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オタクな自分は打たれ弱いんです!  作者: TAKAHA
第一章
4/16

絶望的に美しい景色






「ぅ・・・う~ん・・」


何か眩しいな。そう思いながらゆっくりと目を開けると、何故かみずみずしい草木の匂いが香る。


「ぅう・・・」


うめき声の様な声が自然と洩れた私は、頭がぼーっとしたままでも両手をついて体をゆっくりと起こした。

少し体が痛い気がするけど、何があったっけ?


「・・・・・・?」


俯せに寝ていた為に頬に残る草と小石の感覚を払いつつ周りに視線を這わせ・・・霞む視界とあり得ない状況に何度か目を擦る。


「へ・・・・は?!」


目の前に広がるのはキラキラと水面が煌めく湖と、その湖を囲むように360度木々生い茂る爽やかな緑の一面。


ボー然とするのも無理ないと思う。


「なん・・だよ、コレ」


何とか絞り出したのはたったこれだけの声だったけど、頬を抓らなくたって分かるほどに地面に接している掌や膝には草の柔らかな感覚と、その中に僅かにある小石の痛みを感じる。




一体どれだけ目の前の光景が信じられずに固まっていたのか、自身の体重で大した痛みじゃなかった小石も徐々に掌に食い込んできていたことで私は漸く重い腰を上げて立ち上がった。


「ててて・・・」


掌や膝を払いながら周りを見渡せば、清々しい風と共に葉のさわさわとすれる音と鳥たちの声以外――――何も聞こえない。


「え・・っと・・・私、死んだ?」


最後にある記憶は、実家に行く道すがらにある森林公園の近くを通った辺りで終わっている気がする。

確かにあそこを通った時に、飛び出してきたイタチだかタヌキだかに驚いてブレーキを踏んだ覚えがあるにはあるが・・・対向車も後続車もなくただの一本道で、尚且つハンドルを切った記憶がないとくれば事故を起こしたとは考えられないし――――あたりに一切車の残骸とかもない。


「でも、あの道で事故って投げ出されたとして・・・近くに湖どころか池もなかったのに」


シートベルトはキチンと着けていたので投げ出されるという事もないはずだし、万が一窓をぶち破ってという事態も無傷な体を見たらありえないことを理解できる。

意外と冷静にそんな事を考えながら周りを見渡すと、さっき買った荷物が少し離れた所で散乱している。


「?・・・買った物は無事っぽいかな?」


周りに視線を這わしつつも荷物が落ちている所までいって、取りあえず散らばっている荷物を1つ1つ確認してみると、石鹸は割れていないようだし、紅茶も珈琲豆も袋に穴が開いてないので大丈夫だろう。

天然石も無事っぽいし、1つも欠けていないしフィギュアの箱もかすり傷一つついていない事にホッとする。


「空気漏れとかもないし、荷物はぜんぶ・・・」


ポットやミルも買った為に袋が大きかったので、他の荷物も何とか全部まとめることが出来たのだが・・・


「鞄が・・・トランクに入れていた服やフィギュアに、母さん達に持ってく予定だったものも、ない?」


お土産分を間違えて下し忘れない様にと、車の後部座席に乗せていた荷物がごっそりと消えている。

手持ちの荷物で買ったものと一緒に転がっていたのは、コンビニで買ったモノが袋のままと煙草の入ったシガーポーチ、丁度確認の為に出しておいた手帳とそれについていたボールペン唯1つ・・・と、ヘッドボードに飾っていた大好きな海賊の食玩フィギュアのお気に入りペアとさっき取ったフィギュア。

道中で買った生菓子と一緒に鞄を後部座席に放り込んだのが記憶にあったので、財布は勿論の事、常備薬や鍵にタブレットなどといったものすべてがない。


「タブレットがあれば自分の位置確認できたのに・・・」


もしかして鞄が盗まれたんじゃ!と一瞬思ったが、荷物が落ちていた所には荷物の跡はあったが、それ以外の跡といったら今自分自身の通った足跡だけだ。


「つか、あっつー・・・何で?!冬だったじゃん!!?」


取りあえずちょっと気持ちが落ち着いたところで、着ていたロングコートを脱いで手荷物になるので腰に巻きつける。首に巻いていたショールも荷物と一緒の袋へ入れて、その下に着ていたロンTは肘の辺りまでまくり上げた。




+++




「はぁ・・・ない物はない」


はい、どうもー・・・頭を抱えている私、愛豊あいほう 真琴まこと28歳です。マジで色々とあり得ない。ため息しか出てこないのも仕方ないってもんだろう。


目に付く荷物だけはすべて集めて湖の周りを歩いてみたが、やっぱり最初に居た所に落ちていた荷物以外は見当たらずに重々しいため息と共にそう呟いてみた。


「はぁぁ・・・」


とはいっても、そう簡単に諦められる物じゃないことも確かだ。あの財布の中には手持ちの全財産が入っている上に、免許証を始めに保険証やカードが各種入っていた。

せめてケータイが手元にあったのならばすぐに電話してカード類のすべてを止めることが出来るのに!!と思いつつも、投げつけてきたのは自分なので自業自得だ。



――――――――・・・ない鞄の事よりは、今の状況の方が重大か。



泉の周りを歩いている時にも散々考えてた事をいつまでもぐじぐじと悩むのも駄目だろう。


それ以上に自分の置かれている状況がどう見ても不可解だ。


取りあえず、ケータイもなければ時計も持っていない今の状況で時間なんか一切わからないし、太陽の位置で読めないかと思って見上げた空には目の錯覚かと思しき大小2つのまるで雪だるまの様な形の太陽が見えた。


『ふぉ?』


勿論ギョッとして3度見したさ!つかれてるのかなぁ~・・・―――あぁ、そうとも!何度見ても変わらなかったけどネ!!


『え・・・・・・・・え?!』


不思議なくらい澄んでキラキラと輝く湖全体は休み休み2~3時間位歩いたような気がするけれど、正確な時間が分からないので結構広い湖だと言う事だけ理解した。

ただ、元の位置に戻った時にまた見上げた空には雪だるまの太陽の代わりに大小二つの太陽が絶妙な距離で仲良く並んでいた。


そして、多分北と思しき方には余裕で飛び越えられるほどの幅で、手首よりは上の位置程度の深さの沢があった。それを暫く遡れば、僅かに湖を見下ろすあたりに水源だろう湧水が絶え間なく湧く浅い洞穴があった。

沢や湖の周りは狭いところでも2メートル程の、広いところだと小型のマイクロバス(幼稚園の送迎用のバス位)程度なら5台くらい余裕で停まれそうな空間がある。


だが、湖の周りを回っている時に手近な登りやすそうな木に登って周りも見渡せる範囲で確認してみたのだが・・如何やら深い森の中らしく、見渡す限り電線も無ければ車の音すら一切聞こえては来ない。


「ふぅいぃ~・・・疲れた」


こんなに歩いたのは久々だ。


水源であろう沢と深くまで澄んでいる綺麗な青色な湖の交わるあたりにあった石に腰をおろして、どこともなしに視線を這わせる。

ここ数時間 ――体感的に―― での体力的&精神的な疲れのせいでボーっとしつつ、さっきついでに買ったカップに水源から汲んできた水を口に含んで潤してから煙草に火をつけて空を見上げる。


どれだけ見上げていても、飛行機すら通らない。どうなっているのだろうか?


「え~っと・・あれだ、なんていうんだっけ。神隠し?いや、あ~っと・・異世界転生―――は、死んでねーし!」


まるで男の様に足を開いて坐って、その脚に肘を付けて煙草を持っていない方の手で頭を抱える。

私の趣味でもあるコスプレで男装ばっかりやってたから、だけじゃなくってボーイッシュなのは髪型だけじゃなくて性格にまで及んでいるんだけど、こんなんだからおばーちゃんに色々言われるんだよなぁ~・・・じゃなくて。


「はぁ・・どうなってんだよ」


溜息ついて首を傾げると、目に飛び込んでくるのはやっぱり見たこともないくらい美しい自然。

まるで写真集の中の様に、どこかの海外の秘境としか思えない光景。


「え~っと・・・・・あ、異世界トリップ?」


オタク思考ならではで色々と暫くそうしたまま考えていたけど、何気なくつぶやいて「いやいやいやまさかね!」と僅かな不安を振り切るように煙草を口に運ぼうとしたが・・・火をつけた時に一度吸ったままフィルター近くまで来てしまっていたので何とも言えない気持ちのまま火を消す。


「まだ日は高いみたいだけど、落ち着いて色々見てみた方がいいし・・・拠点でも作った方がいいのだろうか?」


新しい煙草に火を着けながら、自分に言い聞かせるように呟いてみる。

闇雲に歩いて体力を消耗したくもないし、食料はまぁ一応ある。本読むのは好きだし、TVで見た無人島生活等が参考になるかどうかは微妙な所だが、まったくの無知よりはましだろう。

普通ならもっと慌てふためいたりするのだろうが、持ち前の性格なのか自分でも分からないが、微妙に夢や妄想な気もしなくはないと・・・思っていたいのかもしれない。


「取りあえず、もう一度木に登って辺りを見てみようかな。えっと、さっきよりも高い場所で・・」


人どころか何の気配も感じないけれど、かさ張る荷物を肩に担いだ私は新しい煙草を片手に先ほど下ってきた丘に向かって歩き出した。


「あ゛――――っ・・・明日絶対に筋肉痛だわ」


厚底のブーツなんて履いてくるんじゃなかった!と丘登と2度木からずり落ちて悪態をついたが、さっき上った木よりも高そうな木だったし結構上の方も枝がしっかりしていて良さそうだ。


「っと、とと・・・うぅ~・・バランスとりにくい・・」


へっぴり腰になりそうだったけど、それでも何とかバランスを取って背筋を伸ばす。


「・・・・」


さっき見た時よりも遠くが見えたのだが、目の前にあるのは言葉に表せられないほどの――――――美しくも絶望的な景色だった。






異世界編突入!

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