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英霊の召喚士  作者: 息抜きおじさん
1章 英霊と少年
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第6話 温もりの街

 痛みで身動きが取れないまま、かなりの時間が経ったのだろう。

 日が少し傾き始めている。


 少しづつではあるが、身体を動かせるまでには痛みが引いた。

 だが、ドミネイトウルフとの戦いで負った傷が癒えた訳では無い。

 あくまでも、英霊を召喚した時の反動で起きている痛みだ。


 この力は強過ぎる。

 人の域を超えた力だった。

 この力があれば、どんな相手にでも勝てると思う。

 だけど、話しはそんなに簡単じゃない。

 反動だ、この強力な力【英霊召喚】には大き過ぎる反動がある、

 英雄の強大な力を使う、だけどその力の依代に問題がある。

 肉体を持たない英雄は、俺の身体を使い戦う。

 そして、その強大な力をもって敵を粉砕する。

 だが俺の身体は、それ程までに強大な力に耐えれるよう作られてはいない。

 強くなったと言ってもただの人間なんだ、限界がある。

 強過ぎる英雄の力は、敵諸共俺の身体を痛め付ける。

 死んでもおかしくない程に。


 これで力の調節してるんだよな。

 本気出されてたらひとたまりも無かったな……


 頭の中を駆け巡る不安は少しの間消える事は無かった。


 取り敢えずは身体を動かせる、有難い事に魔物にも目を付けられていない。

 戻るなら今だな。


 絶命しているドミネイトウルフから魔石とデカイ牙を回収して、重い体を引きずりながら街へと戻った。


 道中の記憶は殆ど無い。

 無我夢中だったのかも知れない。




 目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。

 寝返りを打つ度にキィキィと軋むベッドに、少しの不快感を感じて身体を起こした。


 ここは何処なんだろう。

 辺りを見渡すも、知っている風景の中に此処は無かった。


 少しの間思考を巡らせていると、扉の開く音が聞こえた。


 「目が冷めたのかい?!」


 驚きの表情を浮かべながら声を掛けてきたのは、街の門を守る兵士さんだった。


 「兵士さんが助けてくれたんですか?」


 「助けたというか、血塗れになりながら外から歩いてくる君が目に入ったもんだからさ、声を掛けたらいきなり気を失っちゃって。不味いと思って治療士(ヒーラー)を呼んで、診てもらったんだよ。後、此処は俺の家だから安心して良いよ」


 兵士さんは、笑顔で言ってくれた。


 「何から何まで有難うございます。きちんとお礼はしますので」


 深々と頭を下げながらお礼を言う俺に「困ってる人がいたら、助けるのは当たり前だよ」と、返してくれた。

 偽善では無い心からの言葉……だと思う。


 「でもね、もうこんな無茶しちゃ駄目だ。命は一つしか無いんだ、若くて無茶の効く身体だからと言っても命を失えば元も子も無いんだよ」


 「すいません、今回の事で本当に反省してます。色々未熟でした」


 「この失敗を活かす事が出来るか出来ないか、それによって一流になれるか二流三流で終わるかが決まると俺は思うよ、勿論僕はそれ以前に弱くて二流にすらなれない三流だけどね」


 おどけて言う兵士さんの顔は何処か寂しそうだった。


 「あの、今更なんですが名前を聞いても良いですか?ここまでしてもらって名前を知らないなんて失礼だと思うので」


 「そんなの気にしなくて良いのに、でもまぁ一応、俺の名前はガイだよ。」


 「ガイさん、本当に有難うございました」


 もう一度お礼を言うと、ガイさんは照れくさそうに頭を掻いていた。


 「そうだ、君の荷物は全部そこに置いてあるからね。忘れずに持って行くんだよ」


 荷物を確認して、ガイさんに頭を下げて家を出た。

 そしてギルドに向けて歩き始めた。


 今回は本当に運が良かった。

 死んでいてもおかしくなかったのに、何とか生きていられた。

 強くなった事で忘れてしまっていた異世界への恐怖心。

 それによって生まれた慢心。

 本当に情けない。

 もう一度思い出さなくちゃいけない、異世界の恐ろしさを、自分の弱さを。


 自分に言い聞かせる様に、何度も何度も心の中で呟いた。


 そしてギルドに着いた。

 扉を開けるなり、数人のギルド職員が俺目掛けて走ってきた。


 「大丈夫だったのか新人君?!血塗れになっていたのを目撃した人がいたって聞いたんだが」


 「門兵のガイさんに助けて貰って、心配をおかけしました」


 「そうか……無事で何よりだ。しかしあれだ、新人君程のステータスがあって何故シャドウウルフ何かに遅れをとったんだい?」


 「いえ、シャドウウルフは問題無く討伐出来ていたんですが、上位種と会っちゃって」


 俺の言葉にギルド職員や、その場にいた冒険者達の顔色が変わる。


 「上位種だって?!それでソイツは?今何処に?!」


 顔の筋肉をこわばらせながら、職員が詰め寄って来た。


 「何とか倒せました、これがドミネイトウルフの牙と魔石です」


 俺は袋から大きな魔石と牙を取り出してカウンターへと置いた。


 「ばっ…?!馬鹿な?!上位種を新人君が倒しただって?!ちょっと待っていてくれ。鑑定してくるから」


 職員は、魔石と牙を持ってカウンターの裏へと消えて行った。

 それと同時に他の職員や冒険者達もざわつき始めていた。


 ……新人が上位種を倒しただと?………ハッタリに決まってる………居たかどうかも怪しいぜ………


 そう言うのは、せめて本人に聞こえないようにやって欲しい。

 俺は傷つきやすいんだぞ。


 メンタルをゴリゴリ削られていると、カウンターの奥から笑顔を浮かべた職員が出て来た。


 「間違いない!これはドミネイトウルフの魔石と牙だ。まさか本当にやってるとは。これは偉業中の偉業だぞ」


 偉業?何がですかね?

 【英霊召喚】に頼り、もしかしたら死んでたかも知れないってのに。

 全然嬉しさが込み上げて来なかった。


 「はぁ、そうなんですか。でも死にかけましたし、別に偉業でも何でも無いですよ」


 「何を言ってるんだよ!ドミネイトウルフはBランクの討伐指定を受けてるんだよ。それをDランクの新人君が倒したんだよ。偉業以外の何ものでも無いさ!」


 俺のテンションとは裏腹に、周りは賑やかになっていった。


 何人もの冒険者から、やるじゃねーかやら、頑張ったなやら、色々と声を掛けてもらった。

 だけど貴方達さっきまで、俺の事散々な風に言ってましたよね?

 全く冒険者ってのは本当に……


 「取り敢えず新人君、精算と買取はどうする?」


 「あっ、お願いします。取り敢えずシャドウウルフの魔石がこれとこれとこれと…………」


 袋から次から次へと魔石を出すと、職員は若干引いていた。


 「シャドウウルフの討伐数30で、報酬は350ミルドだ。それと魔石の買取が1つ15ミルドだから合わせて800ミルドだね。んじゃお待ちかねのドミネイトウルフなんだけど、今回は討伐のクエストじゃないから報酬は出ないんだ、すまない。だが魔石の買い取りは行うから安心してくれ。ドミネイトウルフの魔石は1000ミルドだ」


 へ?聞き間違い?


 「今何と?」


 「1000ミルドだ」


 シャドウウルフの60倍以上だと?

 上位種ってやっぱやばいのかな。


 「まさかこんな高いとは思いませんでしたよ」


 「まぁ、上位種の体内から取れる魔石は魔力の純度が高いからな、高値が付くんだよ。弱くても魔石は高値で買い取りが行われる魔物もいるがな」


 魔力の純度か、聞き慣れない言葉だな。


 「って事で全部で1800ミルドだよ、恐ろしく稼いだな。後な、ドミネイトウルフの牙は武器の素材としても質が高い。売ったら金になるし、武器を打って貰えばなかなかの業物になる筈だ」


 売って金に…いや、今は少しでも強い武器が欲しい。

 自分の身を守る為に。


 「色々と有難うございます」


 職員さんに頭を下げて、ギルドから出た。

 向かうのは勿論武具屋だ。

 この世界じゃ大体の武具屋が鍛冶屋もやってるって話しだ。


 さっきギルドで聞いておいた店に行ってみるか。

 そして駆け足で武具屋に向かった。


 数分程で、目的の店に着いた。

 『シャモワの店』


 これ完全に自分の名前店名にしちゃってる痛いアレだ。

 大丈夫かこの店?

 少しの不安を抱きつつ扉を開けた。


 扉を開いた先に広がっていたのは、綺麗に陳列された武器と防具の数々だった。

 ドラゴンでも叩き斬れそうな大剣や、羽根の装飾をあしらったレイピア。

 そして、着けたら身動きが取れそうに無いくらいのフルプレートアーマーや、覗き込めば反射して顔が写るまでに綺麗な表面をしているキュイラス。

 様々な装備品があった。


 余りこう言うの興味無いと思ってたんだけどな、見れば結構テンション上がるもんだな。


 俺がまじまじと装備品を眺めていると、


 「うおい兄ちゃん、買うのかいソイツを」


 小さい身体に弾けんばかりの筋肉を身に付けた髭面のオジサンが声を掛けてきた。


 「あっ、いえ、ちょっと見蕩れてて」


 「まぁそこそこ良い出来だからな、見蕩れても仕方無いわな」


 俺の言葉に嬉しそうに笑っていた。


 「もしかしてシャモワさんですか?」


 「おう!俺がシャモワだ。で、何のようだ兄ちゃん」


 「素材を持って来たので武器を打って欲しいんですが、幾らかかりますかね?」


 「素材ねぇ……先ずは、その素材とやらを見せてもらおうか」


 俺はドミネイトウルフの牙を袋から取り出して、シャモワさんに見せた。


 「こいつは?!おい兄ちゃんこいつを何処で手に入れた?」


 「え?ドミネイトウルフを倒した際に剥ぎ取ってきたんですけど」


 「兄ちゃんがドミネイトウルフを倒しただと?!人は見掛けによらねーな。んで、コイツでどんな武器を作りたいんだ?」


 「短剣を二振り程お願いしたいんですが?お金にはそこまで余裕がある訳じゃないんですよね」


 「ほう、まぁ良い。取り敢えず今使ってる得物を見せてくれや」


 俺は腰から短剣を抜いてシャモワさんに渡した。


 「おいこら兄ちゃん!全く手入れしてねーじゃねーか!元はそこまで悪く無い得物だが、今はナマクラとかわらねーぞ」


 「えっ?!すいません。手入れの仕方とか分からなくて……」


 「全くよ……取り敢えずだ。コイツを真鉄に使う。ドミネイトウルフの牙で作る武器の芯になってもらう。兄ちゃんも手に馴染んだ得物の方が使いやすいだろ?」


 「はいっ、それは勿論なんですが……値段の方は……」


 「500ミルドで良いぞ、めちゃくちゃまけてるがな。初来店だからサービスだ。後な、剣を打ってる間、得物がなきゃ困るだろうからこの二本持ってけ」


 シャモワさんから刃に綺麗な紋が浮き出ている短剣を二本渡された。


 「えっ?!500ミルドですかっ?!是非お願いします。剣まで貸して頂けるなんて……」


 「その二本はまぁまぁ良い出来だからな。今まで使ってたのよりは遥かに切れ味も使い易さも上の筈だ。まぁ、これから作る奴はもっと良い出来になる予定だがな」


 そう言って又楽しそうに笑っていた。


 「楽しみにしてます!それで、完成にはどれ位掛かりそうですかね」


 「1週間って所だな、一応目一杯急いでだからな」


 1週間か、結構かかるんだな。

 でもそれで良い武器が出来上がるなら待つ価値はある。


 「じゃあお願いします!」


 俺はシャモワさんに剣のお礼を行って店を出た。


 今日は色々な人の優しさに触れた。

 ガイさん、職員さん、シャモワさん。

 この気持ち、温かい気持ち、これだけはどんな時も忘れずにいたいな。

 少し晴れやかになった心、宿へと続く道を歩く足取りは軽かった。

誤字がありましたら教えて下さい。

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