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オタクな自分は打たれ弱いんです!  作者: TAKAHA
第一章
10/16

久々の安寧





「う・ふ・ふ・ふ~」


あぁ、駄目だ!口がどうしても上がっていく・・っ!


「ぅわぁ!大金!すごい!」

「すご~い」


そこそこグレードの高い部屋の丸テーブルの上には高々と摘まれた銀と銅の山・やま・ヤマ!そして、ちっちゃな金色のタワー・・。

足を組んで椅子にもたれ掛ってニヤニヤしている私の両隣りには、椅子の上に立ち上がって目をキラキラさせているラダとテーブル周りでぴょんぴょん跳ねているティンがいる。





あの後、2人を迎えに行って街に戻ってきた行き帰りで、案の定というか何というか・・・





そこそこの猛獣に襲われたわけですよ。





カーバンクルの様な宝石っぽい物が額に付いたウサギの様な獣はともかく、ヒグマほどの大きさのイノシシみたいな動物を難なく仕留めたが・・・押しても引いてもびくともしなかった為おいて行こうとしたのだが・・・。


『あいと、あいと・・これ、おいてくの?』


7匹・・7羽・・まぁ、どっちでもいいか。

その内麻痺も解けちゃうし、イノシシは諦めてカーバンクルっぽい獣を7匹だけ持っていこうとした私の服の裾を引っ張って、舌っ足らずに喋る可愛いラダが私を止めた。


『持ってきゃ金になるだろうけど、重くて無理だわ』


あるに越したことはないが、さっきのカルガとかいう鹿だけでも程々な金になったし、このカーバンクルの様な動物も足せば暫くは大丈夫だろう。

だが、しかし・・・イノシシは私の住んでいた地区でも牡丹鍋専門店とかあったし結構いい線行くと思うんだけど、仕方ない。

悔しさ滲ませつつもそういった私に、ラダはまるで花のような笑顔を私に向ける。


『ぼくおもしゃかえれるよ!』

『は?』

『ラダは私よりも魔法が使えるの!』

『・・魔法?そんな魔法あんの?』


そういうや否やラダが両手をイノシシに向けるとふわっとイノシシが光り、言われるがままにイノシシを持ち上げると確かにさっきは一切持てなかったイノシシが、ビールのケース1つ分くらいの重さになっていた。


『ぅを!すげっ』


重いには重いが、力には多少自信がある。休み休み行けば街まで何とかなるだろう。


『ラダは気配を消したり重さ変えたりするの得意なの!』


この世界には生まれながらに能力を持つ人と、成人後に能力を授かる人と、結局何も持たない人に分かれるそうで、ラダは生まれながらに大きな魔力と能力のダブル持ちだそうだ。

で、ティンは魔力量だけで言えば多いが通常成長中で能力についてはまだ分かっていないらしい。


因みに誰しもが魔力を持っているが、生まれた時にほとんど決まっているらしい。成長と共に育つのも貴族ならではで、一般市民にはめったにいないそうだ。

10段階評価で一般市民が1だとするとティンは現在3~4の間でラダは6ほどらしい。10段階評価で5以上持っていれば多いみたいだ。そして1はただ持っているだけで何も使えないそうだ。


少しきつかったけど私がイノシシを持って、2人にカーバンクルを持ってもらって街まで戻ったら・・・まぁ、お祭り騒ぎ再び。


『きゃぁぁぁ!!ブルドウ!!』

『何?!』

『ブルドウだとぉ?!!』

『今度こそはうちがとるわよ!!』

『お前はさっき競り落としたのだから今回は遠慮しろ!』

『横暴だろう?!』


カーバンクルもギョッとされたのだが、ぶるどーとかいうイノシシの方が皆のテンション鰻登りでびっくり。


『ティン、ラダ・・こいつそんなに有名どころ?』

『ん~?ずかんでみたけど・・・知らない』

『ぼくも~』


本当にこの世界の事を何も知らない私はそっと2人を振り返るが、2人もキョトンとした顔をしてただただ首を傾げるだけだ。


そこから早々に無くなったカーバンクルとは違って、ぶるどー・・・訂正、ブルドウは中々引き取り手が決まらずにブルドウの麻痺が解けると言うハプニングがあった。




―――――――――――が。




どういうわけか、私達が泊まる予定の宿屋のご主人さんがにこにこしながら拳一撃で仕留めていた。

その拳が一瞬光ったような気がしたのは・・・まぁ、魔法なんかがある世界だから普通なのだろう。


『何の騒ぎですか?ご領主様よりお預かりしているこの街の治安を乱す原因は私が買い取ります。良いですね』


とても爽やかな笑顔と優しげな声にさらりと揺れる焦げ茶色の髪の長身細身の男性。

爽やかな見た目とはミスマッチの不釣り合いな真っ赤な右手・・・をぐっと握りしめれば、みんな無言のまま首を縦に振るしかできないみたい。

こ、これがこの世界の普通なのかどうか・・・まぁ、周りの人たちが少々青い顔をしているので普通ではないのだろう。


どこか、気功を使う拳銃を持った破戒僧のお供の一人の腹黒どシスコンの様な気がしなくもないが・・・目の保養にはなるとだけ言っておこう。



『はぁ・・・心配せずとも皆さんに振る舞います。準備をしておきなさい』

『『『『『!・・はい!』』』』


そんな人たちを見渡してから、大げさにため息をついてそう言った宿屋のご主人さんの声に、まるで軍隊の様にそろった返事が聞こえてきてティンとラダが脅えたのはしょうがない事だろう。


『さ・・さ、騒ぎの原因を作ってしまい、申し訳ありませぇん!』

『いえいえ、謝罪には及びませんよ。こちらが一方的に悪いのですから。驚かせてしまい申し訳ありませんでした。この街の管理者として心から歓迎いたしますよ』


ちょっと怖かったけど、ガタガタと震えながらではあったけどちゃんと謝れた私に自己紹介と共に逆に謝ってくれたのは、この街一番の宿屋 ――出資者は領主様―― のボス・・・いや、ご主人でこの街の長をしている焦げ茶色の髪と緑色の瞳が爽やかな、怒らしたら鬼神系権力者だ。


『私はこの街を領主様より預かっており、趣味で宿屋兼食堂も営業してます。どうぞカイと呼んでください』

『あ、はい。私は・・・あ、アイトと呼んでください』

『アイトさんですね、バルセへようこそ。そちらのお二人はお子さんですか?』

『あ~いえ、この二人は―――・・・実父と継母に虐げられていた所を命からがら逃げてきた子達で、自分が先日保護した子です。別の国の子なんですけど、よっぽどひどい目にあったのかたった二人であの森を彷徨っていたんですよ』

『あ、あの森?!よく無事で・・いや、だからこんなにボロボロな格好なんですね?!』


私の説明にカイさんを始め街の人たちは驚愕したのちに痛ましげな顔をし、ティンは驚いたような顔で私を見上げていた。


『・・・自分が面倒見るって言いたいとこですけど、自分も根無しな上に記憶がちょっと。なので、どこかに信用できる人がいれば、この2人にとって幸せになる手伝いをしてくれる人がいるなら預けたいとも思ってます』

『そうですか、分かりました。アイトさんも大変でしたね。それにこんな小さな子供たちが不遇なんて・・・可哀想に、私達に任せてください。君達、お名前は?』

『ティ・・ティンです。こっちはラダです』


情は移る。私がカイさんに言ったことは本心だ。だけど、確実ではない事を望んでも自分だけならともかく、巻き添えにはしたくない。


『・・・』

『大丈夫だよ。何となくだけどね、カイさん達は信頼できる人だよ』

『う・・うん』


私の足にしがみつくようなラダと、ギュッと手を握って私を少し脅えるように見上げるティンにそういって頷けば、ティンはカイさんの方へ一歩近づいた。


『あの・・えっと・・』

『うん。なんですか』


カイさんはティンと目線を合わせるようにしゃがんで、ティンの話を真剣に聞いてくれている。他の人たちもしゃがみこんでラダに声をかけている。


自然に子供の目線に合わせている人たちを見て、ここは本当に良い街だと心から思った。



ティンに聞いた話は世界共通っぽいけど、やっぱり貴族と一般人とでは多少名乗り方は違うみたい。

貴族は愛称すら気を許した人以外には教えないみたいだが、やっぱり一般市民はそれだと困るしね。本名は名乗らないみたいだから、自分も愛称を名乗っておいた。


『なんか・・色々すみません』

『いえいえ、こちらこそ。まだ子供ですが、それでもブルドウなんて高級食材兼素材を久しぶりに見ましたからね。あぁ、金額はお騒がせしました迷惑料も入れまして金貨7枚に銀貨18枚お支払します』


それと、私の宿へのご宿泊を割引にしますよ。という申し出のもと、取りあえず2週間契約で1人一泊銅貨30枚の宿に銀貨4枚と銅貨20枚の所を銀貨3枚と半銀貨1枚で良いという・・・硬貨の価値的なことが一切わからないので高いのか安いのかわからないが、結構安くしてくれているんじゃないかと思う。


後々計算してみた感じ、銅貨50枚=半銀貨・半銀貨2枚で銀貨って感じだろう。金貨の価値については今の所不明だ。



―――――――――で、また最初に戻る。




「ふふっ、これで暫くはゆっくりできるね~。今まで野宿みたいなものだったし、今日は暖かいごはんっをいっぱい食べて、温かいお風呂にゆっくり入って、ふかふかのベッドでたっぷり寝よう」


ツインルームだけど、私はともかく2人は子供だから1つのベッドで十分だろう。

結構広い部屋で、2つのベッド ――多分セミダブルサイズ―― に丸テーブルとイス3つにクローゼットと収納棚が付いている部屋は、ティンとラダが多少走り回れるほどで、出入り口以外に2つある扉はそれぞれお風呂場とトイレだった。


しかも蛇口の管が繋がっているのは、キラキラ光った魔石という石が浮かんだバスケットボール位の大きさのウォーターボールの様なもの。

壁に埋め込まれているのでその奥で何か管があるのだろうけど、どういう仕組みかは不明でしかないが、トイレは水洗でお風呂場も綺麗で浴槽の他にシャワーまであった。



「うん!」

「は~い!」


私の言葉に嬉しそうに返事をする二人は、今はまだずっと着ていたボロ服のままだ。

宿に来る前に2人と自分用に何着か服を買ってきたけど、やっぱり風呂に入ってから新しい服にしたいという事で、現在湯船に湯を溜めている所だ。


「おっふろ、おっふろ」

「あんなにきれいなおふろ初めて~」


やっぱり、この世界が水洗トイレとか現代っぽい物があったり魔法・魔石で生活が豊かだろうとも、2人の話を聞く限り相当酷い扱いを受けていたのだろう。

お風呂に入ったら温かい食事構っているとなれば、2人の興奮は半端ない。


「おふろもう入れる?」

「どうかな?湯船に半分もあればもう大丈夫だよ」

「わたし見てくる!」

「ぼくも!」


ニコニコと無邪気にじゃれ合いながら風呂場へと走っていく2人の背に、微笑ましさとやりきれなさが込み上げてくる。


「もうだいじょーぶそう!」

「着替えは用意しといてあげるから入っといで・・・2人で入れる?」

「うん!いつもラダと2人で入ってて、私があらってあげてたからへーき!」

「そっか。何かあったら大きな声で呼びなよ」


はーいと、元気のいい返事でまた風呂場に戻っていったティン。脱衣所の辺りから二人の嬉しそうな声が聞こえてきて、私も天井を見上げて安堵のため息を吐く。

隙間風も吹かなく、キチンと天井のある場所に泣きそうなくらいホッとする。



―――――虫にビビって飛び起きなくても済むんだ!



しかし、あの2人は ――自分が知っているあの年代の子供にしては―― 聞き分けが良くて大人びたように感じる。元々貴族の子供だからか、とも思ってたけど、なんかちょっとした違和感がぬぐい切れない。


宿に来る前の買い物で、遠慮する二人に『子供が遠慮するな!』と一度叱った為か、取りあえず2人はさっき買ってあげた新しい服を見たり瓶に入った綺麗な砂糖菓子に無邪気に喜んでいた。そんな様子は子供って感じだった。


「ふふふ、かぁ~わいいなぁ~」


元の世界にいる私をとても慕ってくれたかわいいかわいい甥っ子と重なり、2人が幸せになってくれるよう願わずにはいられなかった。






早く彼の人たちを出したい!

しんみりしすぎていてもっとコメディ(にできる腕はないが・・)にしたい!!

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