1:元勇者は世界情勢を語る。
すこし更新が遅れました。
すみません。
次回はなるべく早く更新します。
唐突に、隣に座る少女がつぶやいた。
「なぁ、ロイ。そろそろ働こうぜ・・・」
「え?なんで?」
魔王討伐に失敗してから三年後、ロイはウノ王国と呼ばれる、魔王城から一番離れた場所にある王国の、世界で一番大きな村『始まりの村』にある自宅でのんびりーーーーニートをしていた。
今現在、この村の人口は数万人。しかも、そのうち半分以上が冒険者なのでモンスター狩りのクエストはほぼ存在しない。そのうえ、ロイは魔王と交わしたとある約束のおかげで、今までの冒険で知り合ったすべての国の王から莫大な謝礼金を受け取っている。ならば、何をして何の目的で働けと言うのか。
「だって、もうすぐでしょ?----新しい勇者が旅に出るの」
「あぁ、あいつか」
ロイに働けと促す赤髪の少女は、幼馴染でパーティーメンバーのジニである。
もともと力は強く、活発な性格なため、村を発つ際には見送る側だった彼女も、途中から女戦士としてパーティーに参加し、魔王の待つ王座の直前まで共に死線を潜り抜ける大切な仲間となった。
もちろん、ロイが勇者から魔導士へと職業変更させられたことは伝えてあるが、それが神による仕業だとは知らない。というか、言ったのに信じてはくれなかった。
だから、彼女を含めロイの周りの人間は皆、決着がつかなかったロイと魔王が交わした約束により、『魔王は、すべての国へと侵攻していた魔王軍を一度王城へ戻し、次の勇者が現れるまではおとなしくしておく。』代わりにロイが勇者から魔導士へと職業変更したと思っている。
普通に考えれば、そんな理屈の通らない約束など交わすはずもないのだが、この世界の人々は何度現れてもあっけなく殺される勇者たちのせいで、何十年も続く戦争で身も心も疲弊しきっていた。
であれば、弱っている人というのは簡単で、誰かが流したそんな噂を鵜吞みにし、三年間の安寧をもたらしたロイを奇跡の勇者だと褒めたたえた。
「ってことはそろそろ魔王軍が動き始めるってことだよな」
こちらが三年という月日の中で傷をいやし、軍を整えたのと同じく、向こうも準備をしていたに違いない。
そして、あまり知られていない事実ではあるが、勇者と魔王は同じ『世界神』から生み出された存在、いわば兄弟なので、互いに一度だけ信託を受けるのだ。
ーーいや、俺と魔王に関してはもう何度受けたかか分からないけれど。
『やっほーロイ君、暇だから神託聞いてくれる?』
『ヘイ! ロリ君ーーじゃなくてロイ君! 元気? 神様は超元気だよ! 今日も神託聞いてくかい?』
『ねぇ、そろそろ次の街行かないの? もう適正レベルを超えまくってるよ? え?適正レベルとはなにか? そんなの教えられるわけないでしょ?バカなの?』
ーー思い出しただけでもあの自称神様をぶん殴りたくなる。
そのくせ、魔王にだけは勇者が生まれるたびに一度だけしか話しかけていないそうだ。しかも、それなりに神様らしくしていた、と。
そんなことを考えていたせいか、この屋敷に住むもう一人の住人に気が付けなかった。
銀色の髪を肩まで伸ばし、衣服の着こなしやたたずまいから高貴な存在であることがうかがえる、そんな少女が考えにふけるロイの肩に手を置き、なだめるように話しかける。
「ロイさん、顔が怖いですよ? そんなにユータ君のことが嫌いなんですか?」
「え? あぁ、すまんセリア。そうじゃなくって、ちょっとむかつくやつのことを思い出していただけ」
「あぁ、なるほど・・・」
「なに? ロイってばあいつのこと恨んでるの? あたしとセリアはむしろウハウハだぜ? なんたってあいつが変な約束してくれたおかげでいろんな国からお金が入ってきたしな!」
「うん、ジニ、お前はちょっと黙っとけ。会話がかみ合ってない」
馬鹿は放っておくとして、ここはもう一人の女の子ーーセリアを紹介するべきだろう。
ジニがうちの問題児なら、セリアは優等生といったところか。
ジニがパーティーに加わるまでは二人で冒険していたこともあり、ほとんどの事を短い会話で共有することができるほどには信頼関係を築けていると思う。ジニは俺らを夫婦だと言っているが、もちろん結婚はしていない。
生まれつき回復系統の魔法が得意なうえ、父親はこの村の領主なため、華やかな冒険談が好きな貴族どもにとっては格好な鴨だったことだろう。本人もそれらの背景を知ったうえでついて来てくれている。
ーー本当に、彼女には頭が上がらない。
「・・・それで、ロイさんはどうするんですか? と言っても、選択肢はあってないようなものですが」
「ぐっ、わかってるよ。ただ、なんとなくお偉いさん方の言いなりになるのが癪なだけだ」
魔王をあと一歩まで追い詰めた元勇者。
そんな存在を世界が放っておくはずがない。かなり無理を通して世界で一番平和なこの村にいるのだ、有事の際に駆り出されることは覚悟していた。
だが結局戦争などの混乱は起きず、魔王の配下である魔物は撤収したため、人々の安全を脅かすのはモンスターか犯罪者のみとなってしまった。
それもそうだろう、つい最近まで起こっていた魔王軍との抗争で、世界中の国が疲弊している。わざわざ近隣の国と争おうなどと馬鹿な考えを起こす国は存在しているはずもない。
そのため、最後に王城へと出向いたのは二年以上も前の話だ。
ーーだが、その場で発せられた一言が効果を発揮する時期がやってきたのだ。
『元勇者ーーいや、あえてこう呼ばせてもらおう。勇者ロイよ、そなたには次の勇者の旅に付き添ってもらう』