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水色のコラール  作者: 大路まりさ
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第七話 伝承と予言

シモンは結界の中で、聖跡あかしをなぞると、何やら言葉を唱えた。

すると、聖跡はたちまち浮き上がり一枚の楽譜へと変化をしたのだった。


「いいですか。僕らが預かっている楽譜は、娘が残した予言なんです。」


シモンは楽譜を手にとり、そして僕に見せるのだった。


「歌詞を見てください。コラールにしてはシュール過ぎるんですよ。

ご存知だと思いますけどふつうミサ通常文は、キリエ(哀れみの賛歌)、グローディア(栄光の賛歌)、クレド(信仰宣言)、サンクトゥス(感謝の賛歌)、アニュス・ディ(平和の賛歌)ですよね?

そのどれにも当てはまらないんですよ。

ですから、このコラールは娘が独自につくったものなんですよ。」


そう言って僕らは、シモンの楽譜に目を通した。





来たれたみよ、この場所につど

来たれたみよ、天の父に祈りたまえ


国に災い起きる時

異界の扉が開かれる

使徒をつどえと呼び声を

叫んだその時動き出す


天より降りし十二使徒

つどえ今こそ立ち上がれ

天より降りし十二使徒

たみを救うは使徒の旋律うた


来たれたみよ、この場所につど

来たれたみよ、我に力を





「僕の持ってる歌詞とは違う。」

「そうなのか、水色」

「うん。最初の二文と最後の二文は多分一緒。」


僕がそう言うとシモンは頷いた。


「そうなんですよ。中をよく読んで。これは君に起きた出来事じゃないですか?」


そうだった。

僕に起こったことが記されていたのだった。

どうりでトントン拍子でことが進むはずだ。

娘は、こうなることがわかっていたのだ。

娘は僕に呼び掛けた。

十二使徒がくふを集めて欲しいと―――――。


「恐らく、この世界の末路が記されているんです。

十二使徒全員を集めて歌詞を見れば繋がっているはずです。」


シモンは楽譜を手に持った。

そして、僕の知っている節を歌ったのだ。

それはまさしく“とっておきの素敵な歌”。

するとたちまち楽譜は光を放ち、そして聖跡へと戻っていった。

ステファンは結界を解除して、シモンは僕に言った。


「予言が始まった今、一刻も早く十二使徒を集めたほうがよいでしょうね。」


テナがそう言うと、シモンとステファンは頷いた。


「何か当てに成るものがあればいいんですけどね。

流石に僕らに語り継がれている伝承には誰がなんの能力を渡されたのかまではわからないんですよね。」


シモンは眉間にシワを寄せる。

すると、リオはアルトとテナに質問した。


「二人は何が使えんの?」

「俺は風」

「私は焔です。」


そこにシモンが加わる。


「ステファンは土、僕は水です」


その時に僕は気づいた。

十二使徒の能力は、誰かしらと対になっている?

風が加われば、焔は威力が増す。

雨降って地固まるなんて諺があるように、土と水は


「相性がいいね。」


僕は、思わず声に出した。

アルトとテナは頷いた。


「十二使徒は二人で対になってる可能性が高いよ、きっと。

これから出会う人も、二人でセットかもしれないね」

「多いにあり得るな。」

「ですね。これから十二使徒を集める手がかりになるかも。」


シモンはペンを取り出した。


「地図、あります?」

「はい」


僕は、鞄から地図を広げてシモンに見せた。


「あ、これいい地図ですね。余計なものが載ってない。

僕の知っている情報を提供しましょう。

なんせ郵便屋ですからね。

近隣の町には詳しいですよ。」


シモンはペンを滑らせていく。


「先ずはここの真南ですね。

ここは色んな人種の方が住んでます。王女さまの別荘のある大きな街です。」


そして、そこから東をペンをさす。


「ここはサーカスの町です。

サーカスが盛んでピエロも多いです。

十二使徒が潜む可能性は大いにあります。」


そう言って地図に書き記してくれた。


「申し訳ないのですが、僕たちは郵便屋ですから旅の伴はできません。

ですがここの町からは動きませんし、わかり次第情報はお届けするというかたちで勘弁してもらえませんかね?」


申し訳なさそうにシモンは言った。

僕はそれでもかまわなかった。

アルトとテナも頷いた。

シモンはニコリと笑った。


「さあ、夜も更けました。今日はここでゆっくりしてってくださいね。」


僕たちはシモンのその言葉に甘えて、ぐっすりと眠った。

まだ全然進んではいないはずに、もう何日も歩いたような疲労感に苛まれていたようだった。




王手チェックメイト

「ちょっ、まじかよ!ガキのクセにやるな」

「いえいえ、ステファンさんも強いですよ。ひやひやしました。」


目を冷ますと、テナとステファンは珈琲を飲みながらチェスをしていた。

アルトはリオの料理を手伝っている。

シモンは郵便物を仕分けていた。


「あ、おはようございます。疲れは取れました?


シモンがにこやかに挨拶をしてくれた。

するとすかさずリオがカップを持ってくる。

中身はなんだか緑色っぽい茶色で、ちょっと飲むの躊躇しそうだ。


「はいこれ!滋養にいいから飲んで!」


薬草の独特な匂いが鼻につくが、僕はカップに口をつけた。

苦い。僕は思わず眉間にシワを寄せる。

するとそれに気がついたシモンが慌てて僕のカップに何かを注いだ。


「はちみつをいれなくてはね。苦いでしょう?

でもよく効くから飲みほして。

異世界から来たばかりなんだから見た目以上に疲れてますよ、きっと。」


優しい。率直にそう感じた。

他人にこんなにも親切にされるなんて、元の世界であるものか?

それほどに、温かな世界が存在しているなんて、僕は知らなかった。


「わー!!苦すぎ?はちみつ足りない?

涙がでるほど不味すぎました!?」

「大丈夫、不味くないよ!!美味しいよ!」


はちみつを注いだら、本当に美味しくなった。

でもそれ以上に注がれた優しさに僕は無意識に涙が溢れていたのだった。

泣き虫じゃないはずなのに。

感情が楽器のように素直に出てくる。


「旅につかれたら、いつでも遊びに来てくださいね。

水色君も、アルトもテナも。」


シモンは僕より少しだけ年上なだけだった。

それなのに、ずっと大人に見えた。


「お弁当できてるからね。持ってってよ」


リオが包をアルトに渡す。

優しくて温かい朝の時間は過ぎ、郵便局の開局前に僕たちは郵便局を出た。



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