第3話 友に別れの挨拶を
少し動きます。
凄く視線が痛いです。
俺のアビリティの無能っぷりに2人から凄く嫌な視線を送られている。
「何でもうちょっと考えなかったんだよ…」
「直ぐに使えそうな物を選ぶのが普通だよね…」
え?普通はそうなの?
違うよね、明らかに名前にインパクトがあってチートっぽいのを選ぶよね?
俺が悪いんですか?そうですか。
「いや…凄く強力そうな名前だったので……」
「強力な物が最初から使えると思ったのか?」
考えてませんでした、すいません。
あぁ…泣きたい。
「とにかくさ、レベルを上げようよ。そうしたらきっと宏太君のアビリティも使える様になるだろうし。先を見よう先をね」
明らかに気を使われている。
現状80のMPが500になるまでに一体幾つのレベルアップが必要何だろうか。
考えるのが怖い。
……今は考えるだけ無駄か。
とにかく2人の足を引っ張らないようにだけ気をつけよう。
それが第1だ。
1人だけ妙に気合いの入った顔している俺達一行は順調に魔物を倒しながら街への道を進んでいった。
しかし2人が目を離すと直ぐに魔物にやられそうになる俺を庇うあまり、明らかにペースを落としているのは分かってる。
それが辛い。
「今日は此処で休むか」
敬愛の一言で本日の野宿先が決まった。
他より少しだけ地面の突起した丘のような所だ。
「城でいくつか貰った携帯食料があるから、そいつを食うぞ」
「あっそれとね、夜は見張りを1人立てて交代しながら休息を取りましょう。いつ魔物が襲って来るとも限らないしね」
こうして見張りに立つ順番を決める事になった。
最初は楓さん、次に敬愛で最後が俺だ。
1番信用に欠ける奴が最後になるのは当たり前だよな。
そうして、楓さんに最初の見張りを頼んで俺達は休む事にした。
「宏太、あんま気にすんなよ。役に立たないとか足を引っ張ってるとかそんな事ばっか考えてたらこの先持たねーぞ。それに俺も楓もそんな事微塵も思ってねーからな」
「うっ…くっ…べづにぎにじでねーじっ!」
「いやめっちゃ泣いてんじゃねーか!!」
「ないでねーじっ!」
「分かった!分かったから鼻水と唾飛ばすのやめろよ!」
そんなやり取りを繰り返す内に、いつの間にか眠ってしまっていた。
眠る前に、凄く温かい気持ちになっていたのは敬愛のお蔭だろう。
俺は何ていい仲間に恵まれたんだろうか。
「おいっ!起きろ宏太。交代だぞ」
どうやら俺の順番が回ってきたらしい。
「何かあったら直ぐに声を上げろよ。無理だけは絶対すんじゃねーぞ」
「分かってるよ、俺が無理をした所でたかがしれてるしね」
「言ってて悲しくなるだろそれ」
泣きたい。
「それじゃ眠らせて貰うわ。おやすみ」
「おやすみ。後は任せてよ」
とにかく、しっかりと見張りをしよう。
何事も無いのが一番だけど、万が一が無いとは限らないしな。
敬愛が眠りについてから1時間位がたった時だ。
さっきまで静かだった林の方から少しだけ妙な音が聞こえた。
動物の鳴き声や魔物の叫び声とも違う。
……人の喋り声か?………
昔から妙に耳だけは良かったんだ、だから間違える筈が無いの。
これは間違い無く人の声だ。
皆を起こして確認するべきだろうか?
どうしよう……
そんな事をうだうだと考えている内に、話し声は大きくなってきた。
考えても仕方ない、とにかく二人を起こそう。
俺は二人の元に行き声を掛けた。
「起きてくれ二人共、林の中から人の喋り声が聞こえるんだ 」
俺の声に楓さんが起きた。
「喋り声…?本当なの宏太君?」
「うん、間違いない。あれは人の喋り声だ 」
まだ起きない敬愛を揺すって起こし、さっきまでの話しを伝えた。
「人の喋り声ねぇ、夜にこんな所うろつく奴なんていんのか?」
「だから怪しいって話しをしてるんだよ敬愛君」
敬愛は寝惚けているのか、いまいち要領を得ない反応ばかりだった。
「駄目ね、完全に寝惚けてるわ。とにかく何があるか分からないから二人で確認しに行きましょう」
楓さんに促されるまま、林の探索に向かおうとした時だった。
「その必要は無いですよー」
陽気な声を発して、俺達にいきなり声を掛けてくる奴がいた。
どちらかと言えばイケメンに分類されるであろう顔。
中肉中背で髪は腰まで伸ばしている。
そして腰には細長い剣を携えていた。
「貴方は誰ですか?」
「んー、礼儀がなって無いなぁ。人に名前を尋ねる時は先ずは自分からって教わらなかったかい?」
「くっ…私の名前は橘楓よ。それで貴方は?」
「僕かい?僕はねぇ…そうだな、何にしようか?強いて言うならば君達を狙う者かな」
顔は笑っているが、その瞳からは狂気の様なものを感じた。
「私達を狙う?!どうしてっ!」
「本当は教えちゃ駄目なんだけどさ、何か今日は気分が良いから語っちゃうよ。君達ってさ、勇者様って奴だよね?とある人から勇者を攫って来て欲しいってお願いされちゃってさ。報酬もなかなかに良いし、直ぐOKしちゃったよ。城に忍び込むのは骨が折れると思ってた矢先の事さ、獲物が自らこっちに向かって来てくれるんだもん。やっぱり僕はツイてるよねぇ」
「攫う?意味が分かりません!そんな事して何になるんですかっ!」
「おいおい、いきなり大きな声を出さないで貰いたいなぁ。レディなら尚更だよ。因みにだけど、君達を攫う理由何て僕は知らないよ。僕はお金で雇われただけだからねっ」
こいつ何を言ってるんだ?
俺達を攫う?それを誰かに依頼された?
勇者攫って得する奴なんかいるのか?
「抵抗しても無駄だからねぇ、こっちに来たばかりでまだ戦う力なんて全然大した事無いのは知ってるからさぁ」
「ふざけんじゃねーぞコラッ!誰がお前なんかに攫われてやるかよっ」
完全に目覚めた敬愛が、怒号を含んだ声で言った。
「三対一ですよ、流石に歩が悪いんじゃないですか?」
「駄目駄目だねぇ君達は、全く力の差ってのを分かってないな。そんか子は早死にするよ?」
「うるせぇ!黙れや糞がっ」
敬愛は鞘から剣を抜くと、直ぐに相手に向け駆け出した。
普通では考えられない速度での突進に相手は避ける事も出来ず……出来…
避ける事もせずに片手で敬愛の剣を掴み止めていた。
そしてそのまま剣を握り潰した。
鉄が豆腐の様に簡単に崩れ去る。
俺達はその光景を目にし、恐怖した。
明らかに敵わない、根本的に強さが違う。
奴に対峙したのは敬愛だけだったが、その場にいた楓さんと俺も同様にそう感じていた。
「ほらぁ、武器も失っちゃったねぇ。残念無念又来週ってね」
ドゴッ!!
凄まじい音と共に敬愛の身体が中を舞った。
口から赤い物を吐き出し、ピクリとも動かなくなってしまった。
直ぐに敬愛の元に駆け寄り声を掛ける。
どうやら意識を失っただけのようだ。
「何でこんな……」
楓の表情が絶望へと染まっていく。
勿論俺も同じだ。
顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで何をしたら良いのかも分からない。
「二人は大人しく言う事聞いてくれるよね?怪我したくないもんね?」
情けない、だけど首を縦に振る事しか出来なかった。
それ程の恐怖を一瞬にして植え付けられてしまった。
「宏太君、少しだけ良いかな」
楓さんが小声で話し掛けてきた。
その顔は先程の顔とは違い、何か決意をしたかの様な勇ましい顔つきだった。
「アビリティを習得したわ、現状を打破出来るかもしれない……ううん、出来ない確率の方が高いかもしれない。でも私に今出来るのはこれだけ、ランダムだけだから」
実は夕飯の時に少しだけアビリティの考察を行っていた。
皆レベルが少し上がってApが増えていたからだ。
しかしどのアビリティも習得出来る程のApでは無かった。
ただ一つを除いては。
習得必要Ap5のアビリティ、それはランダム。
意味が分からず取る事をしなかった。
何か危険な匂いがプンプンしたからだ。
きっとドラ⭕エとかに出てくるパ⭕⭕ンテみたいなもんだろ?と敬愛は楽しそうに語っていた。
だからこそ今何だろう。
どうせ駄目なら使ってから諦めよう。
楓さんの瞳がそう言っている気がした。
俺は隠れてアビリティ欄を開きランダムを習得した。
「楓さんは使わないで、せめて少しでも二人の役に立ちたいんだ」
俺の言葉に楓さんは首を横に何度も振っていた。
せっかく決めた覚悟なんだ。
今使わなくて何時使うんだよ。
「二人で何をこそこそしてるのかなぁ?あんまり変な事してるとイジメちゃうよ?」
男は少しだけ不機嫌そうな顔をした。
俺達には何も出来ないと思ってる。
だから使うなら今だ。
俺はゆっくりと歩き男に近付いていく、まるでソイツの誘いに従うかの様に。
止まらない涙を無理やり拭う。
【ランダム】
使用後何が起きるか分からない恐ろしいアビリティ。
それでも使いますか?
・使う←
・使わない
俺は迷うこと無く使うを選択した。
俺と男の間の空間が裂け始める。
「なっ!何だこれは?!何をした!」
先程まで冷静だった男の顔から焦りの様なものが浮かび上がる。
「わがりまぜん!おでにも何がおぎるのがわがりぜんっ!」
もう自分でも何を言っているのか分からなかった。
男は逃げ出そうとしたが、既に空間の裂け目は広がり男の半身を飲み込んでいた。
勿論俺の身体もだ。
もうどうする事も出来ない。
後はただ待つだけ。
結果を確認出来るかどうか分からないのが辛いところだけど。
二人が無事なら大成功だよね。
精一杯の強がり、身体が全て飲み込まれる前に満面の笑みを作り、楓さんの方を向き大きく手を振った。
「おではっ!おでは大丈夫だがらっ!敬愛の事よろしくねっ!」
その言葉と共に、俺の身体は完全に裂け目へと飲み込まれた。
飲み込まれる直前に聞こえた楓さんの悲痛な叫びだけが少し心残りだった。
身体中が痛い。
痛いって事は生きているんだな…
痛みの走る身体を無理やり起こし、俺は目を開いた。
身体は傷だらけだが、それ程大怪我と呼べる様なものはおっていたなかった。
一体どうなったんだ?
それより此処は何処なんだ?
辺りを見渡すも、知っている景色など其処には無かった。
だけど一つだけ景色とは違う物があった。
それを見た俺は腹の中の物を全て吐いてしまう。
初めてだった。
人が胴体から真っ二つになって死んでいる姿なんて。
そうだ、さっき俺達を攫おうとしていた男だ。
俺か?俺がやったのか?
ランダムを使って一体何が起きたんだろう。
考えても答えなんて出る筈が無かった。
人を殺したのか……向こうなら殺人罪で逮捕だな。
何て事だ……
自分と仲間の為とはいえ、殺しちゃ駄目だろ!!
心の中で何度も何度も懺悔した。
それが意味の無い事とは分かっていたけど。
心が折れそうだ…
だけど何時までもこんな所にいる訳にはいかないよな。
思い腰を上げ、もう一度辺りを見渡す。
遠くの方にだが道の様なものが見えた。
取り敢えずあっちに向かおう。
俺は男に両手を合わせてから歩き出した。
1人で歩く外の世界は恐ろしいな。
俺みたいな雑魚なんてゴブリン一体でも怪しいぞ。
せっかく助かったのに、すぐに魔物にやられましたなんて事になったら目も当てれないよな……
この世界も向こうとは変わらないで、悪い予感と言うのは当たるものだ。
目の前にゴブリンがいた。
しかも二体だ。
どうする?!逃げるか?
いや、逃げても絶対に追い付かれる。
くそっ!どうすれば。
俺が考え込んでいる内にゴブリンはすぐ目の前にまで迫っていた。
くそっ!覚悟を決めろっ!
俺は二振りの短剣を抜き構えた。
姿勢を低くし、少し前屈みになる。
そして迫り来るゴブリン目掛けて駆け出した。
苦戦すると思っていた。
いや、殺られると思っていたのに呆気なく勝利する事が出来た。
俺の目の前にゴブリンの死体が二つ転がっている。
一体何が起きたんだ?少し前までの俺なら考えられないぞ?
もしかしてレベルか?
あの男を殺し……倒した事による経験値でも得たんだろうか?
考えても仕方無いのでステータスを開いてみる事にした。
Name:斎賀宏太 Age:16
Job:学生 Birthplace:日本 Lv.6
HP:400 MP:180
Strength:80
Defense:60
Vitality:65
Quickness:70
Magic:75
Ap:25
〈Ability〉
【異世界言語辞典】【英霊召喚E】
やっぱりだ。
アイツと戦う前、俺のレベルは2だったんだ。
まさか一気に4も上がるなんてな、何が起きるかわかんないもんだな。
取り敢えずせっかくレベルが上がってApが手に入ったんだ、何か役に立つものを習得しておかなきゃな。
戦闘に役立つ物が良いだろうな、常時発動型のアビリティは取っておいて損は無いよな。
あの二人を見て、ずっとそう思っていたんだ。
どうしたもんかね…ん……決めかねるな。
またしてもA型の悪い癖が出る。
長い長い考察の時間が始まった。
常時発動型とか強化や補助何て言ってたけど、やっぱりこれだよな。
【成長ボーナス】
多分訓練やレベルアップの時にステータスの成長にボーナスが付くような物だと思うだ。
だよね?そうだよね?
勿論答えてくれる仲間はいない、今は1人だ。
悩む必要なんて無いか、どうせ俺のステータスは落ちこぼれまっしぐらな圧倒的低スペック何だから。
少しでもボーナスで稼いでおかないといつか困りそうなもんだし。
1人頭の中で会話を繰り返して【成長ボーナス】を習得した。
成長ボーナスに必要なApは20だったので、残りは5。
5で取れる物なんて無いからな、次貯まるまでは我慢だな。
レベルアップした事により得た少しの自信を胸に、また歩き始めた。
ゴブリンを倒しながら歩いて行くと、やっと整地された道まで出る事が出来た。
レベルが上がったからだろうか、少し前までなら確実に息を切らしていたであろう距離を難なく歩き切っていた。
さてと、後は道なりに進んで行こうかな。
地図も無けりゃ何処かも分からないんだ。
食べ物も無いしお金も無いし……鬱だ………
駄目だ駄目だ卑屈になるなっ!
潤んだ瞳を振るい雫を飛ばす。
気持ちを入れ替えよう、生きていれば何とかなるさ。
しかし、歩けども歩けども景色は変わらなかった。
整地はされているのに、街はおろか村さえ見えてこない。
どうなってんだよ……
お腹が減ってきた。
喉も乾いた。
もうやだ……
そんな時だった。
遠くの方から馬車がこちらに向かって来るのが目に入った。
俺は馬車に向かって大きく手を振った。
「おーい!ここでーす!」
恥ずかしいけど生きる為だ、
本来なら俺は人見知りでこんな事を出来る人間ではない。
今ならば、異世界で行うコミュ障改善記と言うタイトルで本が1冊書けそうだ。
馬車がこちらに気付いたのか凄いスピードで近付いてくる。
「こんな所も合流場所だったとはな、良いから早く乗れ!!」
「へ?合流?」
「うだうだしてねーで早くしろ!!時間が無いんだよ!」
「はっ、はい!」
つい流れに任せ乗り込んでしまった。
何か違う気がするんですけど。
別にビビったとかそう言うんじゃ無いですから。
決してビビってませんから、いやまじで。
「畜生っ!間に合うか」
「分からねぇ!とにかく急がないとな」
やっぱり嫌な予感がする。
俺は恐る恐るこの馬車が向かっている先を聞いた。
「あのー、一体何処に向かってるんでしょうか?」
「はぁ?何言ってやがんだ!お前も依頼を受けた冒険者だろーが!!受けた依頼を忘れんじゃねーよ!!」
凄い怒られた。
めっちゃ怖い顔で怒られた。
敬愛より迫力あったぞまじで。
「いやー、俺冒険者じゃ無いんですけど」
「なぁっ?!ならてめー何で乗ってんだよ!!」
「何でと言われましても迷子だったので……」
「畜生っ!今更降ろす理由にも行かねーぞこれ」
「あのー、ですからどちらに向かってるんですかね?」
「村だよ村、オークの群れに襲われてる。」
「へ?」
今なんと?
「三十体以上いるでけー群れだ。早くしないと村の奴等が皆死んじまう」
これってもしかして相当やばい?
ピンチに自ら足を踏み入れた?
「お前ちょっとは戦えんのか?」
「えっ?どうしてですか?」
「戦える奴が戦えない奴を助けるのは当たり前の事だろーが、今は少しでも戦力が欲しい。戦えるなら手伝え」
戦えない何て言える雰囲気じゃなかった。
俺は小さく頷いた。
強面の男は、俺の肩を優しく叩き「頼むぞ 」と、一言だけ言っていた。
少し前までゴブリンに苦戦していた俺が、成り行きで向かう事になったオークに襲われている村。
あぁ……駄目だ、泣くわこれ。
めちゃくちゃ怖いけど、乗りかかった舟だしやるしかない。
目的地へと向かう馬車の上で、震える膝に何度も拳を叩き付けた。
誤字がありましたら教えて下さい(_ _)