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魔王は倒したけれど……

私は魔王を倒して帰って来たばっかり何ですけど、身辺整理を急ぎます。

作者: さゆき 諸星

正直に言うとまだ終わっていません。

名前を出さない短編をと、思って始めたのですが……

「王太子様が別の方と婚約したって、どういう事よ?おま……、アナタに求婚しに戦場に向かったと、王都中その話題で持ち切りだったのよ!」

「よもやまさか、王家からの御縁談を断ったのではあるまいな?そうであれば何たる不忠!」


 貴族の婦女子として、家族の前とは言えど、屋根裏部屋で夜着のままと言う訳にはいきませんので身なりを整え場所を変えたのですが……お母様は相変わらず自室に(こも)りきり、お父様と妹は質問というより糾弾ですね、コレ。


「確かに王太子様とは魔大陸から転移門をくぐり抜けた先、キヌア砦でお出迎えいただきましたが、私の方からはお断りはしておりません。」

「じゃあどうして?」

 妹達の表情は目まぐるしく変わります、(わたくし)がこの縁談をつかみ損ねたのは嬉しい、自分達が王家と外戚になれなかったのは悔しい、というところでしょうか?


 実のところ出発前から、王家との御縁談はあったのですが、私が女というのが問題でした。

 コレが男の使徒と、その身を案じて国元で待つ姫君ならば、吟遊詩人の物語のように大変絵になる構図になるのですが、例えオーガだのアマゾネスだの言われる竜騎士の私でも、婚約者になっていたなら、私が戦地に旅立ち、王子が王宮に留まってその帰りを待つのは臆病者の(そし)りを受けた事でしょう。


「求婚などされていないからですよ、王太子様は運命の出会いをなさったのです、私と同じ『花』でありカンガル魔導王国の第7王女ミリュティーア様とです、私の方は魔王城に突入する前に別の国の方とお式を挙げてしまいましたし。」

 私の精一杯で、出来るだけロマンチックに表現してみました。


 連合軍は人族の国だけでも33ヶ国、女神の使徒を輩出したのは10ヶ国。

 できれば魔王と相打ちになっていれば都合が良かったのでしょう、死んだ英雄は権力者の立場を脅かしません、平和の(いしずえ)国の為にその命を犠牲にしたと、涙ながらに褒めたたえれば良いのですから。

 一月(ひとつき)も魔大陸を巡らされて(残らされて)、残存兵力の掃討もやらされた事ですし。

 ですが全員生きて戻って来ました、ならば他国に盗られる前に自国の為に取り戻さなければいけません。


 砦で出迎えて下さった殿下は、さぞや周囲や陛下にせっつかれたのでしょう、心底嫌そうでしたが私が既婚者と聞いてホッとしていました。

 私の夫は、国益に適う相手ですし。


 私が殿下と結婚したなら、いずれ『戦いの古傷が原因(もと)で亡くなった』悲劇のお妃様になった(された)事でしょうが、第7王女(余り者)でも腐っても王女、彼女(ミューリィ)には母国という後ろ盾があります、むしろ正妃腹の異母兄弟に敵視されながら母国に留まるより、生え抜きの王族として人脈作りと根回しの達人として、新天地で辣腕を振るうことでしょう。




 私は夫のもとへ嫁ぎますので、この国を離れます。

「昨日は陛下に帰還の報告とご挨拶をした後は、あちらこちらを回って身辺整理の手続きをしてきたのです。」

 身辺整理と聞いて、父が身を強張らせました。


「手続きだと?何のだ?」

「戦いが終わったのですから軍を辞させていただく事になったのですよ、それに結婚して他家(?)の人間になりましたから、以前頂いた名誉伯爵の地位も、国に仕える貴族の義務が果たせなくなりますので、貴族院にそのご相談に参りました。」


 私には騎士団所属の竜騎士としての俸給と、名誉伯爵としての法衣貴族のお手当の両方が支払われていました。

 我が国は、魔大陸からは一番遠い大陸に位置します、戦地それも魔大陸でそれらのお金を毎月受け取る訳にはいきませんので、騎士としての俸給は軍部で留め置いて頂いていたのです、利子は付きませんが国の機関ですから安全……の筈でした。


 そのお金を巡って、父が軍部と貴族院の会計窓口で揉めていたそうです。

『渡せ』と要求する父、『支払えない』と突っぱねる窓口の係の方。


 一家の主が戦地に赴き、残された妻子が俸給やお手当を代理で受け取るのは当たり前の事です。

 勿論それには受取人の登録手続きが必要なのですが、父達は私の代理人ではありません。

 指定の手続きをしろとも頼まれて(言われて)もいません。


「出発前に手続きをしてくれと、娘に頭を下げるのが嫌なら、いらぬ欲も出すでないわ、恥さらしな。」

 忙しくて屋敷を別に建てている暇もなく、魔大陸へと旅立ちましたが、私は名誉伯爵の(くらい)を陛下より賜った時から、別家を立てて独立した他家の当主で、父の男爵家の跡取りは弟です。


 魔王軍との戦いに(問答無用で)送り出されるまでは、育てて頂いた訳ですから、生活に困窮しているのなら、お渡しするのもやぶさかではありませんが、まず、


 1、勇者一行の身内として頂く”お手当金“。

 2、王国軍に勤めている弟の俸給。

 3、小さいながらも男爵家の領地からの収入。

 特に、一つ目はそれだけで遊んで暮らせる程の金額だった筈でしたが、逆にそれが家族に贅沢を覚えさせてしまい、8年の間に借財が膨れ上がっていました。


 更に私には毎月の収入の他に、上級魔族を討伐した折の報奨金と大きな宝石の()まった勲章、そして貴族街の一画に屋敷を建てる為の土地を賜っていたのですが、忙しく出発して行った後それを預けた貴族院の大金庫(前世で言うところの貸し金庫ですね)でも揉め、私が魔大陸に突入したという知らせを受けとった後は、遺族年金と遺産の受取方法について問い合わせて、受取人が既に別の人に登録されている事実を知って係の方達に八つ当たりで怒鳴り散らす。


 各窓口の方々には、本当に申し訳無いことです。

 筋が通っていないのは父の方ですから、職務を(まっと)うしているだけの相手を『木っ端役人』呼ばわりして相当恨みを買った様です。

 会計を預かる方には仕事柄真面目で几帳面な人が多い様で、皆さん大変な熱意を持って父の振る舞いを事細かに記録していて下さいました。


「毎月お父様が窓口前の名物だったといわれて、私は顔から火の出る思いです。」

 お爺様にも、何度も叱責されていたそうですが、当主は自分だから隠居は引っ込んでいろと、言ったそうですねこの居間で。

「わ、私はお前の血縁者だぞ、育ててやった恩が有るだろうが。」

 恩ですか?……借財の返済に私の遺族年金(死ぬこと)当てにする(待ちわびる)人にそのようなことを言われても……


 幸い(?)な事に、こういう騒ぎは別に私だけでなく、家督を継げずに騎士団所属になった、妻子のいる四男五男の俸給の受取で、奥さんと実家の舅姑が窓口前で口論するのは良く有ったそうです。

 独身の息子の場合は係の人が泣き落としされた様です。


 お子さんを抱えたお嫁さんから生活費を奪うのも、兵士が戦地から戻って来たら蓄えが、長男と同居している親によって奪われているのもあんまりです。

 王宮としても一々付き合っているとキリがないので、出陣前に受取人として届け出がされていない人の主張は、耳を貸さない事で統一したそうです。


「血縁だから、私の(他家)の収入に手をつけて良いと言われるなら、今現在もお爺様の所に身を寄せていらっしゃる、亡き叔父様のご遺族の生活にも責任を持つべきでは?お父様にとっては実のお兄様の家族でしょう?

 逆にお爺様の年金の使い方にも口出しなさってますね?蓄えを(遺産として)遺せと。」


 父には、年の離れた四人の兄がおりました、長男が家督を継ぎ、父以外の三人は他家の婿養子に入ったのです。

 その中でも祖父の次男は、跡取りの控え(スペア)として兄に男の子が生まれたのを見届けてから遅い結婚をなさいましたが、奥様と幼い御子息一人を遺して亡くなられました、平時ならいざ知らず当時は貴族家の幼い当主は認められません、当主の義務として戦場に出たなら死んでしまいます。


 急遽(きゅうきょ)親類縁者の中から跡取りが選ばれましたが、この方とて家督を奪った訳ではありません、三歳の幼子の代わりに戦地に赴く義務を肩代わりしたのです。


「親族だから(他家の)私の収入を代わりに受け取りたいというなら、困窮している(他家の)親族の面倒も見て下さいな。お爺様のように。」

 貴族院から支払われていた私の名誉伯爵のお手当は、実はお爺様が受取人でした。

 そのお金で、ご自身の生家から(みず)ら身を引いた伯母と従兄弟をお爺様の隠居所に引き取り、お世話をして下さっていたのです。


「本来外国へ移住する貴族に、お手当などは支給されませんが、一代限りの名誉伯爵ではありますが、従兄弟を私の養子として跡取りに迎え、私の存命中60歳迄は有効として支給を続けて頂ける事となりました。」

「実の親兄弟を差し置いて、他人に爵位をくれてやる気か?私はそんなことは認めないぞ。」

 ですから他人ではありません、お爺様の孫で私の従兄弟です。


「お父様に認めていただく必要は、一欠(ひとか)けらもございません」

 王家に認めていただき、手続きも終わりました。


「お父様方は今後お手出しなさいませんようにお願いいたします。さもなければただでは済ませていただけなくなりますよ。」

 真面目なお話ですので、少し“威圧”を込めて釘をさします。


「何をするつもりだ?」

「私達を脅す気?」

 全力なら魔物はおろか魔将にも有効な私の”威圧“です、二人とも少しは危機感を感じている様です。


「脅してなどおりません、忠告です。

 あなた方が『貴族院の管理地である』という立て札が立ったままの”あの土地“に無断で(しかも私の掛け売り(ツケ)で)自分達の屋敷を建てようとしたのも、あちらこちらの窓口で起こした騒ぎも、弟の横領の揚句の傷害未遂も、王国の威信にかけて表沙汰にはなりません。」


 自慢ではありませんが、私は女神の使徒で我が国の英雄です、国民にも人気があります。

 私自身が他国へ嫁いでも、復興に向けてコレから大いに政治利用しようというその時に、その英雄には醜聞(スキャンダル)を撒き散らす家族がいる。


「ご自分達が大変まずい立場に立っていることを理解して下さい、私が国内にいなくなったその後で、陛下や宰相様が”何か“決断なさっても、その時私は”何もできません“よ?」

「何かって何よ?」

「取り潰された方が“数段マシ”な目に会うと言う事です。」


 外聞が悪いですから(英雄)の実家をお取り潰しにできません、ですが手段などいくらでもあります、ある日突然火事に見舞われたりしたいんですか?、使用人も巻き添えになるんですよ。


「弟の横領をなかった事にしていただけるだけでも、ありがたいと思って今後は慎んで下さい。」

 本来なら戦場での横領は、前線に居る者達の命を左右する重罪です。


「この国を去る私にとっては、当家が取り潰されようと、もはや関わりの無いことですが、その(おり)には私を被害者、あなた方を悪役として、貴族としての世間体も何もかも泥にまみれた風聞を流された上で全てを(財産名誉)失う事(死刑)になるでしょう。」

 あながち出鱈目(でたらめ)でもないんですが、私の実物から掛け離れた『イジメられている聖女』という演出は全力で止めていただきたいのです。


「分かって頂けますね?」

 私の気迫(殺気)(こも)った説得が通じたようで、お父様と妹がコクコクと何度も(うなず)いて下さいました。




 ところでまだ王命により公式に発表は出来ませんが、私の名誉伯爵の称号ですが、今回の魔王討伐の功績に因り、『名誉』が取れるそうですよ。

 私も聖人君子ではありませんので、この程度の意趣返しは致します。

破産程度ならば国が何とかしてくれると思いますが(監督者付きで)、宰相様はこの家族の実情がわかっているので堪忍袋の尾は切れやすいでしょう。この家族は自重するかなあ?

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