天使の少女と悪魔の少年
あるクリスマスイブの日。
一人の天使の少女が、一人の悪魔の少年に出会った。
少女の母は言った。
『悪魔は人の命を奪う』と。
少女の父は言った。
『悪魔は人を不幸にする』と。
天使である者は皆言った。
『悪魔は最低だ』と。
そして必ずこう言った。
『悪魔に関わってはいけない』と──……
少女の金色の瞳に映る悪魔の少年は、どこか悲しそうだった。
辛そうだった。寂しそうだった。
雪降る夜空を見上げ、泣いているようにさえ見えた……。
「……悲しいの?」
少女は少年に話しかけた。
すると少年は少女に何も言うことなく、己の黒い翼で飛び去った。
次の日。
ある一人の少女を救うため、その少女のいる家に向かった天使の少女は、再びあの悪魔の少年に出会った。
人間の少女は既に──
──死んでいた。
安らかに、まるで眠るように……。
その表情は柔らかく、
笑っているように見えた……。
悪魔の少年は言った。
「来世では、どうか幸せに」
そして花を一輪、眠る少女に添えた……。
少年はその少女のもとを離れ、白に包まれた世界に一人佇んだ。
そして拳を強く握り締めて、
「悪魔は……悪魔は人間を生き返らせるために、その命を奪うんだ……!!」
苦しそうに、悪魔の少年はそう言って俯いた。
自分自身に言い聞かせているようにも見えた……。
天使の少女は悪魔の少年を抱き締め、己の白い翼で包み込んだ。
「貴方は優しい。貴方は温かい。
貴方は人を──
──幸せにする」
そして少女は、少年の黒い瞳を見つめて言った。
「私は、貴方が好きだよ」
あるクリスマスの日。
一人の天使の少女が、一人の悪魔の少年に恋をした。
そして。
一人の悪魔の少年が、一人の天使の少女に恋をした。
少年の母は言った。
『天使は悪魔を嫌っている』と。
少年の父は言った。
『天使は悪魔を憎んでいる』と。
悪魔である者は皆言った。
『天使は不平等だ』と。
そして必ずこう言った。
『天使に関わってはいけない』と ──……
しかし、あの天使の少女は違った。
少女は少年に言ってくれた。
『優しい』と。
『温かい』と。
『人を──
──幸せにする』と。
少年は思った。
“あの少女の傍にいたい”と
“あの少女を守りたい”と。
“あの少女を──
──幸せにしたい”と。
しかし、悪魔の少年には何もできなかった。
ただ、見守ることしか、できなかった──……
次の日。
悪魔の少年は、一人の少女を殺そうとする男を見た。
少年は少女を守ろうとした。
そのために、男の命を奪おうとした。
その時──
──白い翼が、少年を止めた。
そしてその穢れなき白い手で──
──男の命を奪った……
「これで私も、貴方と同じ」
それは、あの天使の少女だった。
少年は、命を奪うことが嫌いだった。
命を奪う自分が、嫌いだった。
その心を、少女は知っていた。
だから少年を救うために、少女は罪を犯した。
【天使は人間の命を奪ってはいけない】
そんな天使の掟を破った。
天使の少女は、微笑んでいた。
白い翼が解き放たれたように、羽となって舞っているのにも関わらず。
背中から鮮血が流れ出て、白い世界を紅く染めているのにも関わらず。
ただ。
ただ、優しく微笑んでいた──……
堕天使となった少女を抱き締め、悪魔の少年はこう言った。
「来世では、一緒に幸せになろう。
その時は、僕が君を救って、守ってあげる……」
悪魔の少年は涙を流しながら、天使の少女に口付けを落とした。
そして少年は、少女の命と、自らの命を奪った。
二人の命は光となって、天高く上っていった──……
その夜。
空は黒い翼に覆われたかのように真っ黒で、白い羽のような雪がひらひらと舞っていた──……
………─────
神は言った。
「そなた達に命ずる。
──人間となり、幸せを、その手で掴め」と──……