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オタクな自分は打たれ弱いんです!  作者: TAKAHA
第一章
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黒き不思議な人





一昼夜私とラダは森の中を彷徨っていた。お父様が持たせてくれた荷物の中に虫除けの薬草袋が入っていたのと、ラダの特殊能力の隠密のお蔭で何とか逃げ切った。


けれど・・・オリエントの森だと言っても万が一にでも追手が来たりしたら、他の森に比べて魔力の強く獰猛な野生動物に襲われでもしたらと、眠ることもできずに飲み物も食べ物もなく私達は今にも倒れそうだった。


動かない頭と霞む視界に唐突に表れたのは、他国では神の森と言われるオリエントの森の深層部にあると言われている伝説の遺跡――――




―――・・と、黒の上着と見たこともない模様の入った白っぽい下衣を纏った1人の人物。




黒に近い短い焦げ茶色の髪にぱっちりとした目は髪と同じ様な吸い込まれそうなほどの黒。全くいないってわけじゃないけど、髪と目の色が同じ人って・・・しかも黒色の人ってことにとても驚いた。


遺跡を背に、まるで私達を待っていたかのようにそこに立つその人の纏う空気が、物語にある神なのか悪しきものなのかは分からないから警戒したけど、優しく声をかけてくれ、警戒心の強いラダがその人を受け入れたことに導かれるままついて行った。


「さ、入って・・・大丈夫大丈夫、とって食いやしないよ」


ついて行った先には暖かな火が付いた竈に、寝具らしきものがあるだけの小さな部屋。

私達を寝具の上に座らせて、その人は葉っぱが敷かれただけの地べたに座った。


そんなところに座るなんて!って思ったけど、私達が座っているこの寝具意外に椅子になりそうなものもなく、申し訳ない気持ちのままその人に言われる通りにしていた。


「・・・あの」

「ん、なに?」

「こ・・ここに、住んでるの?」

「あははは、私?住んでるっちゃー住んでることになるのかなぁ?あ、沸騰したかな」


首を傾げながらそういって私達の向かいに座っている・・・多分、お姉さん?はなんか困ったように笑いながら ――淹れ方が適当過ぎてびっくりしたけど―― 暖かくって今まで飲んだこともない良い香りの美味しいお茶を出してくれた。


「柑橘系のフレーバーティーだよ。ちょっと癖があるけど、砂糖もなくても甘く感じるから・・・駄目そうなら違うの淹れるから言ってね」

「・・あり、がと・・ございます」


声の高さ的にも、胸を見る限りも女性・・・だとは思うんだけど、お姉さんの不思議な服装も男の人が良く履いている下衣と同じだし、底が高い事を除けば靴も膝下まである騎士様が良く履いているような編み上げと似ている。


髪の毛が短いところもだけど、何よりも髪と瞳の色的に見ても別の国の人なんだろうなぁとは思った。


でも、それ以上にお互いの素性も分からず・・・名乗り合ってもいないのに、優しく対応してくれるこの人の優しさに泣きそうになった。

あのおとこに閉ざされた狭い私達の世界の中でお父様お母様だけが私とラダに優しかっただけだったから・・。


「まぁ、自分も良く分かってないんだけどね。本当に突然だったんだけど、自分がここにきて2日目ってとこかな?」


良く分からない単語が出てきたりするから異国の人だろうとは思たけど、軽い言葉だけどど困ったような声色のお姉さんは香りの良いお茶を一口飲んで『お茶口に合う?』って微笑みかけてくれる。


「・・あ、はい。とても、いいかおりで・・・おいしいです」

「良かった。碌なものないけど、チョコパン食べれるかな?」


あの家では ――お母様はともかく―― 私とラダは使用人たちにすらバカにされていた。

あの家で出されていたのはまるで出涸らしで入れた白湯の様なお茶で、お父様があの男の眼を盗んでお母様に差し入れてくれた花茶だけだった。


「?・・・あ、チョコ嫌い?アレルギーとかあったりする?」

「え・・あ・・・いえ、ちょ・・ちょこ?この黒いの?」

「あ~。初めて見る、感じ?」


見たことない物で『黒いのはチョコレートって言ってお菓子だよ。菓子パンっていう部類かな』と言って出してくれた食べ物も、ふわふわのパンと中に入っていた黒い甘いものがとても美味しくて、私もラダも勧められるまま夢中になって食べてしまった。


「君たちは迷子?この近くに民家ってあるのかなぁ?」

「あ・・・えっと、まいご・・です」


一応地図を持ってはいたけれど、もう方向感覚なんてないし、何より地図の見方なんて習ってないから分からない。

地図の事は話すきっけを逃しちゃったけど、取りあえず分かったのはこの人も私達と同じ迷子で、ここで途方に暮れているって事。


「眠いの?良いよ良いよ、寝な寝な」


食べかけのパンを手にしたまま寝てしまったラダをそっと横にし、思わず出てしまったあくびした私を見て、その人は優しく私の体を横にした。


「おやすみ、お互い話はまた明日」

「・・・は、い」


ふっと緩んだ目で私達を見下ろして、優しく髪を梳くように頭をなでるその暖かい掌。

初めて会った人なのに・・・・なんで私達はこんなにも安心してしまっているんだろう。


「疲れてるでしょ。安心しな、大丈夫だから」


ふっと笑って私の頭を撫でてくれたその人の姿を最後に、私の意識は闇の中に沈んでいった。







++++







「むぅ・・・ん?・・・・あ、さ」


眩しい光を瞼に感じて目を空ければ、結構高い位置に太陽が来ている事を知る。


「!」


その事が脳に届くと同時に慌てて跳ね起きれば、私達の荷物は昨日のままでラダもまだ私の横で寝息を立てていた。

寝具から起き上がって部屋の中を見回すけれど、昨日のお姉さんはどこにもいない。まるで昨日の事がうそのようだ気がしてきたけど、竈には火が入っていてその上には葉っぱの中でお水がぽこぽこと温まっていた。


「あ、起きたんだ。おはよ」

「ぴ!?」


驚かしちゃった?ごめんごめん。と、笑いながら扉のない出入り口から入ってきたお姉さんの腕には、小ぶりのレジンやトロベリなどの果物があった。


「よく寝てたから、昨日行かなかった方を探索してたんだよね」


木になってるの見つけたんだけどこれって食べれるのかな?そう言って笑うお姉さんの姿を見て、何故かほっとした安心感で、私の顔にも笑みが浮かんだ。


「そうだ!そう言えば君は名前は何ちゃん?私はアイホウ マコト。アイホウがミョウジで・・」

「みょーじ・・ですか?」


手にしていた果物を綺麗に洗った葉っぱの上に置いてからまた地面に座ったお姉さんは、名乗りつつ私達にも当たり前に名前を聞いてきたことに意図せずに体をびくつかせてしまったけど・・・聞きなれない言葉の方に反射的に聞き返してしまった。


「あ~・・えっと、ファミリーネーム・・家名って言えば分るかな?」


首を傾げながら少し困った顔をしただけで、お姉さんは気分を害したわけでもなくゆっくりとした口調で教えてくれる。

“ふあみりぃねーむ”という言葉は分からなかったけど、言い直してくれた家名ならわかる・・・・だけど、いいのかな。


「マコトが名前・・・あ~・・でも、友達にはアイトって呼ばれてたからそう呼んでね」

「!・・・え、えっと・・」

「?」


私達の世界は本当に狭かったから、私達の常識がアイトさんにも・・・うんん、他の国にも通じるのかは良く分からなくって、私の態度にアイトさんは不思議そうな表情をしている


「どーしたの?あ、おはよう」

「・・・」(ぺこり)

「はい、おはよう。顔洗っといで、一人でいける?」

「あ、わたしがいっしょにいきます」

「・・・」(こくり)

「そう?お茶の準備しとくからいっといで」


眠そうに目を擦りながら起きてきたラダに声をかけたアイトさんは、深々と頭を下げたラダを見て声が出せないもしくは喋れないと悟ってくれたらしく、微笑んでラダの頭を撫でてくれていた。


「ねえちゃま?」

「うんん、何でも・・・」

「ぼくへーきよ?あのひと、あいとすき」

「うん、私もだよ。ラダ」


何故だかわからないけど、アイトさんの側はとても落ち着く。母様以外の人なんて信じれる人なんて誰一人としていなくって・・・なのに、出会ったばっかりでなんでこんなにも信じられるの?安心できるの?そう不思議でならなかった。


「名前・・・教えちゃっても、いいのかな?」

「ぼくはいいよ?」

「・・・・・・」


その後は井戸まで連れて行ってラダの顔を洗わせて、その間に私は色々と覚悟を決めてまことに話すことにした。


「あ、あのっ」


一緒にアイトさんが取ってきてくれた果物と昨日とは違う“ふれーばーてぃー”っていうのを入れてもらった。

昨日も思ったけど、お茶が入っているのは見たこともない入れ物。不思議だなってじっと見たい気も合ったけど、お茶を受け取った私はラダにチラッと視線を向けてからアイトさんに向き直った。


「わ・・・私はシャンティーともうします。ティンと、呼んでください。それと、この子は私ののストラーダ。ラダと呼んでください!か、家名はないです」

「うん、分かった。ティンとラダね・・・・えっと、如何したの?真剣そうな顔をして」


不思議な茶色の短い棒の様なものをカリカリと食べていたアイトさんは、お茶を啜りながらも困惑した様な顔をして私達を見ている。


私達が住んでいた国では、たとえ血のつながった親族でさえ名前は全部名乗らないし、許可がなければすら呼んではいけない決まりになっている。

本名・隠し名又は授け名・家名 ――もっと長い人もいるけど―― とあるけれど、それを全て伝えるのは何らかの儀式や契約などの時だけと決まっているから。


私が“シャンティー”と“ストラーダ”そして“ティン”と“ラダ”って名前と愛称を出してもキョトンとしているってことは、やっぱりアイトさんは別の文化や決まりのある国の人間なのだろう。


自分の居た国以外の国名はちゃんと覚えていないけど、確かオリエントの森はシドラニア皇国他の3つの国に跨っていたはずだし、黒を身に纏うって言われるのはもう一つの大陸のはずだし・・・あ、でもあの国は国民の8割以上が獣人だって聞いた気がする。


「あ、あの・・・私達の国では――」


私達の国では、この人なら信頼できると思った人などには愛称だけではなく名前を名乗るのだという事。


母様達が何を思って私達を逃がしたのかは知らない。でも、正妃やその取り巻きの側妃達が私を蔑むときにこぼしていた言葉の端々から拾うなら、あの正妃の娘と私が同じ年で・・・王太子殿下が婚約者を私かその娘 ――血の上では姉妹―― のどちらかから選ぶと言っていたという事――――は、さすがに言えないけど、少し言葉を濁してすべてを偽りなく伝える。


そして、私達は父と母の願いで家出をしてきて家には戻りたくないという事と、もしかしたら父も母も実父あのおとこに殺されているかもしれない事。

実父は一国の評判のよくない野心家であって尚且つ王弟。嫌な事実だけど、私はその娘で王弟第5王女って呼ばれている事を話した。


「・・・・それは、絶対に帰りたくはないね」

「は、い・・」


ラダが本当は喋れるってことだけは今はまだ説明してないけど、涙ながらに語った私達をアイトさんは辛かったねって言って抱きしめてくれた。

な、泣くつもりなんてなかったけど・・・次から次へと涙が溢れてきて止まらない。


「うん、うん・・・今は泣いておこう。思いっきり泣いたら、その分強くなれるさ」


そんな歌があるんだ。だから泣くことは恥ずかしい事なんかじゃないよって・・・縋りつく私達を突き放さず、あやす様に背中をぽんぽんと一定のリズムであやす様に置かれた手はとても暖かい。


あの、家とは到底呼べない城の中、お母様以外の人にこれほど優しくしてもらったことはなかった。


まだ色々と言わなきゃいけなかったのに、私もラダも大泣きして・・・さっき起きたばっかりだと言うのに、泣き疲れて寝てしまった。







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