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オタクな自分は打たれ弱いんです!  作者: TAKAHA
第一章
14/16

理解できない現実


干支。“えと”じゃなく“かんし”って読む。



こうおつ何たらかんたら~って続く十干じっかんと言われるものちゅういん・・――まぁ、うしとらと皆のお馴染みの十二支じゅうにしを足していき一周すると60年で還暦と言われているもの。



なんつーんだ?え~~~・・・ほらあれだよ!カレンダーとかに描いてあるあれだよあれ!―――――・・・と、誰もわからんだろうし自分もいろいろとパニックに陥っているからそのあたりは置いといて。



確かそんな事を書かれていた本を読んだことある気がするし、一度気になってグーグ○先生に聞いたことがあったが詳しい事は思い出せんので説明出来んのは申し訳ない。






先ほどの衝撃の事実を何とか(無理やり)飲み込んだ私は、ジャン兄さんになんて返したか分からないけど・・・




『だよなぁ~・・ま、ちび共と話してやってくれよ。そっからカイさんに相談しろよ、いろんな伝手がある人だからな。いい知恵を貸してくれるさ』


って、ジャン兄さんが言っていたから意外と真面なことや ――この世界の―― 常識的な返答が出来たのだろう。


気が付いたらジャン兄さんと街に戻っていて、手元には金貨が11枚ほど入った皮袋が乗っかっていた。

手伝ってくれたお礼になんやかんや言って金貨4枚を兄さんに押し付けた気がするし。


この世界に来てから驚く事ばっかりだ。異世界だから当たり前かもしれないけど、さすがに魔法や剣のファンタジー世界 ――ってだけでも色々衝撃的だったが―― 以上に理解がついて行かずに頭はショート寸前だ。



はむ・・  もぐもぐもぐ



無意識に花を口に運びながら、宿をふらふら歩いていたら・・・


「こんにちは・・・やどのおきゃくさまですか?」

「はへ?」


不意にどこからともなく可愛らしい女の子の声がした。

慌てて立ち止まって辺りをきょろきょろと見回すと、宿にある庭園のもっと奥でもある私有地に入り込んでいたようだ。


「え・・あ・・?」

「どうされました?」


池向こうの宿の庭とはまた違った、趣ある綺麗に整備されたイングリッシュガーデンのようなどこかホッとするような庭。その庭に面した日当たりのいい大きな窓の近くには気持ちよさそうな毛足の長めなラグが敷いてあり、ふわふわのクッションに埋もれるように落ち着いたちょっと薄めのモーブピンク色の髪をした女の子が座っていた。


「まぁ・・・かみとめがおなじ!とーさまのいってたアイトさん?」


頭が真っ白になって立ち尽くしてしまった私に、女の子は両手を合わせて目を輝かせた。


「あ・・は、い・・」


問いかけに何とか返事をしたものの、辺りに視線を這わせて自分の置かれた状況を考えてると、これは一従業員の住居区ではなく・・・もっと上の・・・・。


「ぅわわわ!ごめんなさいっ・・・考え事してたら入り込んじゃったみたい!」

「あ、ま・・まって!」


直ぐ出ていきます!!って言って慌てて今歩いてきたであろう道を戻ろうとすると、女の子が慌てて私を引き留めようと庭先に出てきて・・・苦しそうに胸を押さえてその場に蹲っていた。


「え・・ど、どうしたの?!医者をっ」

「はぁはぁはぁ・・だ、だいじょー・・ぶ、です」


慌てて駆け寄ると、女の子の顔色はとてつもなく悪い。


「え、えっと・・取りあえず、運ぶよ?」

「ご、ごめんなさ・・い」


ティンと同じくらいの見た目だけど、その身体はガリガリでそっと抱き上げるとまるで羽毛布団を抱っこしているかのように軽すぎる。



ちっさい声でお邪魔しますと声をかけて窓から部屋に入り、その女の子をそっとクッションに下ろしてよくよく見る。頬はこけて顔は青白く、手も足もまるで骨と皮だけかのように細くて・・・正直痛々しい限りだ。


「・・・うまれつきびょうきなの。あと・・5ねんいきれたら、いいくらい」

「え、治せ・・ないの?」

「くすり、いちおうそんざいしてるけど・・・だれもとりに行けないばしょにあるから」


暫くすると落ち着いたらしい女の子はその青白い顔に笑顔を見せながらも、ポツリポツリと色々教えてくれた。


名前はリーシャ。なんとカイさんの娘さんなんだって。病名は先天性魔力なんたらっていって ――覚えらんなかった―― どうやら成人前には死んでしまう不治の病の一種らしい。


「まりょくがつよいかわりに、ながくいきれない1万人に1人のびょうき・・うんがいいのかよくないのかわからないよね」って笑ったリーシャの顔には、やっぱりどこか影がある。


「ねぇ、アイトさんはべつのくにのひとなんでしょ?なんにもおぼえてないの?」


カイさんから私の事を色々聞いていたらしく、『ぶるどうおいしかったです、ごちそうさまでした』ってなんともとても礼儀正しくお礼を言われておっかなびっくり。


カイさんが買い取った最初のあのブルドウは、街中でちょっとしたお祭りになって結局皆で分けて食べた。肉的には、牛肉に近い感じだった・・・見た目イノシシっぽいくせに、詐欺だ!!あ、いい意味でね。



リーシャは最近もう自分自身の力で動く事事態が限界らしくほとんど寝たきりで、今までの狭い世界以外にとても興味を抱いていて私の話を聞きたがった。



私の国にある童話でねって言って、シンデレラなどを話してあげたら殊の外喜んでくれた。やっぱね、下克上物語シンデレラとかって女の子は好きだよね!


「うん・・・覚えているのは少しだな、家族の事や趣味で稀に作ってた料理やお菓子作りとかかな?プリンとかクッキーとかチーズケーキとか簡単なものね」

「ぷりん?くっきー?わぁ、きいたことないおなまえね!」


女の子らしく甘いものに魅かれてみたいで顔を輝かせるリーシャに、ふふって思わず笑ってしまった。カイさんに頼んで厨房を借りれたら作ってあげるねって約束したら、とても喜んでくれたので早速今から頼みに行こうか。



この世界に一応甘味はあるみたいだが、果物や花の砂糖漬けや煮詰めたジャムの様なもの、それにビスケットの様なほんのり甘いものがあるみたい。この街に来た頃ティンやラダに買ってあげた瓶詰めの砂糖菓子も果物ドライフルーツの砂糖漬けだった。

後はその土地柄の甘味があるらしく、この国の東の方にはチーズケーキらしきものは存在しているようだった。




そう考えた時に、いつの間にか結構な時間が経っていた事に気が付く。



「あぁ、結構長居しちゃったね。あまりしゃべりすぎるのも疲れたでしょう?」


楽しそうにしていたけど、リーシャの顔には疲れが見て取れる。私が帰るねって言ったことにとても悲しそうな顔をしたけど、また来るから今日はもうゆっくり休みなさいって言ったら渋々ながら頷いた。


「あ、そうだ」

「?」


ふと思い出して腰から下げていた袋を慌てて開くと・・・案の定枯れてしまった花が目に入ってがっかりしたが、皮袋の中にビニール袋を入れて2重にしていた事が幸いしてキラキラ輝く花の蜜がたくさん残っていた。


枯れた花の残骸を取り除き、ちょっと舐めてみた感じは問題なく、体中にじんわりと何かが染み渡るように入っていく。


「ね、リーシャ。目を閉じて口を開けて」

「?・・・こうですか?」

「うん」


不思議そうな顔をしながらも、素直に開いたリーシャの口にそっと袋にあった蜜を流しいれた。





+++





リーシャと別れてから部屋へと戻るとティンとラダは今だ夢の中にいるみたいだ。


2人を起こさない様にそっと部屋にあるテーブルに着き、カイさんから貰ってきた用紙にリーシャとの約束で作るって言ったお菓子のレシピをメモしようとした。


「あ・・・あれ?」


リーシャと会話していた時に思い出していたバタークッキー。あの時は材料に手順とつらつらと思いだせたのに、今は何故か名前だけ思い出せてそれ以外は頭にもやがかかったみたいに思い出せない。




何故?!―――――え、やだ!アルツハイマー?!




ってちょっとパニックになっちゃったけど、別の物をってそう考えたら、何故か次から次へとレシピが頭の中に浮かんできた・・・え、なんで私こんな本を見ただけとか1回しか作ったことない料理やお菓子の詳細まで思い出せるんだ?


不思議に思いながらも、バタークッキーの二の前にならない様に思い出したレシピを全てメモすることに成功した。別のクッキーの作り方の応用で、何とかバタークッキーの作り方もメモを取ることが出来たのはちょっとした不思議な思い出だ。






「カイさんそれもう少し混ぜ合わせてください。もっとふわっと・・雲のようになるまで」

「はい」

「ミーヤさん、全部片抜きが終わったら集めてまた伸ばして片抜きしてください。こねすぎないように注意してください」

「はい、わかりましたわ」


お昼の一番忙しい時間が過ぎ、お店が落ち着いた頃を見計らって、私は数枚のレシピメモを持ってカイさんに厨房の使用許可を願い出た。駄目だって言われるかと思ったけど、私が作る物に興味が引かれたらしく奥さんのミーヤさん共々目を輝かせて私と一緒にお菓子を作っている。


カイさんには今メレンゲを泡立てて貰っていて、出来たらシフォンケーキとレモンのメレンゲタルトになる予定。

レモンっぽい果物?は見た目的に緑色のザクロって言いたいが、風味も味も酸っぱい柑橘系で本当にレモンそのものだし、この世界での用途も同じだった。


と、ミーヤさんにお願いしている物はコップで型抜きしている普通のバタークッキー。


同じ国内だけど領によって名産等が違うらしく、ここバルセは西の端っこで牛乳・・・ここではニュウギョーっていう動物からとれる乳らしいんだけど、それがとれるのは国の東の端っこ。

所謂、真逆の領の物の為にお高めだけど、カイさん達は最高の料理の為ならお金は惜しまないらしく結構いろんな素材が集められていた。

な・の・で、遠慮なく卵や牛乳にバター ――はなかったから作りました―― を惜しげもなく使わせていただきました。


2人からの質問にも答えつつ、シフォンケーキにクッキー・プリンを始め、レモンのメレンゲタルト・ショートケーキ・蒸しパンと予定以上の料理を作った。


後は何故か作った事はないけど、料理雑誌でみただけのレシピが次から次へと頭の中に現れて自分自身も困惑したが、出し惜しみなく説明できるものすべて説明し ――カイさんとミーヤさんが嬉々としてメモしていた―― たら結構な時間が経っていた。



ただし、調味料を見た感じ醤油や味噌といった和風調味料がなかったので、それ系メニューは除外した。



レシピを説明する際にこの世界と私の世界の食材に関して違うものばっかりなので味見をさせてもらいつつ揃えるしかなかったので時間がかかったのは言うまでもない。


だがしかし、それらはこの際横に置いとこう。カイさんとミーヤさんからの、今回作らなかったお菓子も作り方から見た目にどんな味かとかまでクッキー等の焼の待ち時間に質問されてとても疲れたし。


「よっし、いい感じっすね・・・プリンは温かい状態でも食べれますけど、冷やして食べる方が美味いっすよ。クッキーや蒸しパンもアツアツでも美味しいけど、冷えても美味しいから」


ショートケーキ ――元来のぶきっちょの自分には難しく、初めてやった筈なのに説明しただけでカイさんがパティシエ並みにきれいに仕上げてくれたケーキ―― を温めた包丁で綺麗に切り分けながら、2人に説明する。


「アイトの言うでざーとは冷やしての方がいいんですね。なるほど・・でも、温かくても美味しいですね」

「それにムシパンは腹持ちがよさそうですわね」


クッキー・蒸しパンと味見しつつうんうんと頷いているカイさんとミーヤさんに、この世界の人にも口に合うんだとほっと息をつく。


「このお菓子のレシピ、私達で買い取らせていただいてもよろしいですか?」

「・・その黒い物は飲み物?いい香りですね・・」


私の説明通りに書きとめたレシピと一通りの作った物を味見して、これは原価がとか価格を付けるならとかって自分が入れない会話を真剣にし始めた2人に、私は部屋から持って来ていた珈琲を勝手に入れてショートケーキと共に口へと運んでいた。

ケーキを食べ終わってプリンの様子を魔冷庫に確認しに行って戻ってきた私に、2人が向き直って口を開いて・・・珈琲を見てキョトンとしている。


「へ?あぁ、好きにして下さっていいですよ。これは珈琲って言って、ちょっと苦いけど甘いものと相性のいい豆の飲み物ですね」

「まめ?まめっていうとあの豆でいいのかな?」

「あとで粉にしてないやつ見せましょうか?生豆はさすがにないけど・・」

「本当ですか?!是非!!」


この世界は冷蔵庫ではなく、魔冷庫 ――っていうみたい―― に入れられてプリンは冷やされている。小さいものもあるみたいだけど、やっぱり宿屋や食堂とかをやっているだけあって倉庫並みの大きさだ。


勿論、水の上級魔石が氷の魔石で風の上級魔石も取り付けられているのでめちゃくちゃ高価で最新の魔冷庫らしい。他にも魔石を買う事の出来ない一般人は保冷庫って言って、一昔前の冷蔵庫の様に氷を使って冷やしているらしい。


1つずつ味見をして、勿論コレの作り方はカイさん達の頭の中なのでどーぞと使用許可を出す。


ネット小説の様に記憶を持って転生しましたっていうやつの様に自分で店を出して儲けようとすりゃひと財産築けそうだけど、生憎自分自身で店を出して商売をするような気概なんて持っていないし面倒くさいので極力ダラダラしていたい。



金ならあるからな!!



その代り、生活に困ったら無償で養ってくださいって冗談交じりに言ったら逆に家の手配や売り上げの2割を支給などと具体的なことを計画されてたじたじだった。



―――――そんな時。



「父さん!母さん!た、大変だ!!」

「何ですか、ゴーシュ・・そんなに慌てて」


血相を変えて飛び込んできたのはミーヤさんと同じ菫色の髪をしたきりっとした感じの少年?青年?自分的にパッと見、少し幼さの残った16歳前後くらいの子。瞳の色はカイさんと同じく深緑だ。


勢いよく開けられたドアに私がびっくりし、カイさん達は調理場に埃を立てるかのような勢いに顔を顰めていた。


「す、すみませ・・・じゃなくて!リーシャ、リーシャが!!」

「え・・?」

「リーシャがどうしたんです?!」


2人の様子にビクッと肩を揺らした息子さんだったが、勢いそのままに二人の側まで来る。


「り・・り、りーりゃがっ・・・と、とにかく来て!一緒に来て!早く!!」


肩で息をしていて、少し噛みながらもカイさんとミーヤさんの手を引いて急いで連れて行こうとする。


「わ、分かりました・・あ、アイトはここに、いえ、部屋に戻ってもいいですので!」

「は、はいっ!!」


彼の慌てぶりに、娘さんに何かあったのだと思い至った2人はさーっと血の気が引いたような顔色をして、震える声でそれだけ言うと駆け出して行った。




私もその勢いに押されて大きな声で返事をしたが・・・。




時間が経つにつれて不安になってきた。




あんなに弱々しかったリーシャ。そして息子さんのあの慌てぶりに、最悪の想像が頭を過って自分も血の気が引いていくのを感じた。




まさか、リーシャが・・イヤイヤ、まだ5年は生きれるって言っていた・・。




だけど、あの花の蜜が体に合わなくって・・もしかして・・。





ひらがな一文字。漢字一文字。





最悪な言葉だけが頭をめぐる。





まさか、まさか・・っ!!





「わ・・私の・・せ、い・・?」





嘘でしょ?!





寒くもないのにガタガタと震え、まるで生きた心地がしなかった。






カイさんの子供たち登場!



□■注意■□(読まなくても大丈夫です)

冒頭にある干支についてさらっと・・・。


干支についてはグーグ○先生ウィキさんなどで調べていただいた方が早いかと思いますが少しだけ引用させて頂きます・・・


年・月・日など陰陽五行説などと結びついていて卜占ぼくせんなどにも応用。

日本では干支えとを指していますが、本来は十干(甲・乙・丙・・)と十二支(子・丑・寅・・)の組み合わせを指しているもの。


そして、干支は60回で一周する。


ねずみ年・うし年と略されてはいるが本来は『甲子~癸亥』まで60種類あるそうです。

なので還暦のお祝いは昔、干支が一周して赤ちゃんに還るという意味だったそうです。


長くなってしまいますので詳しく知りたい方は調べてみてください。

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