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罪と共に在れ

キーワード。

乙女ゲー転生トリップ・七つの大罪・依存・貴方の存在に救われました



私・ハル。

転生者のため、この世界が【七つの大罪】という乙女ゲームの世界だと知っている。エルの存在に救われている。


エル。

“暴食”の咎を持った人間。ハルに対して好意を抱いている。が、呪いのせいで思うように想いを伝えられない自分をもどかしく思う。

――七つの大罪。


「暴食」、「色欲」、「強欲」、「怠惰」、「憤怒」、「傲慢」、「嫉妬」


これらは、罪そのものではなく、人を罪に導く要因となる欲望や、感情のことである。



『罪と共に在れ』



罪を犯した君と紡ぐ恋愛AVG。【七つの大罪】

それが、この世界の真実。ゲームの設定を基に創られた世界。

今のところ、前世でプレイしていたときと同じような設定のまま、この世界は成り立っている。

けれど、幼少期の辺りをゲームで遡ることはなかったから、現実の世界で実際に生きてみると、この世界はこんなにも歪んでいる――。


*  *  *


遥か昔。この世界が誕生した頃。多くの神々が、この地上にいたという。

神々は、それぞれの特性を活かして、この地上に楽園を創り上げた。

森や海。空に様々な生き物。その中で、最後に生まれたのが、知恵を持った人間であった。


それから、どれくらいの歳月が流れたのか。多くなり過ぎた人間は、ある日大罪を犯した。

その罪は神々の怒りに触れ、我々は、呪いを受ける身となったのである。


~創造神話より~


*  *  *


かつて、この世界の人間が犯した大罪。

それが何だったのか、ゲームの内容を思い出すことは出来なかったけれど、その罪のせいで、この世界には“咎人”が生まれた。


神は、私たちに呪いを与えた。

それは、七つの大罪としてあげられる、暴食、色欲、強欲、怠惰、憤怒、傲慢、嫉妬を7人の人間に埋め込んだ。

最初は、罪を犯した者たちに。彼らが相次いで死んだとき、人々は不謹慎にも胸を撫で下ろした。これで終わるのだと。

でも、呪いはそこで終わらなかった。神が与えた呪いは、とても強く、私たちにはどうすることも出来なかった。


罪を宿した者が死ぬと、その日から1年の間に生まれた子の中から新たな咎人が現れる。

身分や性別関係なく、この世界に生まれた者に罪が刻まれる。

そうして、罪を宿した子は、その罪に振り回されることになる。

常に怒り狂う者。満たされることのない空腹に喘ぐ者。どす黒い思いを持ち続ける者など。

普通の人が持っているもの以上の感情に苛まれる。けれど、自らその生を投げ出すことは叶わない。

それもまた、神からの呪いだった。


*  *  *


私が生まれた時期は、丁度“暴食”の呪いを持った人間が亡くなっていた。私を含む世界中の生まれたばかりの赤ちゃんたちが、施設へと移される。

灰色の壁に覆われた辛気臭い場所。そこには、白衣を着た研究者のような大人たちが、忙しなく動いていた。

ここがどこかも知らず。親の顔も知らないまま育てられる子供たち。

呪いがこの中の子供たちから現れるまでは、施設の人間たちの手によって育てられる。

無事に呪いを発現させた子が現れると、親が子供を返して欲しいと望めば、子供は本来の家に帰ることが出来る。

けれど、それが行われるのは、ほんの一部。ほとんどの子供は、この施設に取り残される。

呪いの発現は、大体4~6歳頃といわれている。その歳月は、私たちにしてみても。親にしてみても。あまりにも長い。

その間に新たな子を産む親も多い。そうして私たちは、忘れられるのだ。この身勝手な世界の仕組みによって。


私も、親に捨てられた一人。前世の記憶があっても。心が大人だったとしても。ある筈だった温もりを奪われて。

もう一度得られる筈だった居場所も奪われるのは、やっぱり悲しい。

どれだけ仕方のないことなんだと分かっていても、心が納得してくれない。

そんなとき、いつも傍にいてくれる存在がいた。私は、その子に救われている。


その子の名前は、エル。取り残された私たちの名前は、施設の人間たちによって与えられたもの。ちなみに私の名前は、ハルだ。

私とエルの出会いは、よく部屋の片隅に一人で、ぼーっとしていた彼に話しかけたのが切欠。

なんだか、似たような名前だね?と、小首を傾げながら嬉しそうに言ってくれたエルのはにかんだ顔が、今でも忘れられない。

私の心は、あのとき彼によって救われた。一人ぼっちだと思っていた世界に、ようやく色が付いた瞬間だった。


茶色の柔らかな髪に透き通った翠の瞳。儚い印象を抱かせる彼。私は、紅い髪の青色の瞳。

柔らかな色合いの彼とは違って、はっきりとした色の組み合わせ。それがまるで相反しているようで、寂しく思うときもあった。

彼には、近づけないんじゃないか。傍には、いられないんじゃないかって。けれど、彼は私の傍にいてくれた。

まるで、私の不安に気付いているように。




……知って、いたから。彼が、これから咎人になってしまうことを。

施設内にある学園に通うようになって、ヒロインに出会うことも。

その瞳が私を映してくれなくなることも。貴方とお喋りすることが叶わなくなるってことも。

全部、全部知っていた。だから、余計に不安になってしまう。


貴方を失うことが。

ヒロインが私から彼を奪っていくことが。

何も出来ない無力な自分が、憎くて仕方なくなる。


*  *  *


そっと、横を見れば、4歳で能力を発現してしまったエルの姿。あれから6年。私たちは、10歳になっていた。

彼が刻まれた罪は、暴食。その名の通り、朝も昼も夜も何かしら食べ続けている。それがずっと続くのだ。

死を迎えるそのときまで。満たされない空腹に襲われながら、ずっと。



研究所の敷地内に建てられた寮に、私とエルの部屋がある。エルと私が、同室を望んだからだ。

この施設内において、私たちよりも呪いを発現させた子の望みが優先される。

だから、エルが望む限りは、私は彼の部屋で一緒に過ごすことが出来る。


部屋に入れば、エルのために用意された食事と、私の食事分が机に置かれていた。

夕食を食べ終われば、彼の横にただ寄り添った。

そうすれば、食べるのに忙しなく動かしていた両手の、片方だけを私に伸ばしてきた。

そっとその手を握っても、彼がこっちを見てくれることは、もうない。

一心不乱に空いている片方の手で、その口に食べ物を運び続けるだけ。

それでも、きゅっと握れば、微かに握り返してくれる彼の手が好きだった。



神様は、私たちを許してはくれないけれど、それでも彼に呪い以外の感情を、ほんの少しでも与えてくれたことが、嬉しいと感じてしまう。

きっと私と彼は、この先見つめ合うことも。抱き締め合うことも出来ないけれど。

それでも、彼は彼なりに精一杯私に好意を向けてくれていることを知っているから。私は、彼の代わりに沢山の言葉を贈ろう。



貴方が好きです。

このモノクロの世界で、貴方と出会った瞬間に私の世界は色付きました。

貴方は、私の心を救ってくれた。今も、私は貴方に救われている。


だから。どうか、お願い。

これから通う学園であの人に出会っても。あの人に惹かれても。

あなたの罪がなくなり、あの人の手を取るそのときまでは、



どうか、貴方の傍にいさせて下さい――。



『罪と共に在れ』 了

実は、最初考えていたとき、こんな流れじゃなかったんです。

学園に、7つの大罪を宿した7人の男性がいて、その内の一人、暴食の子が主人公と仲が良い。

で、乙女ゲームということなので、勿論男性陣は美形。なので、暴食の子の横に寄り添っている主人公がやっかみを受ける。

けど、エルはハル以外には興味がないので、周りの人間を無視。でも、ハルに対して暴言を言うようなら、食べながら相手を睨んだりとかするっていう、シリアス路線じゃなかったんです。


他に考えていた設定は、咎人の死は、一人目が死に始めると10年の間で、七人全員が代替わりするとか。

(そのため、一人目の子供を産んで施設に引き取られ、二人目を産んだそのときにも施設に引き取られる場合があったりします。そのせいで、心が病んでいく母親というのも多く存在する設定です)

そういう設定にしておかないと、ゲームヒロインとの年齢差が大変なことになると思いまして。

自分の中でこの乙女ゲーの設定として、年の差をメインにしたいわけじゃなかったものですから。

オジサマとかは、まあロリコンと言われようが男性側の問題なので、その辺は置いておくとして。

ショタすぎるのは、色々とヒロインが犯罪の匂いを醸し出しそうなので……。


それと、ゲームヒロインの設定は、決めていなかったりします。

罪を消してしまう能力があるとか、いやいやそれよりも、元々は八つの枢要罪だったから、新たな罪を創り出して、それを背負う者にしてしまおうか?とも考えてはみたものの、別にゲームのヒロインがメインじゃないから、そこまで考えなくていいかなって思ったため、中途半端に考えるだけ考えて終わりました。

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