乙女ゲーの世界で ケース①
注意事項。
このシリーズの物語本編内に出てくる乙女ゲームのシステムについて、ノベル形式のゲームでよく見かけるものを書かせて頂いております。
偏った知識ではありますが、ご理解頂けますと幸いです。
キーワード。
異世界トリップ前・乙女ゲー・二次元顔ぱねぇ・愚痴・不満・批判・狂人・下品・BLっぽい表現、少し有り
私。
乙女ゲー「狂宴」にトリップしてしまった女。
現・ヒロインポジション。
楢橋水奈。
乙女ゲー「狂宴」のヒロイン。平凡な容姿。
現在、水奈=私となっている。
18歳の誕生日を迎えた私は、全てのことを思い出していた。
それは、私の前世……と、よんでいいのだろうか?
……とにかく、以前生きていた頃のことを思い出したのだ。
私が以前生きていた世界で、とあるゲームが発売された。
通称“乙女ゲー”とよばれるそれは、ネット小説でお馴染みになりつつある異世界トリップを題材にしていた。
当時は、その設定を活かした乙女ゲーが、あまり存在していなかった。
例えあったとしても、中国の奇書“三国志演義”“水滸伝”“西遊記”を舞台に、少女がその世界にトリップしてしまうものが何作品か出ているくらいだったと思う。
そういった作品たちの中で、このゲームは全く新しいものだった。
世界観・政治・宗教・生活水準・身分階級など、全て新しく創り出されていた。
設定もまた、曖昧なものではなく、事細かに決まっていたらしい。が、その辺りについては、記憶があやふやで覚えていない。
ただ、あまりにも詰め込み過ぎて、説明文っぽいと批判している人がいたような気がする。まぁ、私も説明だらけは好きじゃない。
けれど、全くの新しい世界を創り出し、その世界について理解を求めようとした結果がこれだったのだろう、と当時の私は思っていた。その点については、気にしていない。
寧ろ、土台作りがしっかりとしたゲームという印象の方が強い。しかし、その中身は酷く破綻していた。
ゲームの中身が、というのではなく、その世界で生きる人々……というか、攻略対象者の性格が、と言ったほうが正しいだろう。
とにもかくにも、“狂人”率が半端ないのだ。誰得?と問いたくなる程、いかれ野郎共でひしめき合っている。
そんな彼らと対極な存在として生み出されたヒロイン。
(ちなみにヒロインは、日本人の女の子という設定だ。ヒロインに共感しやすいよう、制作側からプレイヤーに対する配慮なのかもしれない)
ヒロインは、“平凡”な女の子と設定されている。
平凡と言いつつも実は美少女だったというのは、あの当時の乙女ゲーには結構存在していた。
もしくは、最初から夢を詰め込んだような美少女など。だが、この作品は“従来”のものと違い、設定通りだった。
その忠実さは、素晴らしかった。
美麗な対象者や、世界観を拡げる役目を担っている、サブ・モブキャラたちを描きあげた実力派絵師様。
その方が描く平凡な少女は、本当にどこにでもいそうな感じの子で、逆に凄いなと思ったものだ。
だが、ヒロインのようだけどヒロインじゃない!と、心ないレビューを書く人たちもいたようだが、私としては、大変好感のもてる絵で、立ち絵を見た瞬間に好きになったものだが。
実際にゲームをしてみるといい子だし、可愛かったから尚更好きになった。
虚飾過多になりがちなヒロインという立場にもかかわらず、素の自分を曝け出している少女が、見ていて本当に可愛かったのだ。
話は変わるが、このゲーム。異世界トリップならではの落とし穴がいくつもある。
ヒロインである“楢橋水奈”ちゃんがトリップしてしまった世界は、日本の常識が一切通用しない未知の世界。
そんな世界で甘やかされ、周囲の人間にちやほやされる世界かと思いきや、そんなことは一切ない。
ゲームの煽り文句や、概要を読んだ通りの世界が待ち受けている。
――殺戮の中で狂った者たちと織りなす恋愛アドベンチャー。
「狂宴」
このゲームはPCソフトとして発売されており、内容としては、18禁扱いとなっている。性行為・過剰な暴力描写が含まれているからだ。
性行為に関して言えば、従来のゲームとは異なり、水奈ちゃんと対象者もあれば、対象者と複数の女性や、同性同士での性行為が描かれている。
同性については、何故いれた?と思わずにはいられなかった。私は、その手のものが苦手である。
だが、私は同性愛者の存在を否定するつもりはないし、そういった愛の形もあるのだと頭の中では理解している。
だからといって、心が受け入れられるか?と問われれば否だと、はっきりと断言出来る。好きなら好きでいいと思う。
けれど、それを見たくないと思うのもまた、個人の自由だと思う。
だからこそ、中年の肥え太った男が、幼気な美少年の身体を貪るシーンは、気持ち悪いと思ったものだ。
一応、黒い影のシルエットだけだったが、どのような容姿、体型をしているのか無駄に詳細なものが書いてあり、声もついてくるとなると、吐き気が催されたものだ。
あくまでメインではないが、こういった細かな演出も、この世界を構築する上で必要なことだったのだろう。
それにプラスして、ゲームの謳い文句そのままの過激なシーンが多く存在している。
そういったシーンは、一部アニメーションが取り入れられており、いざ人を殺すシーンになると途中で暗転し、惨たらしく人を殺す音、断末魔、息遣いなどが耳の中で木霊する。
更に追い打ちをかけるように、ダミーヘッドマイク要素が取り入れられており、臨場感はたっぷり過ぎるほどだった。
特に猟奇的な場面においては。私がこの作品で一番驚いたことは、やはり性器の切断場面だろう。
さすがに音だけだったが、文章でああも描写されると、ここまでやるとはという思いと、「うげっ」という気持ちで何とも複雑だったが、“世界が壊れている”というのを分かりやすく表現していたのかもしれない。
こういったリアルさは他にもあり、政治的な場面に切り替わると本当に内容が濃い。
多国間同士でのやり取りなんて必見だった。思わず、恋愛要素よりもこういった幕間に気を取られるほどに。
何せ、そのときプレイしていた他のゲームは、設定が曖昧だったり、話の展開が早いか遅いかのどちらかで、つまらないと思うものが多かったからだ。
だからこそ、飛ばされがちなこういった場面が入ると、まるで小説を読んでいるかのような錯覚に陥り、盛り上がったものだ。
そういう点では、他の乙女ゲーと一線を画していた。その世界観も。綿密なストーリー展開も。
ただ、この時点で堅苦しい内容を読むのが苦手な人は挫折する。恋愛だけを望む者もまた同じ。
私としては、乙女ゲーでこういった場面が随所に散りばめられているのは、逆に新鮮だと思ったものだが。
新鮮と言えば、乙女ゲーにしては珍しく、三人称で物語が進んでいく。
そのため、水奈ちゃんに声がついている。その声は、声優さんに疎い私でも聞いたことのある、女性の方が起用されているのだが……。
鋭利な刃物で斬りつけられ、皮膚から溢れる血潮の音。
水奈ちゃんの悲鳴や荒い息遣いが耳を犯し続け、その声が耳にこびりついて離れないのだ。
あまりの生々しさに、目を瞑れば目の前で殺られそうになっている水奈ちゃんの姿が、浮かんできそうなほどに。
そのリアルさに何度鳥肌が立ったことか。しかも、やった本人が、攻略対象者の一人だから困ったものだ。
人を傷つけることに何の躊躇いもなく、水奈ちゃんに執着を抱いているわけでもなく、ただただ愉しそうに傷つける。
水奈ちゃんの頭を引っ掴んで壁に押し付けたり、顎を掴んで骨が軋むまで力を込めるだなんて、よくあることだった。
それが、デフォルト。ただ、興味を持たれた後の展開が、個人的に美味しかった。
彼らは、異世界の中でもどこかずれている者が多い。そんな彼らに、振り回される水奈ちゃんの図は可愛かった。
本気で可愛かった。
しかも、だ。常識のない彼らの行動がたまにおかしかったりする。
そんな姿を見て、くすくすと笑ってしまった水奈ちゃんに、きょとんと小首を傾げる姿とか、なんだこのギャップは!?と思わされたものだ。
そういった、暴力と日常場面とのギャップが良かった。多分、最初の出会いが強烈過ぎて、普通のやりとりですら可愛く見えたのかもしれない。……末期だな。
私としては、水奈ちゃんや彼らの反応が可愛かったので、大変美味しい展開だった。
暴力シーンもえげつないところはあったが、私自身、ヒロインが暴力を受けるものでも楽しく読めてしまう性質なので、全部を通して面白かった。
とはいえ、リアルな世界でそんなことをしていたら犯罪だ。傷害罪で捕まるし、なんとも胸糞の悪い事件だと思うだろう。
だが、物語は物語。現実とは違うものだと割り切れるタイプなので、逆に楽しんでしまったが、自己投影する人にとっては、暴力シーンがまず無理だったと、レビューで見かけたことがある。
勝手な想像だが、暴力的なシーンでの感情移入が難しかったのかもしれない。
ヒロイン=自分ということだから、あの数々の暴力シーンは、……確かに恐ろしいものがある。
長々と“狂宴”について説明してきたが、何故このゲームの話をしているかというと、私の顔が“楢橋水奈”ちゃんの顔をしているからだ。
コイツ……頭、逝っちゃってるんじゃね?と思ったかもしれないが、断じてそれはない。
鏡を見たときに現れた自分の顔が彼女のものであり、二次元顔まじでぱねぇなヲイと思ったのだ。
ヒロインの顔は、設定上“平凡”とされているが、以前の私より何十倍も可愛い。
改めて自分の顔をまじまじと見てしまったが、二次元顔と比較している時点で大変混乱している。
淡々と語っていたが、内心パニック状態だったのだ。そうなるのも無理もない。
“楢橋水奈”が、18歳の誕生日を迎えたその日に異世界トリップするからだ。あの、狂人共が巣食う世界に。
非常に困った上、私なんかがどうして、乙女ゲーの主人公となっているのかが不思議でたまらない。
どんなに普通だろうと、彼らの特別になれる時点で、ヒロインは“特別”だ。特別だからこそ、惹かれるのだろうと私は考えている。
そんな特別な存在に、私という異分子が入り込んだ以上、特別にはなれない。
正直な話、関わりたくない。あんな濃い面子と過ごすだなんて、命がいくつあっても足りない。
出来れば、彼らと関わることなく静かに暮らしたい。切実に。
とか、なんとか言っていたら時間のようだ。
せめて、この先の未来が血濡れた道ではないことを強く願いながら、狂った者たちが存在している世界へと“私”はいくのだった―――。
『乙女ゲーの世界で ケース①』 了
個人的に乙女ゲームのトリップ話で書きたかったことがありまして……。
それは、“二次元顔”について。
いきなり二次元の顔立ちになっていたら驚くんじゃないかな~と思ったので、ヒロインに突っ込ませてあげました。
ここからは、実際の乙女ゲーにはない部分です(お話の中で書いただけの部分)
・水滸伝の乙女ゲーは、多分ないと思います。
それ以外だったら、ありますが(トリップはひとまず置いておくとして)
・乙女ゲーにBL要素はありません。
制作側のリアルさ追求のためっていう設定が自分の中にはあったので、このような部分を入れました。
最後に。
レビューの話を入れて、批判があったことをさりげなく主張してみたのですが……。
これくらいだと大丈夫ですかね?こういったさじ加減が分からなくて、少し悩みました。
また、自己投影~の部分で、自分の勝手な見解を書いてしまったのですが、果たしてあれで良かったのかと。