プロローグ
お久しぶりです/初めまして。
猪口茂です。
どうぞよろしくお願いいたします。
「--ーーこれで終わりだ。魔王!!」
勇者と呼ばれた少年は、今まさに一つの物語の幕を下ろそうとしていた。
手にする武器は聖剣『エクスカリバー』。
あとはそれを諸悪の根源である魔王の心臓に差し込むだけ。
なのだがーー
「はいストップ、そこまででーす」
「「え?」」
物語の最終局面、エンディングを目前に控えた状況でのそれは、二人の動きを止めるには十分だった。
「いやー、なんか水を差すようで悪いんだけどさぁ、ちょっといいかな?」
のんびりとした口調で現れたのは明らかに「私神ですよ?」とでも言わんばかりに光をまとった男だった。
ーーご丁寧に「神です」とTシャツにロゴまで入れて。
「「----、------??」」
あまりの展開に頭が追い付かない二人を見て、神は満足そうに顔をゆがめる。
もちろん、勇者にとってその男は顔なじみではあるのだが。
「まずは久しぶりだね、勇者ロイ君。君の活躍は本当にすさまじかったよ」
「----あ、あ・・・・・・っはい」
「でもさぁ、君いまレベルいくつだい?」
そう言われて、勇者ロイはステータスを表示する。
この世界でステータスとは『レベル、職業、名前』の三つであり、いわば名刺である。
何を唱えるでもなく、四角のオブジェを頭上に出現させ、自らもそのオブジェに刻まれた数値を確認する。
『ロイ 勇者 レベル87』
「えっと、87ですね」
「ほぉー、すごいじゃないか!! さすがは僕が見込んだ勇者だ。--それで、そこで固まってる君はどうなのさ、魔王君」
「・・・・・・はっ!? え、えぇっとですねーーーーよ、45です・・・」
突然の展開についていけない魔王だったが、この世界では最上位の存在としてあがめられている神様の問いかけには、かろうじて答えることができた。
だが、その両者の返答を聞いた神はあきれたようにため息をつきーー
「ほらぁー、やっぱりー。ロイ君が魔王にビビッてずぅーーーーっとレベリングしたせいで、すっごいレベル差ができちゃったじゃん!! それなのに最後のあれ何なの!? 『終わりだー』とかなんとか言っちゃってさぁー、見守ってるこっちの身にもなってよね! 最初のころはそれなりに見守る甲斐があってさ、そりゃぁ楽しかったけど。最近は新しいマップに行かなければイベントが起きないことを良いことにレベリングばっかりでなんなの!? 神なめてんの!? てめぇの加護なんか必要ねーですよって感じなの!?」
自分で言っていて熱が入ってしまったのか、神の威厳を全く感じさせない言いっぷりに勇者も魔王も何も言えず、いたたまれない空気だけが漂っていた。
「ーーーそんなんだったら、こっちにも考えはあるんだよ!? もういっそ神様だけでも楽しんじゃおっかなぁーって思って新しい勇者呼んじゃうよ!?」
「何言ってんのアンタ!? そんなことしたら魔王倒せなくなるじゃん!?」
「いいですよぉーだ、神様はもう温かく見守るのは飽きたんで、てめぇら人間が馬鹿やってるのをゲラゲラ笑いながら眺めてやる!!」
「すごい最低なことをはっきりと言いやがった! このバカ神!!」
「はい今バカ神って言った。いったもんね? もう知らないですよぉーだ」
最悪の台詞に最悪の突っ込みをしてしまった勇者には、最悪の結末が待っていた。
唇を尖らせた神様が右手を上げるーーーーその瞬間、世界は光に包まれーーーー
「ーーはい、じゃあバカなロイ君、もう一度君のステータスを確認してごらん」
「え、なにその口調、気持ち悪いんですけdーーって、なんじゃこりゃぁああああああああああ!!!!」
再び表示されたロイのステータス、そこにあった職業は世界にただ一人の『勇者』などではなくーー
『ロイ 魔導士 レベル87』
「うん、というわけで、君は今日から勇者ロイ改め、魔導士ロイだ!!」
「こんのクソやろぉおおおおおおおおお!!!!」
「えっと、その、俺魔王なんですけど? ラスボスなんですけど? 放置なの? ねぇ、放置なの?」
※※※
その後、『あ、勇者じゃなくなったんだし、ついでに聖剣も元の場所に戻しておくね』と無駄な気を利かせた神によって武器も奪われ、完全に戦意を喪失したロイは、なぜか下手に出てくる魔王の言葉に甘え魔王場を後にしたのだった。