ギオル人間界へ
勇者が生まれた。
十年前そのニュースが世界中に知れ渡った。
人間と魔族の戦争は三千年にも及ぶ長いものだった。勇者はそれを終わらせる希望として、人族に切望されていた。そこで十年の長きに渡って勇者の居場所は隠されてきた……のだがしかし。
「ギオル、殺してこい」
魔王城、最上階の99階。
ギオルは父親である魔王から勇者の暗殺を命令された。
「やだよ。なんで俺が」
面倒なことはしたくない。
「ガオル兄さんや、双子に頼めばいいじゃん」
ガオルは、親父の戦闘能力を色濃く受け継ぐ特性を持っていて、とても強い。多種多様な種族が入り混じる魔王軍の中でも最強だろう。
また、双子の妹クエルとケオルは人間を拷問するのが好きなサディストである。
親父は不愉快そうに顔を歪めた。
「ガオルは現在西の王国との戦線を任せている。その任を他に任せることはできない。クエルとケオルはまだ幼い」
俺と二百歳しか違わねえよ! と顔をしかめる。
「その点、いつもふらふらしていて、暇そうなお前なら、どこに行っても国勢に影響が少ない。適任だろう」
「おれ、別に暇じゃないんだけどな」
魔王が禍々しいオーラを放ち始めた。さすがにギオルも冷や汗が流れる。
「貴様一度死んでみるか?」
ゴゴゴゴゴゴゴ
そんな擬音がぴったりな程、城全体が振動し始める。
「やめろ、やめてくれ! 親父! わかった! わかったからさ! 行きます、行きますよ!」
かくして、魔王の次男、ギオルは勇者抹殺に向かうことになったのである。