも持っていた。慌てて卓也の手をどけようとするが卓也は腕を掴み邪魔できないようにした。


「ずっとこうしたかったんだ。アクラの事を犯したくて犯したくて仕方がなかった」


そう言う卓也は鼻息を荒くしてアクラの胸を触る。ほのかに恋を抱いていたとはいえこんな事をされたくはなかったアクラは思考が恐怖に染まった。逃げようとしても力が入らなかった。しかし、アクラは一瞬だけ力を込めて卓也を突き飛ばした。しかし、それほど飛ばず直ぐに立ち上がり寄ってくる。


「往生際が悪いな~。まあ、そんなところも可愛いん…だ…が…な?」


卓也は気づけば自分の視線が空を見ていた。どうやら飛んでいるらしく少しすると頭から落ちた。その隣にはバラバラに吹き飛んだ死体が。卓也はそれを最後絶命した。


一方アクラは飛んできた砲弾が卓也の後ろだったため砲撃から身を守る事が出来ていた。しばらく呆けていたがやがて背を低くして戦場から離脱していった。


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