プロローグ
体が軋む。
気だるい体にムチを打ち目を開ける。
オレは高級そうなベットの上にいた。
辺りの高そうな装飾を見るにここは、城の中だと分かる。
そんなことを考えていると、3人の女性がオレを心配そうに覗き込んできた。
それは、今にも泣きそうな顔のオレの妻達だ。
狼人族の双子はユナとヨナだ。
彼女達は、オレが15の時に最初に救った亜人奴隷だ。
ユナは赤髪で、後ろで髪を一つにまとめている。
見た目通りの姐御肌で、いつも後ろでオレを支えてくれた。
ヨナは銀髪で、髪はおろしており肩の位置まである。
目元はおっとりしており、性格をそのまま表しているようだ。
二人共、狼人族特有の頭の上の垂れ耳と、嬉しいといつもフリフリするシッポがついている。
その横には、龍人族のエリンシアがいる。
彼女は、戦争の折に滅亡した龍人族の姫であり、最後の生き残りでもある。
闇の国に慰み者として捕まる前に救出した。
そのことがあり、七国同盟を結んだ今でも闇の国とは仲が余りよくない。
白髪ショートで、目元はキリッとしており我が強そうに見えるが、実際に話してみると国民を愛し慈しむまさに一国の姫のそれである。
見た目は人族と変わらないが、龍に化身することができるのと、全属性の魔法が使えることが主だった特徴だろう。
彼女達の腕の中には、まだ1歳にも満たない赤子が一人ずつ抱えられている。
正真正銘オレの子供達だ。
名前は、ユユ・ヨヨ・エリアナである。
オレ的には男の子も一人は欲しかったが、こうなっては仕方がないので諦めるしかない。
彼女達に似てすごく愛らしい。
将来は絶対ベッピンさんになっていることだろう。
親バカと言われても否定するつもりはない!
その横には、この国の勇者にして親友のローラントと、その婚約者のシルヴィア姫が悲しそうな顔をして立っている。
たくさんの視線を感じ部屋の入口に目だけ向ける。
そこには、ウサミミやイヌミミの亜人達がおり、部屋の中を覗き込んでいる。
彼らもまた悲しそうな顔をしている。
恐らく、いや確実にオレは死ぬのだろう。
それより、何で皆何も喋らないんだ?
もしかして俺が喋るの待ってるのか?
仕方ない、最後に一発かまして一足先に逝くとするか。
「ぁ…ぁあ」
ヤバい!
声がでねぇ!
皆がジロリとオレを見てくる。
うっ、緊張する……。
よし!もっかいチャレンジだ!
「ぁ…ぁあ……お前達……何て顔してんだよ。……笑顔で送り出してくれよ」
満面の笑みで言ってやった!
ガタッ
すると、ユナとヨナが崩れ落ちて泣き出した。
エリンシアは必死に笑顔を見せようとしてくれているが、瞳は涙で濡れてキラキラ光っている。
ローラントとシルヴィア姫といえば困った顔をしてオレを見ている。
部屋の外からもグスングスンと泣き声が聞こえてくる。
オレはどうやら決定的なミスをしてしまったようだ……。
そんなことを考えていると、ローラントがゆっくりと喋りだす。
「はぁ…まったくお前は無茶を言う」
「……仕方のないヤツらだ」
そんなことを言っているうちに意識がどんどん遠のいていく。
オレは最後の力を振り絞って最低限伝えたいことを言う。
最低限なのは、死に逝く者が未来のある者に制限をかけてしまうことを恐れたからである。
「ユナ、ヨナ、エリンシア子供達と…この国を頼むな。オレはいつでもお前達の幸せを願っているから。ローラントにシルヴィア姫、風の国を任せたぞ。……亜人族の皆、オレが救ってやったんだ幸せになってくれ。フゥ〜………一気に喋ったら何だか眠くなってきやがった………………」
オレは笑顔のままゆっくり瞼を閉じていく。
ゆっくり辺りが真っ暗になり、そして音が止んだ。
つまり、死んだのである。
風の国の盗賊ラスの25年という人生は幕を閉じた。
〜〜〜〜〜〜〜
気が付くとオレは辺りが真っ白な空間に一人ポツンと立っていた。
ここが天国なのだろうか?
「残念ながら違うよ」
いきなり後ろから声が聞こえてきた。
ギョッとして振り返る。
そこには白い服を纏った2m近い男が立っていた。
さっき確認した時は居なかったのに……。
どうなってやがる!
オレは、とっさにナイフを構えようとするが、そんな物はどこにもない……。
死んでること忘れてたーー!
この、大男はもしかして死神なのではないだろうか?
さっき、天国じゃないって言ってたし……。
マジかぁ〜。
でも心当たりが多すぎるんだよなぁ。
生前に結構やらかしたからなぁ。
そんな事を考えながら警戒していると大男は嫌そうな顔をして喋りだす。
「賑やかなヤツだねぇ。ボクは神は神でも死神なんてヤツじゃないよ。風の国の守護神だよ」
「守護神様!?」
「うん。そうだよ。いきなり現れてビックリさせたことは謝るよ。でもね、今は急ぎの用件があるから勘弁してくれないかい?風の国の危機なんだ。」
「!………分かりました」
「うん。ありがとう」
「正直あなたが守護神様なのかオレには分かりませんが、故郷の危機だと言うのであれば何でもします。」
オレがそう言うと守護神(?)はこれから起こるであろう危機と、一応の対抗策を教えてくれた。
まとめると、こうだ。
今回オレが命を落とす原因となった七大国と魔族との戦争が100年後にまた起きるらしい。
そこまでは良いのだが、これを機会に七大国でも統一戦争が始まってしまうらしく、実はそっちの方が結構マズく100年近く続く戦争になってしまうらしい。
そこで、各国の神々が考えたのは85年後の未来に各国の歴代最強の者を赤子として転生し魔族戦争に勝利して、その後に起こるであろう統一戦争を止めるというものである。
しかし、神々の中には統一戦争に賛成する者がおり、その予防策として異世界からも勇者を呼びだすらしい。
なぜ異世界からと聞き返すと、戦争もない奴隷制もない世界から来たものなら100年戦争に反対してくれるだろうとのことだ。
そんな、世界があるのか内心驚きつつ守護神(?)の話しは終わった。
「あまり多くは教えられないいけど聞きたいことはあるかい?」
「では、五つ質問があります。一つ目は、オレが転生する赤子の本来の宿主はどうなるのか。二つ目に、戦いに関する能力はどうなるのか。三つ目に、このことを周りの人に話して良いのか。四つ目に、異世界からの来訪者にオレは何かすべきであるのか。そして最後に、神々の中で注意すべきは誰なのかです」
「分かったよ。一つ目は、君が転生する子は生まれる前に死んでしまう予定の子だから気にしなくて良い。二つ目は、おめでとう。全部引き継ぎだよ。でも、体が小さくなるから慣れるまでは厳しいかもね。三つ目は、できるだけやめてもらいたい。神託で信頼できる者に伝えるつもりだが、広まれば広まるだけ動きにくくなってしまうからね。四つ目は、どっちでもいいよ。一応、王が管理することになっている。五つ目はね、注意するべきは火と闇と光かな。あと、神々が手を出すと文明が滅びるから直接手を出すことを禁止してるんだよね」
最後にさらっと怖いことを言われたが、気にしないようにしよう。
っていうより、気にしてもどうすることもできないし……。
「じゃあ、転生させるね。君がこれからの新しい人生において幸せであらんことを」
すると、意識がどんどん遠のいていく。
この感覚は、オレが死ぬときに感じたものと同じだ。
やがてオレの意識は真っ黒に塗りつぶされ無となった。
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