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Another World  作者: 夏瀬ひろみ
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『奴隷』

受付に戻ると当然のように再び視線が集まった。

日本では考えられない不躾な視線にうんざりしながら、ミーシャに連れられて空席だった受付を使い、登録を再開する。

と同時に、上から綺麗な女性が降りてきた。

明らかに他の者とは一線を画す存在だ。

その女性を見るや否や瞬間ギルド職員は一斉に彼女に向かって頭を下げた。

俺はギルド職員たちの対応から彼女がホートルのギルド長だと推測した。

彼女はダークエルフと呼ばれる種族のようで、特徴的な耳とともに肌は少し黒かった。


彼女の姿を見ると冒険者たちですら静まり返り、全員が彼女に注目していた。

それもそうだろう。

ギルド長が自ら姿を見せること自体珍しいし、ましてや彼女は絶世の美女とも言える容姿をしているのだから。


「君があのマーゼを倒した新人かい?」


決して大きくはなかったその問いかけにギルド内はざわめきに満ちた。

SSランクのマーゼを倒す新人。

唯でさえ注目が集まっているのに、更にこれまでを上回る話題。

おそらくこれから暫くは話のタネになるだろう。

そんな無駄なことを考えていた俺は返答が少し遅れてしまった。

その僅かな差で、俺より先にミーシャが答えた。


「はい、ショータさんはマーゼさんの攻撃を一度も受けることなく圧倒しました。

ジルバ支部長、彼のランクは如何程に…?」


ミーシャのこの一言にギルド内は混乱に充ちた。

ざわめきは更に大きくなり、静まり返ったはずのギルド内は再び喧騒に包まれる。

新人がマーゼさんをただ倒しただけではなく、無傷で圧倒した。

これは流石に大半の者が嘘だろうと思った。

しかしミーシャが嘘を吐かないことは周知の事実であるし、ジルバ支部長もまた唸るだけでミーシャの言葉を一切否定しない。

これが余計に冒険者たちの混乱に拍車をかけた。

ギルド内に様々な憶測が飛び交う中、ジルバ支部長がその重い口を開いた。

その瞬間あれほど騒がしかったギルド内を再び静寂が支配し、全員がこちらの話に全神経を傾ける。


「とりあえず、今はSSランクだね。

SSSにするには本部ギルド長の承認が必要になる。

私だけじゃ、どうにもならない。

ショータだったけか?

突然現れて初日でこんな事をしてくれるとはね。

本当になんてことをしてくれるんだか…。

まぁ、とは言っても君には期待している。

頑張ってくれよ。

それじゃぁ、あたしは仕事があるから戻るよ」


ジルバはそれだけ言い残し、手をヒラヒラと振りながら再び上に戻っていく。

ミーシャはジルバ支部長が見えなくなると直ぐに登録を再開し、ギルドカードを発行してくれた。

ギルドカードはSSランクなので鮮やかな赤で、裏には自分の情報が任意で表示されるようになっていた。

これは身分証明書の代わりになるので冒険者たちはこれを常に肌身離さず持ち歩いている。


ギルドカードの発行が漸く終わった俺は、ミーシャに魔物などの素材の買取はどこでしているのかを聞いた。

現在俺は一文無しで、このままでは当然宿にすら泊まれない。

別に宿に止まれなくても亜空間で寝泊りすれば済む話なのだが、折角街に来たのならやはりこの世界の宿というものに触れてみたい。


「少量で小さいものでしたら受付でも構いません。

量が多かったり大きいものはこの建物の正面向かって右側に素材買取所を設けてますので、そちらでお願いします。」


流石に少し周囲の視線が煩わしくて思えてきたので、礼を言ってから真っ直ぐ買取所に向かう。

アイテムボックスは極めて珍しいらしいので、あらかじめ素材は出しておき、右手にクマの首を、左手で胴体を引きずりながら買取所まで歩く。

勿論アイテムボックスから出した時に周囲が騒がしくならないように、認識阻害の魔法を使うことも忘れない。


買取所に着くと先客居り、料金を受け取っていた。


「おいおい、少なくねーか?

もうちょっと貰えんだろ!」


「いえ、正規の値段ですので。

買取は終わりましたので、お引き取りください」


どうやら冒険者が買取額にいちゃもんをつけているようだ。

今日は随分とトラブルに巻き込まれる。

しかし俺はそれに構わず男を押しのけて、くまをを素材置場に載せる。

こんなものいちいち相手にしていたら限がない。

その行動に受付の男性は驚きで固まり、冒険者の男は顔を真っ赤にしていた。


「おい、てめぇ!

横入りしてんじゃねーぞ!!」


押しのけられた男が大声で耳元で叫ぶから思わず反射で殴りそうになってしまった。

しかし、ここで先に俺が手を上げてしまえば後々とても面倒くさい事になることは間違いない。

俺は手が出そうになったのを自ら制し、適当に相手に返した。


「あんたはもう終わっただろう。

金額も正規のものだって言っているんだ、いちゃもんなんかつけてないで戻れ。

邪魔だ」


背中に斧を背負ったその冒険者はパーティーで行動していたようで、槍使いと魔法使い風の男が加わった。

加わった男たちも俺たちの話を聞いていたようで既に完全に頭に血が上がっていた。

終いには各々獲物を持ち、戦闘体制をとりはじめる。


「ガキがなめてんじゃねーぞ!

怪我したくなかったらお子ちゃまは帰れ」


お子ちゃまか。


「お子ちゃまはお前らだろ。

やってることが幼稚過ぎる。

少しは自分たちの行動を省みたらどうだ」


確か街中での戦闘は禁止だったはずだ。

しかし男たちは完全にやる気で、獲物を構える。


「テメェ」


「くそガキが」


「調子に乗りやがって」


散々な言われようだ。

しかしまたトラブルになってしまった。

今日だけで一体何度目だろうか、考えたくもない。

とは言え向こうがやる気のようだし、こちらもそれに答えなければならないだろう。

それに俺は正当防衛になるはずだ。

もっともそれでも面倒な事情聴取が待っているだろうが。


「おい、待てや小僧」


声を掛けてきたのはギルド内に居た冒険者たちだった。

実は俺がギルドを出てくる時から後をつけて来ていた。

途中俺を見失ったようだが、ここで再び偶然・・見つけて声を掛けてきたようだ。

最も俺の持っているその死骸に目を剥いてこれまで声をかけるタイミングを失っていたようだが。

人数は13人、すべて男だ。


「お前みたいなナメクジがマーゼさんを倒しただ?

笑わせんじゃねーぞ。

ミーシャさんとも親しそうだったしよー。

新米が調子にのってんじゃねーよ。」


余りにも予想通りの言葉過ぎて、つまらない。

俺はあの受付嬢に一切興味は無いし、マーゼを倒したということも別に信じて貰えなかろうが関係ない。

しかしこれからもこんな事が続くのは御免被りたい。

したがって、ここで一度全体に警告しておくことにした。

俺に手を出せば地獄を見る事になるぞ、と。


「俺は別にミーシャに興味なんざ無い。

それにマーゼを倒したかどうかはお前たちの好きなように思えばいいだろう。

信じようが信じまいが俺には関係のないことだ」


まさに売り言葉に買い言葉。

端から見たら俺はいきがっているだけにしか見えないだろうが、こうすることで相手を煽り向こうから手を出させる。


「それと、お前らから仕掛けてきたんだ。

やるならそれなりの対価を払ってもらう。

もし俺が負けたら俺の財産は勿論、俺は奴隷落ち。

お前ら全員が負けたら、お前らの全財産は俺のもので、お前らも奴隷落ち。

ただしお前らは誰か一人でも立っていたらお前らの勝ちでいい」


完璧に嘗めた条件だが、俺が負けることは絶対にないので初めから賭けですらない。

つまり、俺にとっては無条件に儲けられるチャンスだ。

悪いが俺にとってはこいつらの価値など0に等しい。

どうなろうと知ったこっちゃないし、それに元はと言えば向こうから吹っ掛けてきた喧嘩だ。

俺はそれを利用したに過ぎない。


「てめぇバッカじゃねーの?

いいぜ、その条件乗ってやるよ。

ドン底ってもんを教えてやる」


男たちは勝ちを信じて疑わないようで、下世話な笑みを浮かべている。

全くバカはどっちなのか。

何故一見不利な方からさらに自分を不利にする条件を出してきても疑い一つ持たないのだろうか。

逸そここまで来ると哀れだな。

俺は魔法を行使して契約をとった。

これで奴等は約束を蔑ろにできないし、俺もこの契約に縛られる。


「お前らから来い。

相手にしてやる」


俺はなにも持たず、構えもとらずに大きな隙を作り出した。

怪訝そうな表情を浮かべたが貰ったチャンスだと案の定その隙を狙って一斉に動き出した。

とはいっても軍隊などとは違ってただの寄せ集まりで、統率も連繋もなにもないお粗末なもの。

結果、俺が全員を片付けるのに1分もかからなかった。

その上俺は始まってから一歩も動いていないし、自分の武器も使っていない。

近距離では格闘での応戦と魔法使いには敵の武器を奪って投擲しただけだ。

死者を出すと面倒が増えるので、死者は出さずに終わらせた。

死んでいないだけで瀕死はいるが。

暫くすると、騒ぎを聞き付けた兵士がぞろぞろと出てきた。


「何事だ!

街中での戦闘は禁止だぞ!」


なんというか、兵士はみんなこんな感じなのだろうか?

はっきり言うと無能すぎる。

当事者以外にも見ていた人がいたのだから第三者に聞いた方が正確な情報を得られるだろうに、真っ先に俺に向かって全員で突っ込んでくる。

当然見物客の何人かはそそくさと去っていく。


「そいつらが武器をとって襲ってきたので反撃しただけです。

詳しくは一部始終を見てた第3者に聴いたらいいんじゃないですか」


俺は投げやりな返答をし、兵士から目を反らしてギルド職員に視線を向ける。


「素材の買い取りはまだですか?」


さっさと終わらせてほしいという気持ちが相手にも伝わったようでギルド員は直ぐに仕事に取りかかった。

兵士は俺の態度に怒りを露にしていたが他の常識ある兵士が抑えていた

そして中から一部始終を見ていたギルド職員の一人がやっと落ち着いた兵士に説明を始めた。

その話のなかには勿論のとこ奴隷や財産の件も出ていた。

今日の稼ぎはどれくらいになるのだろうか。

俺はそんな下らないことを考えながらこの退屈な時間を凌いだ。


結果から言えば男たちの財産だけで、大金貨5枚、金貨9枚、小金貨8枚、大銀貨6枚、銀貨5枚、小銀貨2枚、銅貨7枚、鉄貨3枚分、日本円に直すと59,865,273円になった。

奴隷落ちした冒険者のなかに元貴族の息子がいたためこれだけの大きな金額になったようだ。


そこに加え、男たちを売った金額で金貨7枚、小金貨8枚、大銀貨6枚、銀貨1枚、小銀貨2枚が追加。


また討伐したくまの買い取り金額が金貨1枚、小金貨3枚、金貨6枚、大銀貨3枚、銀貨4枚分になったのですべてをトータルすると、大金貨6枚、金貨9枚、小金貨0枚、大銀貨6枚、銀貨0枚、小銀貨4枚、銅貨7枚、鉄貨3枚になった。

他にも装備品や冒険者が所持していた家や奴隷も手に入った。

家はこのまちの一軒を残し他はすべて売り払い、奴隷も数名を除いて解放した。

今回俺が潰した冒険者達は全員Bランクや、Aランクと意外と腕の立つ冒険者が多かった為、稼ぎがよく金をかなり持っていたらしい。

故に今回のことで俺のもとには一気に大金が入ったというわけだ。


その後俺は暫く兵士に連れられて兵舎で事情聴取をされ、結局解放されたのは騒ぎから3日後だった。

流石に3日間同じ服は嫌だったので、仕方なく創造魔法で出した。

結局創造魔法を使うのであれば、最初からこうすれば良かったかもしれない。

そうすれば街の入口での面倒もなかったはずだ。

だがまぁ、大金も手に入ったし問題ないだろう。


俺の今の格好は黒のズボンに黒のシャツ、その上に黒のロングコートという、全身黒ずくめの怪しい格好だ。

そしてコートの中にはM91aやmp5k、G18c等が隠されている。

因みにコートには魔法を付与しており、破壊不能オブジェクトに指定した上、物理攻撃無効や魔法攻撃無効、適温調整機能、完全防汚機能をつけ、裏地には空間属性で大量にものが入るようにしていた。

完全に壊れ性能だ。

このコートだけで一生遊んで暮らせるだけの金が手に入る。

それをなんの対価もなしに簡単に作り出せてしまうのだ。

やはり俺の魔法は相当常識から外れている。


服を変えたはいいが、結局目立つことに変わりはなかった。

なぜならこの世界にロングコートというものはなく、魔法使い達はローブを使っていたからだ。

だが俺にはそんな些細なことはもうどうでもよかった。

今度いい素材が手に入ったら鎧を造るとしよう。

そんな事を考えながら次の行動を決めた。

次の目的地はダンジョンだ。

しかしダンジョンに潜る前に奴隷をどうにかしなければならない。


先も述べた通り冒険者達から貰った財産の中には、奴隷も含まれていた。

なのでダンジョンに行っている間彼ら達だけで生活できるように、冒険者から譲り受けたこのまちの家に奴隷を集めて、一先ずの生活費を渡しておく事にした。

奴隷は数居た中から5人を残して、あとは全員解放。

残った5人は男が3人、女が2人で全員それなりに使える奴等だ。


と言うのも、この世界は教育が進んでいないようで計算ができる人はそれほど多くなく、識字率もお世辞にも高いとは言えない状況である。

そんななかで彼らは計算もでき、字の読み書きもでき、男だったらある程度は戦えるという、希な人材だった。

それも全員若く、一番年長で19歳(男)、年少が16歳(男)と俺と同年代だ。

彼等にはまだまだ成長の余地がある。


彼等の以前の主人がかなり乱暴だった者も居るらしく、主人が変わることに不安はあるが何処かホッとしたような表情をし、微かな希望を目に湛えている者もいた。


それに残った5人の男女ともに全員がかなりの美形で、必然的に女は前の主人に性行為をさせられそうになったらしい。


だが、買われて日が浅く、強い抵抗でなんとか犯されずにすんだと言っていた。


集まった彼らに生活費として金貨2枚と、衣類を渡すと奴隷たちに驚かれた。


「いいんですか?

こんな大金を預けてしまっても?」


「僕たちが逃げ出すかもしれないんですよ?」


などなどだ。

そんなに驚かれても俺はこれが普通だし、逃げたいのなら逃げればいい。

例え逃げ出したとしても、俺が後を追うことはない。


「逃げたいのなら逃げればいいさ。

俺が帰ってきたあとでも、解放されたいのであれば言えばいい。

解放してやる。

それと他の奴等が奴隷をどう扱うのかは知らんが、俺はお前らに奴隷だからといって貧しい生活をさせるつもりはない。

例え奴隷であっても等しく人であり、人権がある。

生きる権利が、幸せになる権利があるんだ。

これが俺の考えだし、誰に何を言われようが変えるつもりはない。

それと俺はこれからダンジョンに行く。

いつ戻ってくるかわからないからその金で生活していてくれ。

足りなかったら俺の寝室のベットの横に金貨が十数枚あるからそれを使ってくれて構わない。

言っておくが帰ってきたら死んでいたとか勘弁だから確りやっておけよ。」


ここまでの話で俺は奴隷たちに呆れられていた。

どうも俺のやり方はこの世界じゃ変わっているようだ。

それと俺がいない間、皆でトレーニングをしておくように言いつけておいた。

そのために必要な防具や武具も人数分用意してトレーニングメニューも渡してある。

俺が持っている知識のなかには謎の知識があるので、これから経験を積みながら色々と学んでいく必要があるだろう。

それにそろそろレベルも上げた方が良いだろう。



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