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出会い

昔から心臓が弱かったルシアンは4歳の時に自分の心臓を健康な心臓に入れ替えるという魔術を受けることになる。

その副作用は激しく、彼は軽く1年はベッドとお友達ということになったが、時が過ぎれば発作も収まり、元は王族の証であるというハニーブラウンだが今は一部分が銀色となった髪だけが病気であったという証として残った。

ルシアンがカルアミルと出会ったのはベッドとの別れの挨拶が近くなってきた時だった。


(…こっちか?)


彼は人気のない、王宮の奥深くの暗い廊下を独りで歩いていた。

深夜のため廊下には人っ子一人いないが、実はこの通路に人の気配がないのはいつものことである。

そんなこととは知らないルシアンは、ただ警備のものに見つからなくてすむ、とほっとしつつ胸の高鳴りに惹かれながら進んでいった。



***



この国の第一皇子である彼は朝も、昼も、勿論夜も当たり前のように護衛という名の見張りがついている。

流石に枕元には立たれないが、扉の前でいつ何時でも殿下をお守り出来るように、と護衛らは燃えていた。

それもこれも、ルシアンが毎度毎度護衛を撒いてくれるので、それに対応するためには仕方がなかったのだが、その元凶は、あんなにくっついてくるとか恋人かっ‼︎とプンスカしながらもまたもや脱走しているわけで。

まさに悪循環である。


ルシアンが何かに惹かれるような、胸の動機に気づいたのはやっと発作も治まってきて一息ついた頃だった。

両親は魔術によってこの胸の痛みを治したと言ってきたけど、明らかに嘘だ。

だってこんなにも俺を拒絶している。

術後に俺を襲ったのは生まれた時から共にあった痛みではなく、只々俺を拒絶する、強い力だった。

心臓だけ別の誰かが動かしているような違和感。

そして同時期に変化した銀色の一房。

この心臓が誰か別のものだったということは、自然と理解していた。

理解したくなかったけれど、この心臓はそれを許してはくれなかった。

じくじくと、俺を責めるように流れ込んでくる感情の嵐。

辛い、嬉しい、悲しい、楽しい、虚しい、幸せ、そして、憎い。

わかった。わかったよ。

受け入れるよ、全て。

俺が誰かの人生を奪ったことも、ちゃんと受け止める。

だけど、その罪を償うにはまだ俺は幼すぎる。

それに見合うだけの対価を手に入れていない。

だから、もう少し待ってくれないか。

俺がその罪を償えるまで、それまで俺はちゃんとこの罪を背負っていくから。例え償えたとしても、この罪は消えたわけじゃない。

俺は永遠に、贖罪の中歩いていくから。




その後からルシアンは悩みに悩んだ。この心臓の元の持ち主にしてあげられることは何だろうか、と。


ベッドの上でうんうん唸る彼に、側近達は遂に馬鹿がこじれて変人になったが、まあ大人しくしていてくれるなら(どうでも)いいだろう、ということで、放置の方向になった。

多少己が使える主人に諦めを含めた生暖かい視線を送ることくらいは許されるだろう。

そう思わないとやってけない…。


そんなこととはつゆ知らず、ルシアンの方はまず大きな壁にぶち当たっていた。


…ってか、持ち主は男なのか?まさか女?…いやいやいや。


まず大前提の持ち主は生きているのか、という点だが。

現在もちょい拒否感を出しているこの心臓はある場所に行きたがっている。何処なのかは分からないが、無性にそんな気がする、というなんとも曖昧なものだが。

しかし、そうゆうことなら、その行き先に前の持ち主がいるのだろう。

つまりは、まだ、生きているのだと思う。というか、思いたい。


ただ、息子のために他人を犠牲にした両親のことだ。

もしかしたら罪人とかかもしれないが、自分の身体に合うサイズの心臓となれば、同い年くらいの子供を犠牲にしたことになる。

いくら罪人かもしれなくても、神様が一人一つその人だけのものと定めたものを取るのは気持ちがいいものではなかった。

そして、息子のためにそこまでする両親だからこそ、いつ何時口止めにその子の命をも奪ってしまうかも分からない。そうなれば、なるべく早く、目的地まで辿り着かなければならないだろう。

だが、今の自分では王宮の外だと自由に行動は出来ないし、中でさえ、まともに動けない。

これは少し時間が必要かもしれないな…。



気がつかない間に眉間に寄せていたシワをほぐしながら考えを再開する。とりあえず出会えた時を想定しよう。

何事もポジティブにいくべきだ。うむ。



まず、シミュレーションだ。

リハーサルは何事も大事なのだ。


えー、まずは挨拶。


「おはようこんにちはこんばんは。」


朝昼晩全てに対応している。すばらしい。

次に自己紹介。


「私はアンファノス皇国第一皇子ルシアン・ノア・アンファノスです。どうぞおみしりおきを。」


うむ、毎日マナーのレッスンは受けていたからな。完璧だ。

次にお礼かな。


「私はあなたの心臓をもらっていきてます。ありがとうございます。」


次に用件。


「罪をつぐなうために、あなたに何かをしようと思います。」


最後に締め括り。


「以上です。ごせいちょうありがとうございました。」


さて、上から順に通してみよう。


「おはようこんにちはこんばんは。私はアンファノス皇国第一皇子ルシアン・ノア・アンファノスです。どうぞおみしりおきを。私はあなたの心臓をもらっていきてます。ありがとうございます。罪をつぐなうために、あなたに何かをしようと思います。以上です。ごせいちょうありがとうございました。」



……おや?

なんだろう。挨拶も用件も入ってるのに、何かが違う気がする。


文章を書いた紙を見ながら、ルシアンはベッドの上で文字どうり頭をひねった。


ポクポクポク……チーン!


あ、そうか。

おはようはおはようございます、だな!

ちゃんと敬語で話さないと相手に失礼だしな。俺としたことが。


ああすっきり、といった風に紙に『おはようございます』とつけたす馬鹿の頭はやはり馬鹿であった。


因みに、後にこの話を聞いたカルアミルがルシアンにいった言葉は、


「ねぇ、馬鹿って最早種族にするべきだと思うの。だって馬鹿と同じくくりにされてしまう人たちが可哀想でしょ?」


といったものと、おまけで氷点下の蔑みであった。



閑話休題。



台本も出来たルシアンはそのまま相手に対して自分ができることを考えていた。


まずはやはり殴られるのは当たり前だろう。

もし、自分が被害者だったら、当たり前に、俺の心臓を返せ‼︎と殴るか蹴るかはしている。

かつて病弱だった自分は、健康な身体がどんなにかけがえのないものかをよく知っているからだ。


だからまずは大人しく、どんな罵詈雑言も暴力も受け入れよう。

それで相手が少しでも楽になれるのなら。


俺はこの罪に人生をかけると誓った。

国のために、民のために命をかけるのが王族というものだが、この命は心臓はまだ見ぬ人のものだ。

俺は王族だから、王族としての責任と義務がある。

だから、命を差し出すことは出来ない。

だから、俺は、人生を捧げよう。

俺の生涯をもって、その人を助けることを誓おう。

軽いことじゃない、俺に出来ないことも多い。でも、やらなければならないことだ。


握りしめた台本の紙はぐしゃぐしゃになってしまったが、ベッドの上で前をまっすぐに見つめるルシアンの瞳は、一つの決意をした、強い光をはなっていた。


まだ見ぬ人に向けて。


その時、無意識にルシアンは左胸に手を置いていた。



***



そして1年後、驚異的な速さを持って回復したルシアンはベッドという友とお別れした。

まあ実のところ、最初こそ1日中ベッドから起き上がれないほどだったが、ある時を境に発作が軽くなり、 読書などを自主的に行っていけるほどには快調だった。


そして目的を実行したのが、ちょうど1年後の今日この日、というわけである。


そして話は冒頭に戻るのだが、ルシアンは王宮の奥へ奥へと導かれる内に、被害者は監禁されているのでは、という仮説が確信に変わる。


殺されていないのは嬉しいが、監禁もいただけない。

ただでさえ罪を犯しているのに、これ以上相手に酷いことをしていないか、それが最もルシアンは心配だった。


ルシアンはこの1年で随分と勉強した。

何が心臓の持ち主の役に立つかわからなかったため、とりあえず何でも知っているようにしよう、といろんな本を読んだし、王宮の情報集めも欠かさなかった。

その結果、ルシアンの視野は広がったが、闇の部分まで見てしまったのだ。

貴族は勿論のこと、自分の両親まで割と灰色のことをしていることに気づいてしまった。

ルシアンはある方面については馬鹿だが、仮にもアンファノス皇国の第一皇子である。

その頭脳は神童と呼ばれるくらいにはよくつくられていた。

だからこそ、気づいてしまったのである。

両親にも、裏の面があることを。

この弱肉強食な貴族社会で生き残るためにはしょうがないことなのかもしれない。

しかし、それは同じ裏の顔をもつ貴族相手の場合に用いる仮面だ。

もし、被害者がただのこどもだったら。

何の関係もない、無抵抗な子供だったら。


ルシアンは顔を歪めながらも、薄暗い廊下を歩く足を止めない。


もし被害者が、監禁の上、酷い扱いを受けていたら…シャレにならないな。


どうか最悪の結末になっていないことを願って、只々歩みを進めることしか、今のルシアンにはできなかった。





ルシアンの幼少期です。だらだらと長くなってしまいましたすいません汗

カルアミルと出会うはずがそこまでいきませんでしたすいません汗汗

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