『始まり』
目が覚めると草原の真ん中にいた。
遠くには山が見える。
「どこだここ?」
俺はゆっくりと立ち上がってあたりを見回す。
そして思い出した。
「ここはキャラメイクで俺が選んだ世界じゃねーか?
てことは・・・」
足元に目を向けると鞘に収まった一本の刀が落ちていた。
俺はそれを拾うため少し歩き、立ち止まった。
腰の部分に明らかな違和感があったからだ。
腰に目を向けるとSMGがあった。
MP7a1だ。
しかもなぜかレーザーサイトとサプレッサー、拡張マガジン、ホロサイトがついている。
そしてご丁寧にホルスターに入っていた。
ホルスターはこれ専用のようだ。
今度は右腰に意識を向ける。
そこにはMP7のマガジンが5つ入っていた。
サブウェポンが動きの邪魔にならないことを確認し、刀を拾い上げる。
拾い上げたそのままの自然な動作で鯉口をきり、刀身を一気に抜き放つ。
刀身は陽光を浴びてギラギラとその存在を主張していた。
綺麗な波紋も見て取れる。
俺はじっと刀を見つめた。
すると突然目の前に文字が表示された。
日本刀・・・ほかの剣よりも切れ味が良く、刺すことにも優れている。ただし、他の剣に比べて折れやすく、刃こぼれしやすい。
希少度・・・一般級 レベル2
どうやら説明してくれているようだ。
刀を鞘に戻し、今度はMP7に目を向け、集中する。
するとまた説明が出た。
MP7・・・高いレートと攻撃力を持ち、近距離の命中精度が高い。
希少度・・・神級 レベル1
「差がありすぎだろ・・・」
思わずつぶやきが漏れてしまった。
本来であれば俺はこの世界のことなどまるでわからないはずなのに、一通りの事は既に頭に入っていた。
不思議な感覚だった。
自分の知識なのに自分の物のように感じないのだ。
その知識によると、武器や防具などは等級と呼ばれるもので別れているようだ。
等級は上から順に、
・創世級
・世界級
・宇宙級
・神話級
・天災級
・神級
・天使級
・伝説級
・叙事級
・遺物級
・古代級
・英雄級
・秘宝級
・唯一級
・稀少級
・一般級
・粗製級
ここまでは正にファンタジーな世界と言える。
ここまでゲーム的なファンタジーなら、もしかしてメニューなども存在するのではないかと思い、メニューと心で念じると案の定表示された。
表示されたメニューは複数の項目に分かれており、『装備』『持ち物』『ステータス』『マップ』『設定』『ヘルプ』が表示された。
色々試してみた結果、空中で指での操作もできるようだし脳内だけでも操作できるようだ。
また、持ち物は選ぶと指定した場所に出現したり収納したりできるようだ。
持ち物は大半が武器だった。
装備で選ばなかったその他のものがすべて入っていたのだ。
ステータスについては何度やり直しても、全てが文字化けで何を書いているのか全くわからない。
そのため自分が今強さ的にどのくらいの位置にいるのかもわからない。
マップは正常に機能しており近くに街があることがわかった。
ひとまずの目的地はそこだろう。
ちなみにマップは常に視界に出すことが出来るが、なぜか視野の妨害にはならなかった。
「魔法もあるんだよな?」
世界を選んだ時の説明を思い出し、なんとなく魔法をイメージしてみる。
イメージは手のひらに火の玉が浮かぶイメージ。
すると体のそこから何か暖かいものが伝わってきて、手のひらに火の玉が浮かんだ。
ただし、でかい…。
「イメージで変更できるのか?」
俺の中の知識によればイメージで操れるようだが、この不自然な知識をまだ100%信用するつもりはなかった。
しかしやってみなければ何も始まらない。
手のひらどころじゃない火の玉に小さく野球ボールくらいのイメージを加えると小さくなった。
これで脳内の知識通り魔法の大きさは自由に操れることがわかった。
今度は先ほど伝わってきた暖かいものを意識しながら大きさをそのままに火の玉に集めていく。
すると、赤だった色が青になった。
温度はかなり上がっているはずだが、全く手は熱くない。
これで威力の調整ができるようだ。
魔法を手のひらに浮かせたとしても発射できなければ意味はない。
どこに飛ばそうか迷ったが、なんとなくマップで街のなかった方に飛ばすイメージを加えてみる。
スピードは大体700m/sくらいのイメージだ。
掌にあった火の玉はイメージ通りの方向に無音で飛んでいき、3秒もするとかなり小さくなり、10秒後には全く見えなくなった。
ここで俺は一つの疑問が浮上した。
今俺は700m/sくらいのイメージで飛ばしたわけだが、それが10秒後まで視認できていた。
ということはだ。
イメージ通りの速度でであったとするならば、俺は約7キロ先の野球ボールを視認できることになる。
思わず溜息を吐きそうになった。
どうやら今の俺の体は相当なオーバースペックであるようだ。
「初めから敵なしか?」
俺が気を取り直して街に歩き始めた直後、俺の中に暖かい何かが流れ込んできた。
かなりの量だが、先ほど火の玉に込めたものとは違う感覚だ。
俺の中の不可思議な知識でこれがなんなのかわかった。
わかったが、俺のなかかでそれを否定していた。
俺は何もしていないのだから、それが俺の元に来る訳がないと。
しかしその直後俺が火の玉を飛ばした方向からとてつもない爆発音が響いてきた事で、それが正しいことが嫌でもわかった。
そう、俺の中に流れ込んできたその不思議な暖かいものは、間違いなく経験値だった。
経験値は戦闘を行う事で最も多く得られる。
勿論戦闘だけでなく訓練や料理など様々なことからも得られるが、得られる経験値は戦闘で得られるものに比べると微々たるものだ。
その経験地がこれだけの量流れ込んできたとなると…。
「…急がないと日が暮れるな。」
俺は考えることを止め、何も無かったことにして全力で地面を蹴った。
すると今度は俺の視界が目まぐるしく変化する。
俺のすぐ脇を大木が掠めていったし、正面の木にぶつかりそうにもなった。
無論体を捻って最小限の動きで交わしたが。
しかし流石に二歩目が地面についたとき、俺は全力で停止することを選択した。
ビタっと止まった俺は一人もう二度と全力で走らないと心に誓い今度は歩き出した。
すると歩いている途中で巨大なクマに出会った。
そのクマは金属の鎧を身にまとっていて、体長は軽く5メートルはある。
どう見ても普通の熊ではない。
そして俺と目があった瞬間、その巨体からは想像もできないようなスピードで襲いかかってきた。
普通ならこのスピードで襲いかかられては大半は成す術なく殺されるのだろうが、生憎俺は自分でも驚く程のハイスペックな肉体を持っているようなので、焦ることすらなく冷静にそのクマに対応することができた。
「先に仕掛けたのはそっちだからな。」
俺は刀ではなくMP7をホルスターから引き抜き、一発右足に撃ってみた。
ピュシュンッというサプレッサー独特の高い音が響く。
まさか異世界に来てこの音を聞くことになるとは思わなかった。
着弾直後、右足が肉片をまき散らしながら吹っ飛んだ。
右足を突然失ったクマはバランスをとることなどできずに勢いそのまま地面に滑り込む。
「…MP7の威力ではないな。」
あまりの威力に驚きながら、サブウエポンをMP7から片手剣に変えた。
するとに鞘に収まった片手剣が腰に装着された状態で現れ、同時にMP7とマガジンは消えた。
この装備機能はかなり便利かも知れない。
俺は片足がなくなったくまの下まで歩きながら、装備メニューについて調べた結果、メニュー画面の『装備』で変更すると自動で装備してくれるようだが、メインとサブの2つまでしか装備メニューでは装備できないようだ。
ただし、『持ち物』から選ぶと装備できる数に制限はないようだ。
だが、自分で装備しなければならないし、銃のホルスターなども自分で作らなければならないようなので戦闘中で急に変更するなどでは使用できないだろう。
俺は日本刀を鞘から抜き放ち、一太刀で倒れているクマの首を切り落とした。
クマを殺すとまた経験値が俺の中に流れ込んできた。
俺はクマにに視線を向け、ステータスと念じる。
すると今度はくまのステータスが現れた。
これも自分の中にある知識でわかっていたことではあるが、やはり突然表れると少し驚いてしまう。
表示されたクマのステータスは文字化けしていなかった。
*
グランド ベアー
LV 45
HP 135
MP 50
Str 270
Dex 300
Vit 200
Int 225
Agi 240
Mnt 120
スキル
剣術LV14
威圧LV19
属性
基本属性(風、土)
称号
森のリーダー
*
どうやらこのくまはグランドベアーというらしい。
そしてこの森のリーダーだったようだ。
「統率者であるリーダーでこんなもんなのか?」
まだ自分のステータスを確認できないので何とも言えないが、少なくともリーダーがこれなら随分と楽にいけそうだと思った。
知識によればグランドベアーのステータスはそれほど低いものではないようだ。
寧ろ高い方であるらしい。
グランドベアーはユニーク個体というグループに部類され、これの下にアースベアーというのがいるらしい。
ということはだ。
俺のステータスが俺の想像以上に高いということが考えられる。
まぁ、高い分には困らないから良いんだが、目立つ事になりそうだ。
しかし、まず第一に自分の力を把握してコントロールできなければ話にならないだろう。
いつまでも自分の力に振り回されているのでは困る。
とは言っても先ほどのように魔法を飛ばせば大惨事を引き起こすかも知れないし、体を動かそうにも全力を発揮できないなら意味がない。
どうしたものかと暫く悩んだ末、魔法で別の空間は作れるのではないかと思い付き、頭の中の知識を元にイメージを脹らませ試しにやってみた。
結果、できた。
正直できるとは思ってなかったので思いっきり戸惑った。
目の前に突如ゲートらしきものが現れ、真っ暗な世界へと誘っているのだ。
しかしこのままにしていてもなにも変わらないため、恐る恐るゲートを潜ってみた。
ゲートを通ると普通に明るく、ただ何もない空間だった。
光源も無いのに明るいのは不思議だが、魔法だからということで納得した。
早速訓練を始めようと、手始めに魔法を使ってみる。
水魔法で水の弾丸を生み出し、高速で射ち出す。
すると魔法が床に当たった瞬間ゲートを潜る前の元の場所に戻されていた。
なぜ戻されたのか原因を考えると、一つの原因にたどり着いた。
それは俺が空間を作成する上で強度に対する条件のイメージが足りなかったということだ。
例え強度のイメージが不十分であったとしても空間は作れる。
だが、俺の全力の魔法には流石に空間が耐えれない。
そのため作られた空間が崩壊し、元居た場所に戻されたのだ。
下手をすれば俺は空間の間に閉じ込められていたかもしれない。
そして空間に入ってみてわかったのだが、とりあえずで作ったためか中に入ると狭くて、魔法以外においても全力の力を発揮できないこともわかった。
これについてもイメージと込める魔力量で自由に調整できるので問題はない。
さらにここまでの流れで、自分の力を把握するには思っていた以上に時間が掛かりそうということもわかった。
なので、出来れば時間の進みを遅らせた空間が望ましい。
時間軸を遅らせる序でに、空間内で俺が飢えや睡眠等があってはトレーニングに集中できないので、そこもカットしたい。
これらを踏まえたうえで、イメージを確りと持ち、もう一度魔法を行使する。
するとさっきと見た目は変わらないゲートが現れた。
見た目は変わらないが、中はさっきとは比べ物にならない。
ゲートを潜りさっきと同じ魔法を放ってみるもビクともせず、空間が壊れて戻されることもなかった。
時間軸の調整も無事に行えた。
向こうの1秒がこっちの空間の1年になるように遅らせ、肉体の老化なども向こうの世界と同じように進むようにした。
つまり、この空間に30年いたとしても向こうではたったの30秒しか経過せず、肉体の老化も30秒分でしかない。
これでゆっくりじっくりと力に慣れることができるだろう。
さらに、空腹や喉の渇き、眠気なども感じることなく、いつまでも集中できるようにも無事にできた。
しかし流石にここまで来ると自分が異常ではないだろうかと思えてくる。
知識によれば俺は難なくこなせていた魔法も、この世界では超難易度のものもあったらしい。
「まぁ、他人がどうであろうと関係ないか」
若干自分が異常なような気もしてきたが、どうでもいいことなのでトレーニングを開始することにした。
魔法の全力行使から、オリジナル魔法の作成、武器の素振り等々…。
やり始めるとどまるところを知らず、自分が満足できるまでやってしまった。
結局、俺が元の世界に戻ってきたのは、創造空間でおよそ200年が経ってからだった。
本当に時間軸をずらしておいて良かったと思う。