乙女ゲーの世界で ケース④
キーワード。
乙女ゲー転生トリップ・前世の記憶持ち・攻略対象になりました!・女から男に・最早、無双・お仕置き・下ネタ
私・神城優輝・神代優稀。
前世、女。転生ありの記憶持ち。
乙女ゲーの攻略対象者(♂)として、生まれ変わる。
ヒロインちゃん・この子・この人。
私と同じく転生者(記憶持ち)生まれ変わった学園で無双状態の人。
太陽の光を受けて、きらきらと光る色素の薄い髪。
ぷるるんと、艶のある桃色の唇。
睫毛ふっさふさの下にある、ぱっちりとしたキラキラおめめ。
触れたら気持ちよさそうな、すべすべの白いお肌。
どれをとっても美少女だね!と言わせちゃうようなその顔で、甘い言葉を囁く。
「大丈夫です。ちゃんと分かっていますよ私は。貴方が私のことを好きだっていうことを」
いやいや、何言ってんのあなた!?これっぽちも分かってないと思うよ!!??
この人、男(特に美形)しか眼中にないって分かっていたけど、勘違い発言連発しすぎて、痛い子とか言ってあげれるようなレベルを、とっくの昔に越えちゃってたことは知っていたけどさぁ!
流石にこれはない!どん引きどころか、鳥肌が凄いんですけどー!?
『乙女ゲーの世界で ケース④』
ああ、申し遅れました。私の名前は、神城優輝といいます。
ついでにいうと、前世でも神代優稀と言い、そのときは女の子でした。
そんな私は、今流行(?)の転生をしたんだけど……。
これまた流行(?)の乙女ゲー作品とやらに生まれたみたいなのですよ(ぎにゃー)
そこまでは、いいんだよ?正直な話、ゲームがリアルになるとこうなるのかーって面白かったし。
ただ、最初の頃は目に痛いカラフルな頭とおめめの色に、ここはコスプレ会場かっ!?って脳内ツッコミ炸裂しちゃったけどさぁ(髪の毛がカラフル=コスプレっていうイメージしかなくて、ごめんなさい)
それと、何故か男として生まれ変わっちゃったんだけど、なんで記憶残したし!?
うえーん。こんなんじゃお嫁……じゃなかった。お婿にいけないよ!
何が楽しくて毎日、自分のお婿さんを見なくちゃなんないのさ!?最初の頃とか、ちょっとドキドキしちゃったじゃないの←
それと、自分の顔にもね。無駄に美形過ぎてびっくりしてさぁ。とりあえず、勉強とか運動とか頑張った。
やっぱり、元女子としては、美形が文武両道ってかっこいー!惚れるわーって、なると思ってさぁ。
明らか、女の子の好感度狙いですが、それが何か?
キャーキャー言われて、チヤホヤされたいがために頑張ったけど、これがまた滅茶苦茶しんどい!
元となる頭脳が、この私だからね。もうね、前世の自分の分まで頑張った感じがする!
そんな私も、とうとう高校3年生!ちゃっかり副会長っていうポジションもゲットして、内申点上げまくりじゃねコレ?と、内心うはうは(死語ですか?)してたら、ゲームの舞台に突入ですよ奥さん!
ヒロイン、見た目は可愛んだけど、可愛い子なら周りを見渡せば結構いるから(ゲームの世界ってだけあって、リアルの世界でも、それはそれは美形がいっぱいなんだよね)これといって気にしてなかったんだけどさぁ。
とうとう来ましたよヒロイン無双状態!
あれ?けど、乙女ゲーって逆ハールートなんてあったっけ?
せいぜい、ノーマルルートで皆和気藹々止まりじゃなかったっけ?あれぇーおかしいな?こんな状態、知らないんだけど。
逆ハーってさ、小説や漫画で読む分には大変美味しい展開だけど、リアルでその光景を見るのって微妙なんだよね。
ドラマや映画の恋愛をメインにしたものが苦手な私からしてみれば、まじ勘弁って感じ。こういうのは、二次元だけでお腹いっぱいです!
だから、勝手に視界に入らない程度で、きゃっきゃっうふふしてればいいのにさぁ。
なんで、ヒロインこっちくんの?え?自分も攻略対象者の一人だから?
……え?
うっそだー!全然気付かなかったよ自分。あー……だってさぁ、何十年も前にプレイしたやつだよ?
前世なんて、92歳の大往生だったんだから、記憶なんてあやふやもいいところだったしさぁ。
名前はまず憶えてないし、とりあえず乙女ゲーの世界だー!ぐらいしか思い出せなかったし。
いや、そこだけ思い出せただけでもいいほうじゃない?自分、すんごい頑張ったと思うよ!
それはそうと、うーわーまじかぁ。だから、ちろちろと視界に入ってきたのかヒロインちゃんってば。
なんか、これヒロイン?っていうくらい、私ヒロインなの!皆、私のこと愛して!!!って勘違いもいいところな程、無双している女がだよ?
こんなのただのきちがいだろーって、げんなりしてたところだったのに?これが、ゲームの設定期間が終わるまで続くと?
何それ、いじめ?地獄というか、拷問だと思いますよー?可哀想でしょうが。主に自分が。
そんなヒロインちゃんが、他の攻略対象者に媚を売りつつも、自分のところにも通い始めて、何を思ったのか、登校してきた私に言ってきたアレ。
校門過ぎたばっかで、人がいっぱいいる中で切りだしてきた冒頭の台詞。まじで、意味がわからん。
万年お花畑なの?この子の脳内。おめでたすぎて、思わず感心しちゃうよ。ついでに、鳥肌が止まらん!
だから、言ってやったともさ!!
「え?頭、大丈夫?」と。
「え?」
その大きなおめめをぱちぱちさせてるヒロインに、更に追い打ちで、
「寧ろ、二度と視界に入って欲しくない程度には、嫌いかな?ほら、見てよ。鳥肌が凄いもん。早く手を離してくれないかな?」
やんわりどころか、直球ストレートで言ってあげましたともさ!!
いや~、あのときのヒロインの顔は、面白かったねぇ。今の今まで彼女の無双を止めたものは、誰もいなかったからさぁ。
なのに、公衆の面前で、ぶった切ってやりましたともさ!ひゃっほーい。私は、いつだって女の子の味方でありたいのよ!
主に、可愛い子の前では。白い目で見られるようになった、かいちょーたちや、ヒロイン無双状態で捕獲された男共を遠巻きに見ていたからね!
次は、自分があんな目で見られるのか!?って思ったら、それは嫌じゃない?
あいつらが、ヒロインの尻を追っかけている間に、他の女子達と仲良くなったほうが、お得なんじゃないかって思ったんだよねぇ。
男友達もいいけど、ここはほら。元女性としては、女の子の友達も欲しいしねぇ。
他の男子を生贄にして、自分は他の女の子とごろごろするんだー!
そんなことを脳内でぐるぐる考えていたら、ヒロインちゃんの顔面がまんで凄いことに!!ひゃー、恐い。
その顔を一瞬にして隠すと、涙をぽろぽろと流して、どうしてそんなこと言うんですか?って言い出した。
うへー。面倒くせぇ。ついでに外野の男共や、かいちょーたちも参戦してきて、うぜぇ。
けど、女の子たちは私の味方っぽくて万歳!うはー嬉しいねぇ。
思わず緩む顔を、きりりと引き締めて、もう一発喰らわせてやるぜー!
「どうしても何も、君のことを好きでも何でもないのに、わかっているよと言われても気持ちが悪いだけなんだけど?」
「なんで、そんな悲しいことを言うんですか?……あ、そんな意地悪なことを言っても、ちゃーんと分かっているんですからね!そう言って、私の気を引きたいんでしょう?」
ふふんって得意げなカオされても困るよね?滅茶苦茶困る。この子の頭の中どうなってんのかな?
いや、まぁ、中身を見たいとは思わないけど。想像するに、脳内がお花畑は確定だろうね。どきついピンクとか紫とか、毒っぽい感じで。
「は?君の気を引くことに何の意味があるの?分かってないくせに、あたかも自分は分かっているんですから!って言われても……あんまり、ふざけたことぬかさないでよね?
君の脳内は、常春なの?はっ、それは、おめでたいねー羨ましい限りだ。けど、その脳内設定を私に適用しないでね。鬱陶しいだけだから」
「……っ、なんで?どうして?ゲームのヒロインである私に靡かないとか、そんなの絶対おかしいわよ!!」
あれま。これだけで、もう戦意喪失?小声で言っているみたいだけど、ぜーんぶ丸聞こえだよ君ー。
というか、君も私と同じで前世の記憶持ちなのか。あんまり、なめた真似しないで欲しいよね。
前世ではゲームだったけど、たった一度きりの人生なんだから、ようわからん君のお遊びに付き合ってやれる程、大人じゃないんだよ私は。
さてと、あとはこの狂ったお姫様に、現実の世界とやらを突き付けてやりましょうかね。手始めに誰がいいかな?誰を元に戻そうか。
私としては、他の女子たちと仲良くしていたいけど、他の男共も元に戻してあげないと、狂ったままだもんね。
なんだかんだで、この世界も居心地がいいから、彼らの将来も心配しちゃうんだよ。私としては。
だから、お姫様?ゲームは、これでお終い。
少しは、楽しんで貰えたかな?それじゃあ、今度は私が愉しむ番。学校生活を少しの間とはいえ、狂わせた君は罪を償わなくちゃいけない。
だから、その思い上がった思考を潰してあげる。
さぁ、ヒロインちゃん。今度は、私が君で遊んであげるよ。
* * *
手始めに、かいちょーからなんとかしないといけないよね?この人が働いてくれないと、話にならないもん。
というか、私に仕事押し付けんなこの馬鹿!って感じだしさぁ。そろそろ、終わりにしようよ、かいちょー?
本来の君が、こんなヒロインの取り巻きになるはずがないもんね。
ぶつぶつと言っているヒロインの姿に怒ったかいちょーが、私の目の前に立ちはだかる。
「泣かしちゃ、ダメ」
うはー。片言可愛いですねーかいちょー。その細マッチョで端正な顔立ちでそれは、いろんな意味で破壊力あると思いますよー?
「いやいや、泣きたいのはこっち。いきなり意味わからないこと言われたら、拒絶するのが普通だから」
にへらと笑うと、更に睨まれました マル
「ふはっ。かいちょーそろそろ目を覚ましたらどう?君は、こんな奴のために、君の愛する学園を壊す気?」
かいちょーにしか聞こえない声で告げると、視線がかち合ったかいちょーの瞳が揺れ始め、自分のチカラが効き始めたことを知る。
ヒロインちゃんが、きちんと自分のお仕事をこなさなかったおかげで、正気に戻してあげることは簡単そうでよかったよ、本当に。
もし、ゲームの主人公みたいに動いていたら、戻しにくいもの。
まぁ、主人公のように動いてくれていたら、それはそれで一つの恋物語として成立するから、そもそも元に戻してあげる必要もないんだけどね。
ただ、一番厄介なのは、主人公として動きつつも、静かにこの舞台を狂わす人が厄介。
皆に愛されながら、周りから祝福されながらも、それでもどこか歪な世界を構築する人程、厄介なものはないよね?
その点、このヒロインちゃんは、私利私欲の為に動いてくれたから、本当に良かったぁ。
欲に溺れすぎて、補正がないと皆の心を惹きつけられない状態だしねぇ。
好感度が、地を這う感じだから、現実の彼らの心と、惹きつけられる心とが拒絶し合ってる。
そこを引き離して、二度と惹きつけられないようにしてあげるのが私の役目。というか、役割ね。
ゲームを始めたのがヒロインなら、それを終わらせる人間がいてもおかしくはないでしょう?って、この世界の女神に、言われたんだ。
始まりを告げる鐘を鳴らす者と終焉に導く者は、表裏一体の存在であるって。
彼女は言ったんだよ。ヒロインは二人いるって。男として生まれ変わった私と、あのヒロインちゃんの二人。
どちらかが幕を開けたのなら、閉める役割もまたどちらかがしなくちゃいけない。
けれど、幕を上げたヒロインは、幕を下ろす役割が残っているけど、もう二度と幕を上げることは叶わない。
その逆もまた然り。幕を閉じた私には、幕を開けることが出来る。そのかわり、二度と幕を閉じることは出来ない。
だから、私が幕を開けない限り、このゲームを始めることは不可能ってこと。
頼まれても幕を開けるつもりはないから、ゲームが再び開始されることなく、皆それぞれの道を歩んで行くことになる。
ご愁傷様、ヒロインちゃん。
「みんな、おはよう。いい夢は見られたかい?」
特定の誰かにじゃなくて。夢に囚われた人たちの目覚めを促す。
“おはよう”
これが、幕引きの合図。
『乙女ゲーの世界にて ケース④』 了