森からの脱出
「はぁぁぁぁぁ・・」
そんな大きなため息をついて、私は痛む頭を支えるように手を当ててよろよろと歩いていた。
体調は絶不調だが、何とかまだ生きてる。
ボッチで森に置き去り(?)にされて今日で5日目。そして、まるで小説の様に可愛そうな事情を抱えた幼い姉弟が私の迷子仲間となって2日が経った。
お姉さんのティンは、光に当たると栗色っぽいゆるふわくせ毛で腰の辺りまでの長さに、淡い桃色の瞳がキレイな女の子。
弟のラダはくりっとした大きな少し青の入った緑色っぽい目をしていて焦げ茶色のサラサラのストレートを背中まで伸ばしていて見た目は女の子みたいだけど、それも男の子って事を隠していたらしいから仕方がないだろう。
が、解せない。可愛い・・・ティンもとっても可愛いが、クラスの上位に入るかなって感じの可愛さだ。ラダの方はなにコレ天使?!ってくらいの可愛さだ。
2人共時折ボーっとしたり泣きそうな顔をしたり、無理に笑みを浮かべたりとしているけど、ちょっとずつでも心を開いてくれているのか、いろいろ話をしてくれるようになったのはなんか頼りにされているみたいでとても嬉しい。
イジメで周りから無視されるのってとても辛いってことは自分の経験上知っている。小さなころの経験は、克服したと思っていても・・・心の奥底に消える事のない傷として残っているものだ。
割ってしまった陶器をどれだけ綺麗に直しても継ぎ目が消えないのと同じ、そういえば想像しやすいのではないだろうか。
幼い子供ってこともあるけど、冷遇されていたと言う2人にはあまり知識は無いようだった。
それでも会話をしていくうちに分かったのは、ここがやっぱり異世界だって事だ。
“日本”や“地球”という名前は聞いたことないって言われたし、苗字やファミリーネームといった言葉もピンとこない感じだった。
それと、横文字苦手で聞き取り理解不能だったが・・この世界にはヴィース何とかって国ともう1つのモンなんちゃらって国の計2つの巨大な大陸、それと小さな無数の島国や諸島があるとかって言われた。
この大陸の地図も見せてもらったし、あの子たちの国がクレマーレというらしく、今自分らのいる大体の位置も把握できたけど、地図にかかれている言葉がわからないから例え印が付いていたとしてもあの子達が行きたいとこってのもさっぱり分からない。
しかも、この世界には魔法があるらしく ――欠けたりするのが嫌だったお気に入りの某海賊モデルのブレスは早々にしまっていたが―― 、水晶ベースに赤青黄のタイガーアイのついたブレスが・・・というより、天然石がこの世界では魔石って呼ばれていて魔力増幅?するそうで、ちょっとコツを教えて貰ったら私にも使うことが出来た。
取りあえず自分が持っていたイエロータイガーアイが雷、レッドタイガーアイが炎、ブルータイガーアイが水の上質な魔石だそうで、取りあえず出来うる限り思いっきり使ったら結構な威力で大木を一本消し去って・・・少し恐怖を感じて3人で思わず抱き合ってしまった。
でも、それも軽く使えば自衛にはなったので、昨日その前の2日はあの2人に薪集めや果物集めとかをやって貰っている間に色々と森の中を探ってみた。
何とか食べれる果物類が自生もしていたので、今の主食はその果物たちだ。と言っても、持ってた食料はあとほんの僅かなのには変わりない。
やっぱりあの虫共だけではなく、獣も居て襲われかけたけど ――恐怖で動けなくって危なかったりした―― 暫くすればその魔法や襲ってくる奴らに対して攻撃することへの罪悪感も慣れてきた。
まぁ、ただちょっとした電撃でしびれさせているうちに逃げるってだけで、生き物を殺してしまうってことは自分には無理だった。
色々突っ込みどころや問題ありまくりだけど、それらはさて置いといて、現在の時刻はまだ早朝・・だと思う。で、ティンとラダはまだ寝ている。
「はぁ・・つ、ついた」
最初はやっぱりなれない野宿で風邪かな?とか精神的負担が全身に回るほど自分って弱かったか?とか思ったけど、日に日に強くなる倦怠感や頭痛に大半の事は些細なことと思えるほどになってきた。
薬もなくどうすりゃいいんだ!!って思ったけど、あの光る花がこの症状を抑えてくれる事に気が付いた私は今日も頭痛が酷くて起きた早々に、花を求めて神殿に来ていた。
酷い頭痛に目までも霞むが、取りあえず近くの花を1輪手折ってその花さら口に含んで咀嚼する。
始めの内は1輪で収まっていたこの体調の不調も、今回は5輪食べてやっと収まるくらい。
1つまた1つと飲み込むたびに、体の中にすーっと何かが染み渡り楽になっていくのが分かる。
そして、最初の時より次の時、前の時よりも今日。なんか、自分なのに自分じゃないような・・・じわじわと何か力が湧き上がるような不思議な感覚が感じられる。
「・・・はぁ・・・ごめんね、今回もたくさん食べちゃった」
茎の部分だけが座り込んだ私の足元に散らばっていて、この神聖な場所の物ってこともあって・・・だれに言うともなしに、そんな謝罪が口から出た。
「ふわぁぁ・・・落ち着いてきたぁ」
ズキズキしていた頭痛も引き倦怠感も感じられなくなった頃、私は漸く立ち上がって思いっきり伸びをした。
神殿に向かって手を合わせてありがとうございますと取りあえずお礼をすると、偶然だろうがふわりと風が動く感じがする。
理解不能な不思議なことばっかりだけど、これも異世界だからとムリヤリ納得する。
「ふぅ。さて、と」
そして、ポケットに入れていた地図を取り出して広げる。
私の好きに使ってくれて構わないと言って譲ってもらったこの地図には、唯一持っていたボールペンでティン達から聞いた地名や人名など色々な書き込みがしてある。
勿論この世界の言葉じゃないので、ティンもラダもこれを見ては首を傾げていてとっても可愛らしかった。
「あの子達が安心できて、自分も・・・・となると、シドラニアとかいうこのでっかい国に逃げた方がやっぱりいいよな」
この国はとても神聖な国らしく、神様の末裔が国を治めている国なのよと、ティンが目をキラキラさせて説明してくれた。
この大陸に住む国民が生きているうちに一度は行ってみたいところ・・らしい。
確かに地図で見ると大陸の左寄りのほぼ中央に位置しており、半分と言っていいのか3分の1よりは大きいのではないかと思う程の巨大な国土だ。
一番東に1つ大陸から飛び出したような国があって巨大山脈で大国とは分断されているし、北には東にある山から流れる小さい川が数本と巨大な川があって北の数国も分断されている。
川が流れ込む形で続いていて、西に私達がいまいるオリエントとかいう樹海の様な森が広がっていて、南にも2番目に大きな国があるけど山脈からの ――北よりは小さめの―― 川と周囲を囲むような砂漠が広がっていてこちらも分断されている。
数えてみれば、シドラニアという国は大小10もある国々全てから山・川・森・砂漠と大きく分けて4つの物で分断されている。細かく見れば小さな無数の山や谷やあって、限りない感じなんで取りあえずは端折りますわ。
同じ地続きの大陸なのに、シドラニアっていう国は他国とは一切隣り合っていないという不思議な立地をしている。
何があるか分からないし、結構でっかくて攻撃的っぽい獣とかいて中々動けなかったけど、魔法の存在のお蔭と・・・まぁ、びっくりして心臓には悪いが、ちょっとした慣れのお蔭で結構自由に森の中を動けるようになっていた。
「あの子らに会えたことは本当に幸運だった」
そうしみじみと思う。
もしも、自分1人っきりだったら魔法の存在だって知らなくって、食料もその内尽きてしまってこの遺跡で最悪死んでたかもしれない。
正直言って笑えないほどゾッとする。
「取りあえずいい人のいる街・・・村でもいいから行きたいな」
水浴びは一応しているから体はさっぱりしているが、そろそろ暖かいお湯が恋しいし風邪をひきそうでシャレにならない。
一応言葉は通じるみたいだが、この世界の言葉すら読めない私がいきなり子持ちになって生活するだけの自信はないし、そんな甲斐性だって持ってない。
自分はともかく、あの子達だけでも誰かいいところに預けて・・・虐待とかされないかしばらく見守ったりしていれば何とかなるかな。
あしながおじさん的な立ち位置っぽいな、それ。
そんなことをつらつらと考えながら、現在の太陽の位置と地図を確認してシドラニアっていう国の方へと向かって森の中に足を踏み入れた。
「・・・結構、大きな町だな」
森から人気がないのを確認してそっと出て、暫く歩くと緩やかな丘の下に結構広い街が広がっていた。
言葉がティンとラダ以外にも通じるかとか諸々の不安もあったが、そろそろ自分の森生活に限界を感じていたし、あんなに幼い子供をいつまでも森で野宿させておくのも忍びない。
「ん~、そろそろあの2人も起きたくらいかな」
ティンとラダの2人には朝起きたら偵察に行ってくるから、遺跡からは出ない様にと昨夜寝る前に言っておいたので大丈夫だろう。
もしものこともあるし、詰め放題の天然石の中からティンとラダに1つづつお守りとして天然石も渡しておいたし ――2人からはこんな高価なもの貰えない!と驚かれたのに驚いた―― 薪の火は切らさないようにしておいたし、食料もハーブティーもおやつのキャンディーも渡してきたから大丈夫だろう。
目は結構いい方で、少し遠いけど街の様子は遠目からでも何とか確認できる。
人はかろうじて米粒ほどって感じだけど、大通りっぽいところには屋台とかもあるように見える。
「・・・よし、交渉あるのみって感じだろうか」
チラリと足元に視線を向けると、電流ぶちかまして仮死状態の・・・やたらと角の立派な奈良に居そうな鹿っぽい動物が2頭転がっている。ただし、色は茶色ではなく黄金色で神々しい。
つい先ほど2頭で争っていたこいつらに出くわして、2頭一気に襲ってきたから思わずビビってちょっと強めの電撃でとらえてしまったのだ。
死んでないよ!ぴくぴくしてるから(多分)かろうじて死んではいない!!
天然石詰め放題の屑石(っての?)でも高価らしいが、そんなん振りまいて命狙われてもシャレにならんし、この鹿どもは重いが休み休みなら引きずっていけない重さでもない。
宿代とまでは言わないから、3人分の当面のご飯が食べれるだけのお金が手に入らないものだろうか。
鹿っぽいモノは急に復活して暴れたりしない様に、前後の足を蔦の様な植物があったのでそれでグルグル巻きにしている。そして、2頭のやたらとご立派な角にも絡ませるように蔦を巻いて、それを肩に担ぐように引きずって歩いている私の腰はちょっと悲鳴を上げそうだ。
ぎっくり腰は一度やると癖になんだぞ!ごら!
「ふ~・・ふぅ~・・・あぁ、ぎづーっ」
ザリッザリッと一歩一歩を踏みしめて歩く私は異質だったのか、街の門の所に居た守衛の様な人たちの内1人が門に向かって歩く私へと近づいてきた。
サブタイトルって・・・難しいですね・・。