今日はとことんツイテナイ
この作品も前回同様短編で、1時間程度で仕上げました。この作品を読んで少しでも元気になっていただけると嬉しいです。
人生には波がある。何事も上手くいく時もあれば何もかも上手くいかない時もある。もしもこの波がなければ人生はひどく退屈なものとなるだろう。しかし、人間はいつも上手くいくことを願うものだ。そう、この男もその中の一人である。
まずい、会社に間に合わない。何故目覚まし時計は鳴ってくれないのだ。いや、止めた覚えも微かに…、そんな事はどうでもいいのだ。急がなければ電車に乗り遅れてしまう。俺は急いで家を飛び出した。駅までは徒歩10分、走れば5分で着く、ギリギリ間に合うかもしれない。スーツ姿で猛ダッシュしていると、あろう事か老人が道を尋ねてきた。全く人がこんなにも急いでいる時に冗談じゃない。挙句の果てにこちらが説明してもちっとも理解してくれない。あぁもう間に合わない。俺は狼狽えている老人を後にして再び猛ダッシュを再開した。ようやく駅まで着いたがもうすぐ発車してしまう。急いで階段を駆け上ると革靴が脱げてしまった。嘘だ…。電車は無情にも走り去ってしまった。もう会社には間に合いそうもない。朝から最悪の気分だ。ただこれはほんの序章に過ぎなかった…。
ようやく電車に乗り、憂鬱な気分を変えようとウォークマンでも聞こうとするがイヤホンが見つからない。しゃがんで鞄の中を見ていると、突然電車傾いて隣にいたキツい香水の匂いがする50代らしいババァが俺にのしかかってきた。これが若いOLだったらどれだけ気分が良かっただろうか。OLとババァでは天と地の差である。結局イヤホンを見つける事も出来なかった。そんな苦難を乗り越え電車を降りたが、既に勤務時間には過ぎている。部長は気分屋だ。部長が上機嫌である事を願いながら俺は会社に向かった。
…長い。もう1時間は怒られているんじゃないか。少なくとも30分以上は経ったはずだ。こんな日に限って部長は不機嫌だ。どうやら昨晩奥さんと喧嘩をしたらしい。寝坊をした自分も悪いが、いくらなんでも長すぎる説教だ。周りの人も気の毒そうな目で俺を見る。あぁようやく終わりそうだ。俺は妙な開放感と共に職場に戻った。しばらくして俺もだいぶ気持ちが落ち着いた頃、部下が俺の所にやってきた。部下の顔が青ざめている。俺は悪い予感しかしなかった。
ロクに昼飯も食えなかった。普段は優秀な部下がこんな時に限って発注ミスをした。その処理に追われ、気づけば3時になっていた。せめておやつでも食べたいが遅刻した身分、流石に今日は自粛するべきだろう。また長い説明を聞くのもごめんだ。今日はもう疲れた。残業はせずに早く家に帰ろう…。
電車に乗り、窓をぼんやり眺めていると窓に水滴が当たった。よく見ると雨が降っている。折りたたみ傘は…あぁそうだ。昨日傘を忘れた上司にに貸してあげたのだ。今からわざわざ戻って返せとも言えない。仕方がない、コンビニでビニール傘でも買って帰ろう。
とんだ無駄金だった。500円払って買った傘は急に吹き出した強風によっていとも容易く壊された。まだ駅から出て50mも歩いていない。今朝の天気予報では今晩は特に雨の降る心配もなさそうだった。ずぶ濡れになりながら歩いていると横を通ったトラックがスピードを落とさず水溜りを通り、買ったばかりの革靴が汚れてしまった。まったく、非常識にもほどがある。振り返れば今日1日いい事など一つもなかった。こんな1日など早く終わらせてしまいたい。ようやく家に着いた俺は直ぐに夕飯と風呂を済ませ、いつも通り6時に目覚ましをセットして早々に寝た。
目覚まし時計にはPM6:00にアラームがセットされていた。