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第十二話 塹壕による防衛陣地

Ryouta Side


「パララルカ王国が攻めてきた?」


シードラ王国と無事に国交を結び終えた俺が大和に帰還して博美から最初に受けた報告がこれであった。


「正確には我が国ではなく我が国とパララルカ王国の間の無法地帯にですが」


成程、領土の拡大を行ったわけか。


「数は?」


「大よそ五万ほどで軍を三つに分けて進軍しています」


おいおい、五万って…。俺らの国の人口よりも多いじゃないか。これは厄介だな。三軍に分けていることは最悪の場合戦闘箇所が三つになる訳か。これは塹壕と支援放火による近代戦術でも使わないと厳しいな。早速作らせるか。


「朝霞大将。兵の大半を使って構わないから防衛陣地を作れ。作り方は、分かるな?」


「勿論です。必ずパララルカ王国軍が到着するまでには完成させます。それでは早速かからせていただきます」


博美が敬礼して部屋を出ていく。しかし、少しすると扉をノックする音が聞こえてきた。


「入れ」


「失礼します」


入ってきたのは臣民の一人で階級は一等兵、だったかな?二千人も召喚すると全員の顔が判断できないからな。


「キース殿がお見えになっております」


「キースが?」


なんであいつがこんなところ(帝都)まで来てるんだ?自分の領地は良いのか?…まさかとは思うが逃げて来たとか言わないよな?


「分かった。直ぐに向かう。案内せよ」


「はっ!」


一等兵は敬礼してこちらですと言ってくる。俺は予想通りの結末ではないことを祈りながらキースのもとへと向かった。






















ダメだった。


「すまん。防ぎきれなかった」


キースはボロボロの状態であった瞬間にそう言ってきた。キースがここに来ている時点で予想は出来たがこれは不味いな。キースの支配領域はアルバ島の中央あたりだ。その辺まで敵が来たとなると博美に命令した防衛陣地の形成が間に合わない可能性があるな。その場合俺はこの帝都で絶望的な防衛戦をするしかなさそうだ。


「それで、ほかに要はないのか?俺は忙しんだが」


「…あんたの庇護下に入りたい」


…へぇ、それはつまり


「部下になると?」


「その通りだ」


なんで急に言うのかな。もう少し早く言ってくれればいいんだがそれは仕方ないか。


「部下にするのは別に構わないがそれはお前の部下たちは承知しているのか?」


もし承知していなくキースの独断だった場合こいつの部下に反乱される可能性がある。それは避けたい。ただでさえ敵が五万と言う俺たちからすれば桁外れな戦力を投入しているんだ。反乱の鎮圧に人手を取られたくない。


「安心しろ。部下たちはみんな納得している。それにあいにくほとんどの部下は逃げてしまってな。今頃アインザックに行くか身を潜めているか海に逃げたかだな」


「どのくらい部下は残っている?」


「大体百程度だな。殆どが騎士だったり貴族だった者たちだ」


つまり身分が低いものはみんな逃げたと。だが、それでも少ないな。確かこいつ五、六千は率いていたよな?山賊と言うのはみんなこうなのか?


「分かった。取り合えず今は休んでくれ。最悪の場合ここで籠城戦になる」


「そうなったらバリバリ働いてやるよ。なんせ俺がふがいないばかりに現状こうなっているんだからな」


キースは悔しそうに手を握り締める。成程、キースとて苦渋の決断だったわけか。


「いま、俺の所の将軍が兵士を率いて防衛戦を作っている。上手く行けばそこで敵を食い止められる。だが、かなり厳しい状況だな」


…やはり俺も向かった方がいいな。


「すまないがキース。俺も向かうことにした。お前はとにかく体を休めろ。いいな」


俺は返事を待たずに飛び出し南門に向かう。そこにはちょうど軍を率いていこうとしている博美がいた。博美は俺に気付いたらしく乗っていた指揮車から降りて敬礼する。


「総統閣下、どうしてこちらに?」


「気が変わった。俺も向かう。むしろ俺がいた方が早い」


「そうですが閣下にもしものことがあったら…」


「それも今更であろう。敵はここにいる兵の何十倍と言う軍勢を率いている。防衛戦の構築は急務だ」


俺としても人口が減るような真似はしたくない。せっかくここまで来たんだ。


「…分かりました。ただし、敵が来たら後方にいてくださいね」


「勿論だ」


死にたくないしな。


そう言うわけで俺も指揮車に乗り込み防衛戦の構築に向かう。場所は山賊と日本帝国の境目。そこまではそこまで時間はかからない。境目についたがどうやらまだ到着していないようだな。取り合えず防衛戦を作るか。まずは『軍事基地一覧』に何故か存在する塹壕を選択して領土の境より出た形で召喚する。塹壕は何十に渡って作られコンクリートで補強されており後方に砲撃台が設置された。俺はそこに155mm榴弾砲FH70を等間隔に配置する。これを使うのはかなり不本意であるが自衛隊でも使われている物なので良しとしよう。それに今は少しでも威力が欲しい。敵が来ると思われる場所に配置する。しかし、これだと兵士が足りないな。


「朝霞大将、帝都や港町から必要最低限の兵士を残してすべてこの防衛戦に加えろ。ここを突破させるわけにはいかない」


「分かりました。おい!そこの兵士!連絡するんだ!」


博美は敬礼して近くの兵士たちに命令していく。俺も兵士たちに就くべき場所を伝えて配置させていく。他にも榴弾砲や銃の弾薬を召喚していく。全員に行き届くように銃は支給してあるため問題はないだろう。これで抑えられればいいが。


「閣下、悪い知らせです」


そこへ眼鏡をかけた兵士(大佐)が声をかけてくる。そいつはこちらを見ておらず塹壕の向こう側を見ている。


「敵です。大よそ千ほど。前衛と思われます」


それを聞いた俺は双眼鏡を取り出してみる。確かに牙の集団がこちらに近づいている。敵はこちらに気付いていないようでゆっくりとしている。山賊ではないな。全員が同じ鎧を着ているからな。俺は朝霞大将に体を向ける。


「朝霞大将。敵だ」


「了解しました!総員戦闘態勢!」


博美はトランシーバーに指示を出してく。榴弾砲の班も弾を装填して準備をほぼ終えている。


「榴弾砲、いつでも発射できます!」


「よし、撃て!」


俺の言葉に合わせて榴弾砲が一斉に火を噴く。その音に耳を塞ぎ前方を見る。丁度砲撃が命中するところで双眼鏡を除くといきなりの事でかなり混乱しているのが分かった。


「砲撃準備完了!」


「第二射、撃て!」


続けて砲撃すればかなりの敵兵が馬から落ちているのが分かった。しばらくすると馬を置いて敵は後方へと下がっていった。


取り合えず初戦は何とかなったな。早く兵士をすべては位置につけさせないと。


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