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2:何処か、何時か、何度目かの運命の出会い。

これで何度目だろうか。

目の前にある大きな城門を見つめ、ロイは思わずため息を漏らした。


それは別に、王様が嫌いだからではない。

それは別に、あのポンコツ姫君に会うかと憂鬱に思ったからでもない。

それは別に、この城に来るためにわざわざ三日三晩馬を走らせたからでもない。


「いや、もちろん。それもあるんだけどさ・・・」


別に、セリアやジニと別行動だからでもない。

なにより、ロイは目の前の張り紙(・・・)に文句を言いたいのだ。




『王の持病が悪化したので、今日はお休みにします』




ーーふざけんな。




痔の痛みで王座に座れないだの抜かした王様のせいで、今日の予定が半日も空いてしまった。

特にする事もないので、せっかくだから王都を満喫するとしよう。



※※※


今からちょうど三日前、セリアとジニと三人で暮らしていたロイのもとに王様からの手紙が届いた。

しかも、その内容が『七日後に新しい勇者のお披露目するから、前日までには絶対に来てねー』と言う何ともフランクリーなものでーー


『急だな!?・・・まぁ、あの王様が事前に知らせてくれただけでもーー』

『あの、ロイさん・・・この七日後ってもしかして・・・』

『たぶん、この手紙を書いてる日から計算したんだろうな・・・って、待てよ、王都で出した手紙がここに来るのは早くて三日後・・・』

『わぁー・・・』

『いや、始まりの村(ここ)から王都までぶっ飛ばしても三日かかるんだぞ!?今から出ないと間に合わないじゃねぇか!!』


と、全力で突っ込み『手紙出すの遅れてごめんね、最近痔がひどくてそれ所じゃなかったの』という一文で怒る気力すら失った。

最初はそれなりに威厳のある王だったのだが、最近は遠い親戚の叔父さんレベルにまで威厳が薄れてきている。・・・これも平和ボケと言うやつなのだろうか。


などと考えている暇もなく、セリアの父に馬車を借り、それに乗って三日間碌に休まずここに来たのだ。

ぎりぎり約束の日に間に合ったというのに、肝心の王様がお休みでは意味がない。


「恐らく、ユータにお披露目会のアドバイスをさせたかったんだろうが・・・」


許せユータ。お前を勇者として送り出そうとしている国の王はそんな奴だ。

俺もこの二年間、月一で送られてくる王様からの内容のない手紙に苦労させられたのだ。

少しだけだが、同情してやる。




そんな取り留めもない事を考えながら王都を歩いていたロイだが、背後に不穏な気配を感じ意識を集中する。

ーー敵は一人、歩き方からして恐らくは女の亜人だろう。それも飛行種。

純粋な人間に比べ、種族特有の移動手段を持つ亜人は歩き方の癖が強い。

そも、亜人とは動物と人とのハーフのようなもので、その祖先は動物との共生を目指したノーヴェ共和国に由来するらしく、ノーヴェ共和国以外でみられることはほとんど無い。

奴隷かスパイ、まぁそんな所だろうとあたりをつけ、ロイは人通りの少ない場所へと誘導する。


王都は王城があるウノ王国最大の都市ではあるがその分貧富の差が大きく、大通りを少し外れればすぐに日の当たらない者たちの住みかとなる。

何人もの視線を受けながら、しかし背後から忍び寄る亜人の女のじっとりとした殺気にだけ意識を集中する。

そのまま進み、この辺で決着をつけようとおもむろに振り返りーー




「ーー逃げられたか・・・」



ほんの一瞬、常に絶やさなかった警戒を切った、振り返りきる直前(・・・・・・・)というほんの0,数秒の間に逃げられてしまった。

ただの魔物やモンスター、スパイなどであれば今のロイから逃れることはできない。

それができたということは、少なくとも今までの敵よりも強大ということになるだろう。


「厄介な奴に目をつけられたな・・・」


立ち止まったロイを狙い、多くのスラム街の住人が集まりだしたため一度大通りへと歩みを進めた。




※※※


「ーーどうだった?例の元勇者とやらは」

「はい、恐らく尾行を始めた瞬間から気が付かれていました。スラム街まで私を誘導していたので、戦闘になる前に離脱しましたが、ほんの少しでもタイミングがずれていれば捕まっていたと思います」

「・・・そうか。まさかそれほどとは」


王都から少し離れた村、ユヌの国とも呼ばれる先住民の集落にそれらはいた。

漆黒の翼をはやした亜人が二人、身を寄せ合うようにして情報を共有していた。

そこへーー


「ーーあら、もしかして約束を破ってまで会いに行ったの??」

「「ッ!?」」


気が付けば、その魔はそこにいた。

すべての美を持ち、すべての精を求め、すべての死をつかさどる者。


「ロイがあなたごときに尾行されるわけないでしょ。あまり勝手な行動をされると、計画が台無しになっちゃうから困る(・・)のよねぇ?」


見るものすべてを惑わす蠱惑な眼差しで見つめられた亜人の女は死を直感する。


「も、申し訳ございません!サキュバス様!ど、どうかお許しを・・・」


妖艶な美女は嗤う。


「ふふふっ、別に私は気にしていないわ。でも、これ以上の刺激は向こうに手札を見せているのと同じ・・・だから、明日の昼まではここでおとなしくしていなさい」

「「は、はいっ!」」



亜人二人の隠れ家を去ったあと、村の外に彼女はいた。

しっかりと王都を見据え、その唇がかすかに動く。



ーーーー魔王軍幹部、サキュバス=スティアの名に懸けて。

ロイ、必ずあなたをーーーーー


そのつぶやきは、ただ虚空の彼方へと。

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