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オタクな自分は打たれ弱いんです!  作者: TAKAHA
第一章
3/16

プロローグ

異世界編になりますが、主人公は出てきません。






何の変哲もないような単調な日々。




『なぜ、わしの子だと言うのに・・・このっ、恥さらしが!!こんなのを人目に曝せるものか!』


立派なお屋敷の敷地内にある一等みすぼらしい小屋の様な離れに、私達の存在を良く思い出したな?と思う頻度でしか来ない父親は、その暗い目に更に冷たさを宿して私達を見下げる。

薄い青い瞳は心の芯が凍るほど冷たく、後ろになでつけるように流した茶色の髪とそろいの口髭を生やした背の高い大柄な父親は、恐ろしいまでの怒気を私にぶつけてくる。


『南の国には“ルメイラがネコを産む”と言う言葉があるらしいが、ネコとまではいかなくてもっ!!何故お前のような女が、こんな役立たずのただのゴミなんぞ産みおったのだ!!!!』


父親が苛立って棍棒のようなその手を振り上げるが、私達を己の体で必死に庇うお母様の姿に父親は腕を振り上げたまま更なる威圧を向けえてくる。


『どけ!』

『・・・』

『ゴミを手放してこっちへ来るんだ!!』


父親の言葉にただ首を横に振るだけのお母様。

暫くそんな居た堪れない沈黙が落ちたけど、父親のこれでもかという程の舌打ちとさらなる罵声が響く。


『なぜお前はそんなものを庇う!!失敗作は破棄すれば『それ以上言うのでしたらでていってください!!』・・・ちっ』


子供である私達の事は憎いのに、お母様は父親の寵妃らしいから父親は何もできない。


『・・・はぁ』


父親にとってゴミでしかない私達がこうして生きていられるのは、ただひとえに私達を愛してくれるお母様がいるから。

幸いにもお母様は美しさだけではなく、庶民にしては珍しく“力”を持っていた。この国では力こそが全てで、たとえ庶民であっても力さえあればその人物は貴族から同等かそれ以上に扱われる。


『・・な、んて・・・なんて』


他国ではどんな子供でも神の贈り物って言われているらしいけど、この国では・・・うんん。この領土・・では力がなければそれはただの失敗作で、いらないモノ。


『口惜しいっ』


そして、私はお母様以上の力を持って生まれた・・・・けど、父親のあの言葉を聞いての通り。何も持ってない様に振る舞っている。



そう・・。



どんなに罵られ、貶められようとも。



『ふん!あんな女の血を引いているんですもの!所詮、突然変異は突然変異じゃない!』

『えぇ、その通りでございますわ!』

『正室様のご息女様の方が遥かに相応しいですのに・・・何故あの方はこんなものを?』


派手なドレスにジャラジャラと飾り付けた魔石や宝石を纏った父親の正妻達が、決められた場所しか出歩けない私に嫌味をぶつけてこようとも。


『まぁ!見てくださいまし・・・おぉいやだ!なんですの、あの目!』

『反抗的ですこと!自分の立場が分かっていて?!』

『庶民が!!いつまでこのわたくしの視界に入るおつもり!!おまえ、鞭で叩きあの小屋へと押し込めておいで!!』

『!』


あの女に命じられた騎士や侍女が歪んだ笑みで私を見下ろしてその手を振り上げ、どれほどの怒りや悲しみで己自身を傷つける事になろうとも。


『私が、私が母親でごめんなさい・・・私が、私のせいで・・・』

『おかぁさま、そんなこと言わないでっ!おかぁさまのせいなんかじゃない!』


もういいのよ!と美しい緑色の瞳からハラハラ涙をこぼしながら、鞭で叩かれた酷い傷を治してくれるお母様だけど・・・。


私は自分の持っている能力を全て隠し、何も持たない無知で出来の悪い子の様に振る舞う。どんなにお母様がもういいのと言っても、最初にしたお母様との約束を破りたくなかったから。


『かわいいあなた達を満足に守れない、至らない母で・・ごめんなさい』

『おかあ、さま』


大切な存在に涙を流させようとも何もできない。悔しくっても涙をのむ事しか出来ない。

私に出来ることなど何もない。

私達のお母様は庶民の出。偶然街へ視察に来ていたあの最低な父に見初められて、婚約者の居たお母様を誘拐同然で側室にしたらしい。


『あなた達までも、あんな人の好きにはさせないわ。それでも、こんな母の願いを聞いてくれてありがとう・・・愛しているわ』


これはお母様ができる唯一の抵抗。お貴族様にバカにされ、叩かれることもしょっちゅうだけど、そのせいでお母様が自分を責めてらっしゃるのは知っているけど・・・それでも、お母様の望みの子を演じる。


あんなのでも父親で・・・男親の庇護の元以外では私に出来ることなど、何もないのだから・・。


『泣かないで、おかあさま。わたしは、わたしたちはなんの力も持っていないのがいけないのよ』


引き攣る全身の痛みに耐えつつも、私を見上げるその瞳に癒される。


『おねぇちゃま?いたい?いたいの?』


私の赤くはれ上がっている頬にその小さな手を添えながら、まるで自身が傷ついた様に私を見上げる幼い私のきょーだい・・・ひとり、まもれなぃ。

お母様の治癒魔法が効きはじめて、真っ赤に腫れ上がっていた頬も、体中の蚯蚓腫れも綺麗に引いていく。


『うっ・・だ、大丈夫よ。ねぇ・・きいて、わたしたちはなんの力も持ってないの』

『ちから・・もってない』


悲しみに明け暮れ日に日に弱っていくお母様を、まだ幼いこの子を守るために私は今日も唇をかみしめて掌に傷を作る。


『そうよ。そして、あなたはしゃべれないの・・・私たち以外とお話ししちゃダメなの』

『うん、おねぇちゃまいがいとはおはなししない』

『そうよ。いいこね』




それが、唯一の自分自身と愛おしい存在を守る――――そんな日常、だった。








「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・・・くぅっ」


月も出ていない星空だけのいつもより暗い夜に、胸が苦しくて今にも吐きそうなのをぐっとこらえて私はその足を動かす。

私の隣には、まだ小さな足をもつれさせて転びそうになったこの子の手を思いっきり引きながら、私は悔しさも悲しさもすべて奥歯を噛みしめる事で押し込める。


「だめよ!がんばるの!」

「ふぇ・・が、んばるぅ」


泣きそうなのに、この子は・・・“ラダ”はその目に浮かんだ涙を空いている方の手で擦り、強い視線で前を見据えた。

まだまだ遠いけど、遠くの方からは私達を追ってきたのだろう追跡者たちの立てる音や怒号が聞こえてくる。


「お母様の願いをかなっ・・叶えるのよ」

「う、うん!うん、ねえちゃま!」


持っているのはお互いの首にかかったロケットと、肌身離さず持たされている魔石以外にはたった1つの小さな鞄だけ。

たったそれだけなのに、命がけで走るには枷になりうるほどに邪魔にも思う。それに、足首まであるスカートの邪魔なこと!こんなことなら裾を切り裂いておけばよかったと先ほどから何度思ったことか・・・。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・っく、はぁぁぁーーー」


限界もとうに超えた私の心臓は、深く深く呼吸を繰り返してもなかなか収まらない。私でこれなんだから小さなラダはもっともっと苦しいだろう。


「ぜぇぜぇ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」


私も呼吸を整えながら隣に目を向けると、立ち止まった私の横で苦しそうに胸を押さえて荒い呼吸を繰り返しているラダの姿が目に入る。


―――ごめんね、ラダ・・


振り返ってキッと睨むと視界に入るあの忌まわしい

こんなにも走って結構離れたと思ったのに、後ろにはまだまだはっきりと私の視界に入り込んでくるは憎らしい程大きく悠然と小高い丘に聳え立つ。


そして松明を持ったあの父の手の者が私達を探しているのか、光の線が徐々に徐々にこちらへ近づいてきている。



目的地へ行く前に、掴まってしまうのも時間の問題かもしれない。



――――――――それだけは、絶対に駄目だ。


「ラダ・・ラダ聞いて!」

「ん?」


多分、お母様はつかまってしまっただろう。そして、最悪もうこの世にはいないのかもしれない。


『この国の北にあるラルトナーダという街へ行きなさい。そこでお母様の名前をロバルテイエという宿屋をしているジェイフという人に告げなさい・・・きっと力になってくれるから』


今日の夕刻にいつも通りひっそりとあばら家と言ってもいい離れで、いつも通りに粗末な夕食を口にしていいた。そんな時にこっそりと現れたのが、お母様の元婚約者だったマクタガードおじ様とお母様によって告げられたことから始まった。


『お母様がいつも言っていたわよね・・・タガートが、いつか迎えに来てくれるって』


幸せそうにおじ様と手を取り合って微笑むお母様は、今まで見たことないくらいとても綺麗だった。何度も何度も強請って繰り返し聞いたお母様の恋物語。


『準備は整った・・・僕とティアの力を足しても子供たち2人をフォサイスの町はずれに転移させるので精いっぱいだろう』

『いいえ、それで十分だわ。ありがとう、あなた』

『ティア』


何かとても大変な事が起こったみたいで、私とラダの2人をこの離れの館から逃がすと言う。


その告げられた計画にラダはキョトンとしていただけだったけど、私は2人に泣きすがって反対した・・・けれど、お母様は悲しそうな顔で微笑まれるだけで決して頷いてはくれなかった。


お母様たちに言われるがままに、愚図るラダと手を繋がされた私はおじ様の作り出した光の魔法陣の中に立たされた。


『お母様・・マクタガードお、お父様』


子供心にも知っていた。あの父親おとこの眼を盗みつつも逢瀬を繰り返していたお母様達はその時だけは本当に幸せそうだって。私はあの父親の娘だけど、ラダの父親はマクタガードお父様だって・・・だって、比べてみるとそっくりだもの。


『僕の・・僕の事を、お父様って呼んでくれるのかい?こんなに嬉しい事はないよ!』


驚愕に目を見開いた後で嬉しそうに、それでもどこか愁いを含ませた笑顔のお父様とお母様。


『私もラダも、あのおとこを父だなんて思ったことないもん!』

『・・・おとぉちゃま・・だけ、が・・・ラダたちのおとぉちゃま、だよ』

『二人とも・・・あぁ、あぁ・・・もちろんだよ。二人とも僕とティアの愛の結晶だとも!!』

『二人ともっ!えぇ、私達の愛おしい子達!』


私とラダをギュッと抱きしめたお母様とお父様。しばらくそのままだったけど、お父様が手にしていた小さな肩掛け鞄をそっと私に掛けると2人は私達の側から離れて・・・・・気が付いた時には私とラダは、町はずれに立ち尽くしていたんだ。


『生きて!いつまでもお母様とお父様はあなた達を見守っているわ!!だから、何があっても生き延びて!!』


ぺたりと坐り込み、不安そうな顔をするラダと瞳を合わせ、頭の中の分れ間際の母様たちを思い浮かべる。


「ラダ・・・まだ子供の私とラダの足ではいずれおいつかれてしまう。でも、お母様とお父様との約束どーりに、私達は何があってもつかまっちゃダメ」

「・・・うん、いきてっていってた」


そうよ!そう頷いて、立ち止まった左右への分かれ道と―――目の前に広がっている広大な深い深い森を見上げて私はごくっと唾を飲み込んだ。


お母様から言われた町へは、この分かれ道を右って言われていた。

でも、その町へは大人の足で2日・・・・・・・は掛かるって聞いたのを覚えている。


「も・・もしかしたら・・・死んでしまうかもしれない。でも・・・」


―――――――逃げる事を最優先にしましょう。


4つの国に跨る広大で雄大で神聖な森を見上げると、たったそれだけなのに足が竦むほど恐怖がある。

だけど、私達は何があっても“逃げ延びて”“生き”なければならない。


「ねぇちゃま・・・こわくないよ!もりにいくんでしょ」

「え・・えぇ」


ラダの手をギュッと握り直し、我が国では決して足を踏み入れてはいけない死の森と恐れられている森―――――オリエントの森へと私達は足を踏み入れた。




空にはキラキラと輝く青い色の光がまるで雨の様に降り注ぐ。





私達を阻む悪魔の罠か、それとも祝福を授ける神の贈り物か―――――・・・。







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