第五話 歌声広場
優雅に朝食を食べながら、(と、いってもパンをスープに浸すだけ。)新聞を読む。
「この国はね、こうゆう現状なんです。」
テナは昨夜のことを少しずつ話す。
「貴族は税金の無駄使い。おまけに、ノブレス・オブリッジもしない。陛下は欲にまみれた鬼。
こうでもしなければ、民は飢えて死んでしまいます。
・・・本当は盗みなんてするつもりはないんてすよ。」
だから、貴族に限定をして盗みを働く。
アルトもテナも民衆も生きるのに必死だった。
「おどろきますよね。すみません」
テナは、悲しそうに言った。
僕はそんな表情をするテナに何も言葉を渡せなかった。
盗みを悪いこととも言い出せない。
悪いとわかっている人に、これ以上問い詰められなかったから慌てて話をそらした。
「ねぇ、地図を買いに行くって言ったでしょ?僕も街に行きたい!」
僕がそうゆうと、テナは安心したようににこりと微笑んだ。
「そうですね、街へ行きましょう。水色君にも新しい洋服も必要ですしね。」
そう、僕はただのTシャツにジーパンという格好だった。欧風なこの世界には少し似合わない。
靴は持っていなかったのでブーツをテナのお下がりを貰った。
この世界には似合わない僕の服装のままでは旅には出られないだろう。
「動きやすいのを仕立てて貰えばいい。」
アルトもテナの意見に賛成らしい。
「仕立てて貰えばいいって、お金かかるよ。この家にあるいらない服でいいよ。僕小柄だからなんとでもなるし」
「客人が金なんか気にすんな。大体、異世界から来て平常心すぎだろ、お前。」
「泥棒やってても、僕ら昼間はちゃんと働いてるんですよ。」
アルトからもテナからもそう言われて、僕はとりあえず外套を羽織って家を出た。
丘を下って街へとあるいて行く。
昨日はアルトの魔力で飛んでいってしまったので一瞬だった。
実際に歩くと意外と時間がかかる。
「あ、街が見えた!」
煉瓦の道が続いている。
赤茶色の煉瓦で、足を進めて行くと市場が続いていた。
自分の世界で例えるならどの国だろう。・・・イタリア?
「まず、仕立て屋に行ってから買い物に行くぞ。
この街の仕立て屋はスゲーんだ。
買い物が終わる頃には服が出来てるからな。」
僕たちは仕立て屋に行くと、アルトとテナは常連客らしく店主と仲良く話していた。
「あら、異国の子?可愛いわね」
「そうなんです。この国に見合う服を仕立てて欲しいのですが。」
僕は外套を脱いだ、店主は驚く。
「すごい布だね!なんだい、これは。」
「はぁ・・・。」
僕は曖昧に答えた。
そして、店主はパッと僕を見ると言った。
「ちょうどこれぐらいのサイズの服なら何着かあるよ。組み合わせをまちがわなければバッチリさね。」
「せっかくだから新しいのを仕立てくれ。」
「はいはい。やっぱりアルトは優しいんだね」
アルトはそっぽを向く。
そして「じゃ、また後で来る」と言って店を出る。
僕とテナはお礼を言って店を出た。
「少し寒いね。」
僕は外套をしっかり着込む。
丘の上よりも街は寒い。
「近年気温が下がる一方ですよ。地方では冷害も多いですし。」
テナは自分の襟巻きを僕につけてくれる。
「テナは寒くないの?」
「平気です。」
にこりと笑ってくれるので、「ありがとう」とお礼を言った。
「テナ、水色こっちだ」
アルトに呼ばれて僕たちはとあるお店へと足を運ぶ。
そこは古い本や地図もおいてある雑貨屋だった。
「おっちゃん、最新の地図ある?」
アルトがそう尋ねると、店主は店の奥から地図を持ってくる。
「地図はこれが一番最新だ。しかし、内乱続きでアテにはならんぞ。」
「マジかよ・・・。」
アルトはがっくりと肩を落とす。
すると今度はテナが質問をした。
「旅に使うのに困らない地図はありませんか?」
「それならこれだ。昔ながらの地図。街や集落はすべてはかかれてはないが、川の位置、山の位置、大きな都市は間違いなくかいてあるぞ。」
「兄さん、これにしましょう。」
「そうだな。それをくれ。」
「3000アークじゃ。」
「さ、3000アーク!?高いって!まけてくれよ!!」
「じゃあ、1500アーク。」
「逆に安っ!!半額かよ!!」
「こんな地図買い手はおらん。1500アークでどうだ。」
「買う。おっちゃん、後悔すんなよ?」
「せんわ。売れることのほうが重要じゃ。」
よほどこの国は経済の回りがよくないのだろうか。
半額で売ってくれるなんて。
「その代わり、条件をつける。」
「あぁ。なんだ?」
「そこの少年とお話させてくれ」
そう言った店主は鼻の下を伸ばしている。
「黙れ、この変態オヤジ!」
アルトがそう言うと、お金をおいて地図を持っていった。
「ごめんなさい、また今度。」と僕は一言言ってアルトについていく。
そんな僕のあとに、テナもそそくさと店を出た。
あっという間にお昼ご飯の時間になり、広いには沢山のお店が広がっていた。
旅芸人の馬車もあり、昼食の時間に合わせて準備をしている。
「何が食べたい?水色君。」
テナが聞いてくる。
しかし、僕も答えるのに困る。
「何でもいい。僕、この世界のこと全然知らないから。」
「じゃあ、僕のオススメでいいよね。」
そう言って、テナは屋台へと向かっていった。
私はアルトと二人で旅芸人の舞台から少し離れた場所にあったベンチに腰をかけた。
「この広場はな、歌声広場っていうんだ。」
アルトは優しい表情を浮かべて言った。
こんなにも優しい表情をみたのは初めてだった。
「ここは昔からの伝統で、いつも昼になると旅芸人が来て、歌を歌う。
旅がいない時は、街の人が歌を歌って人を楽しませるのさ。
色んな歌を歌う。
オペラのような曲も、シャンソンも、何でもだ。
旅芸人が教えてくれる歌が、街の人は大好きなんだ!」
アルトはキラキラとした目で、僕にそう教えてくれた。
そして僕は旅芸人の舞台を見つめる。
そんな時、テナが戻ってきた。
「はい」
手渡してくれたのはパンと僕の世界でいうジャーマンポテト的なものだった。
なんなんだろう。
ここの世界はヨーロッパをごちゃまぜにしているみたいだ。
「このお店のブルストは美味しいんですよ」
テナは僕の隣に腰をおろす。
「さ、食べて食べて。あったかいうちに食べたほうがいいですから。
兄さん、舞台はもう始まりました?」
「大丈夫だ。間に合ったぞ。」
テナはよかった、とばかりにホッとため息をはいた。
テナもこの旅芸人のステージが好きなのだろう。
そうして、ランチをしながらの舞台がはじまった。
一番手はバイオリンのソロ。
無精髭をはやした大きな男の人が、バイオリンを奏でる。
そして、その後ろではピアノの伴奏を弾いていた。
優しい音だった。
外見とは似ても似つかない穏やかな音が広場に響く。
二番手は少年のアリアだった。
それは、まるで少女のように美しい少年だった。
しかし歌は情熱的でなおかつ音程の正確さがある。
変な感じがした。
もう声変わりをしてもおかしくない見た目なのにボーイソプラノがでるなんて。
「カストラートですかね、あの人」
「かもな・・・・この辺じゃ見ねぇ顔だし、田舎からでてきたんじゃないか?」
アルトとテナが二人して真剣に少年を見つめていた。
「カストラート?」
僕は聞く。
すると、アルトは少し頬を染めた。
テナは「あらら」とはかりに口を尖らせた。
「アルトはこのテの話無理なんで、そのうちにね。」
テナはポン、と僕の頭に手をのせると再び少年を見つめていた。
その後、たくさんのアーティスト達が自分の持つ音楽を最大限に発揮していた。
僕はこの姿に凄く感動した。
まるで、母の音楽に似ている。
ぶれない強さも、優しい気持ちもすべてがつまったこの音楽が。
「水色?なに泣いてんだよ。」
アルトがバサッと僕の顔に向かって手拭いを投げた。
「あ、ありがとう。僕、この広場が大好きになった」
そう言うと、アルトは照れ臭そうに笑ってくれた。
ステージが終わり、仕立て屋さんに向かった。
アルトの言った通り、服はあっという間に出来ていた。
早速着てみると、白いシャツにワインカラーのベスト。黄土色のスラックス。
しかもサイズは完璧で収縮性に優れていそうだった。
「ん、動きやすい」
「良さそうですね、似合ってます。」
テナはそう言ってにこりと笑う。
アルトはそっぽを向いていたが、僕はなんとなく察した。
アルトの性格が、ほんの少しだけわかった気がした。




