表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 新村彩希
掲載日:2016/04/18

 「叫びたいよ、うわああってさ」

「勝手に叫んでろよ」

「そこは引き留めてよ! ああ、もう毎日が憂鬱~」



 とある高校の昼休み。親友であり幼馴染みでもある孝と陽斗は、弁当を食べ終わったあといつも屋上で喋っている。

 毎日の習慣だ。



 「何かさ、僕、最近おかしいんだよね」

「お前は毎日おかしいだろ、言わせんな」

「孝ってそんな毒舌だったっけ!? まあ、いつものことか」



 陽斗はフフフと笑う。孝はイラついて軽く頭を叩いた。叩かれた当人は大袈裟に痛がり、楽しそうな目で孝を睨んだ。



 「何するの、痛い!」

「お前が笑うからだろ。あれ結構ムカつく」

「えー、そうなの、まあいいじゃん。親友なんだから許してよ」

「べつに怒ってはねえだろ。許すとか許さないとかそういうのじゃねえし」

「いやムカつくって怒ってるって意味だから! ……でも、孝は優しいね」


 

 陽斗は伏せ目がちの小さい声でそう言うと、遠くを見た。さっきの調子とまるで違う。孝は長年の経験で陽斗の言葉を待つことにした。

 こういうときのネガティブ陽斗は、堕ちるまで堕ちる。愚痴らせて、楽にするのが一番の方法だ。


 しかし、いつまでたっても陽斗は話そうとしなかった。言葉が浮かばないのか、口を開けては閉じてと繰り返している。

 我慢ならず、話しかけようとした。


 「陽斗、」

「どうやったら悪口ってなくなると思う?」


 どうやら言葉が被ってしまったらしい。だが、陽斗は気づいていないようだ。そのまま言葉を続けている。


 「僕ね、結構悪口言われてるんだ。ほら、チビだしこんな変な性格だしさ。言われるのはまあ仕方がないと思うんだけど、……僕だけじゃなく他の子も」

「……言われてるのか?」

「うん。僕さ、卓球部じゃん? でも、部員数五人しかいないんだ。知ってると思うけど。でね、皆優しいの。僕は好きなの……。でも、僕のせいで、皆悪口言われてる。僕とつるんでるから言われてるんだよ」

 

 「そんなの、最低じゃん」

「どっちが。僕が? 悪口言ってる人が?」

「悪口言ってる人に決まってんだろ。ていうか何だよ、華の高校生までなって、まだそんな小学生みたいなことする野郎がいるのかよ」

「いるみたいね」


 陽斗は淡々とそう言った。孝は何を言えばいいのかわからず、少しだけ沈黙する。


 「……でも、卓球の皆はお前の悪口は言ってねえんだろ?」

「言ってない。皆優しいから」

「そうか。ならまだ良かったじゃねえか」

「良くないよ! だって、僕のせいで皆嫌われてるんだよ! 僕なんかといるせいでさ! 辛い思いするのは僕だけでいいのに!」


 「な、そこまで言ってねえよ」


「ねえ、孝も言われちゃうかもよ? 僕といないほうがいいよ」


 孝はすこし驚いた表情をした。しかし、すぐに先程よりもイラついた顔を見せ、静かにこう言った。


 「それはお前の本心か? 本心なら、すぐにいなくなってやるよ」

「そ、そういうわけじゃないよ。でも、僕なんかといたら」

「僕なんかといたら? 何になるんだよ。そういうの軽々しく言わないんでくんねーかな。本当ムカつくから」

「なんでよ。なんで僕と一緒にいるの」

「お前困ってる人見かけたら助けたいって思わねえの? それと俺、同じ気持ち。きっと卓球の奴等だってそうだよ。お前が困っていて、助けたいって思ってるからそばにいんの」


 「でも、悪口」


「悪口がなんだって言うんだよ。そんなこと気にして友達捨てるの、ただの自己中じゃん。なあ、俺とお前、親友だよな。だったら、悪口ごときで切れる縁じゃねえだろ」


 「そんなもんなのかな」


「そんなもんそんなもん。だから、俺らがいるってこと忘れんな。それでも、本当に悪口が嫌だったら学校休め。でも、そうじゃなかったら来い。俺が寂しい」


 陽斗は涙目になっていたが一瞬で引っ込んだ。吃驚した。孝の顔をまじまじと見つめる。


「な、何だよ」

「……なんかごめんね? ありがとう。ていうか孝が本音出るまで追い詰めちゃった。マジでごめん」

「本音? なんのことだ」

「俺が寂しいって」

「あー? ……あっ」

「本当にごめんね! え、あ、なにそのオーラやめて」

「お前元気になればあー言えばこう言って……ふざけんな」

「わー痛い痛い! 叩かないで!」


 すっかり陽斗は元気になったようだ。孝はホッとする。そして、ちょっとの間空に浮かんでいる雲を見た。


 やっぱり、笑ってるお前といるのが一番楽しい。

 この雲のように、自由になることは難しいけど、少しだけでもその鎖から解放されれば。

 俺と一緒にいて、楽しいと思ってもらえれば、それが一番だ。


 孝は今思ったことを絶対に口に出さない、陽斗に言わない! と誓いながら、そばにいる、そばにいてくれる親友を見て、少しだけ小さく笑った。

悪口、なくなればいいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ