第四話 大怪盗と城下町
城から飛び降りると、僕は必死にアルトにしがみついた。
あまりの高さにぎゅっと目をつぶる。
そんな時、アルトは僕の肩をぽんぽん、と叩いた。
「見ろよ、空。」
アルトに促され、僕はおそるおそる目を開けた。
「・・・・すごい。」
僕はは思わずそういった。
真っ暗な空には、満天に星空がある。
これまでに見たことのない程の星空だった。
「星って、こんなにも綺麗なんだ・・・・。」
「え!?お前星も見たことねぇの!?」
「失礼な!星ぐらい見たことあるよ。でも、こんな空一杯に見たのは初めてだな!」
よく考えて見たら、こんな空を見たのは初めてだ。
よほど空気が澄みきってなければ、都会では見ることが出来ない。
仕方がないから、満点の星はプラネタリウムで人工的に星空を見た記憶がある。
現代の日本はとても明るい。
だから、小さな輝きを持つ星はなかなか見えづらい。
「お前の住んでる世界にも、星はあるのか。」
アルトは尋ねた。
「うん。でも、こんな風には見えない。夜もこんなに暗くないからね。」
「暗くない?」
「そうだよ。暗くないんだ。」
「なんでだ?。夜に何するんだよ、店だって殆ど閉まってるだろうに。」
「閉まってないんだ。24時間営業っていって、お店は閉まらないんだ。そうゆうお店が沢山あるんだよ」
「だから夜も明るいのか。じゃあ、人はいつ休むんだよ?」
「昼間休む人もいるよ。でも、せかせかしてる。」
「昼と夜が逆になるな。」
「そうだね」
アルトにそういわれて、僕の住んでいる世界がどれほど混沌としているのかを実感した。
「アルト、何処で降りるんだ?」
「俺ん家。弟が待ってるはずた。もともと頃合いをみたら脱獄するつもりだったし。」
「弟?」
「あぁ。双子の弟。俺らと同じ十二使徒だ。」
アルトは街から少し離れた丘の上にある家の手前で下りた。
その家は赤い煉瓦作りの家で、煙突からは煙りがでている。
コンコン、とドアをノックするとガチャリとドアが開いた。
「お帰りなさい、兄さん」
アルトとそっくりな少年がでてきた。
アルトと違うのは、髪と目の色。
この少年は銀色の髪で蒼い目をしていた。
「よく脱獄できましたね。今日はお客さんもご一緒みたいですし。」
少年はニコリと微笑むと僕を家の中へと招き入れてくれた。
そして暖炉の前のソファに座ると、温かな紅茶を入れてくれた。
それから、一連の流れを話す。
「じゃあ、水色君は『コラール』の声を聞いたんですか。すごいですね。」
アルトにそっくりなのに、性格は正反対。
穏やかな言い方で、ニコニコとしている。
「そういえば、私の名前を言っていなかったですね。私はテナ。私も一緒に楽譜を探しますよ。
私も生まれた時から十二使徒ですから」
そう言って、テナは聖跡を僕に見せた。
「では、今既に3つの楽譜が聖跡のなかにあるわけですね。」
「じゃあ、あと9つ!この調子なら楽勝じゃんか!!」
「兄さん、その油断が禁物ですよ。」
アルトが少し調子に乗ると、すぐさま突っ込むのはテナだった。
なかなかいいコンビである。
「けれど、もうこの街にはないでしょうね。」
と、テナは言う。
「お城の中にもなかったわけですし、この街で誰かが持っているって噂もないし、これ以上密集してる確率は少ないでしょう。水色君のみたいに、時空をこえている楽譜もあるかもしれないですしね。」
テナのその言葉で、僕たちは近々に街をでることに決めた。
「水色君のその楽譜は、聖跡になる前は何時からあるのかご存知ですか?」
「大正時代からあるって聞いたよ。」
「タイショー時代?なんだそりゃ。」
アルトにそう言われて僕は気づく。
そうだ、この世界は僕の住んでいる世界とは違うのだった。
「えっと・・・百年ぐらい前からあるって聞いた。なんだっけな・・・ヤソ・・・キリスト教の信者さんが受け継いだって聞いた。」
「なるほど、やはり教会で受け継がれてるんですね。」
「コラールって名前がついてるからね。」
僕は自分の知ってることを最大限に発揮しようと考える。
しかし、コラールは今日見つかったわけであって、この世界に来たのも初めてであるわけで、僕はなかなかの足でまといだ。
「地図が必要ですね。家にあるのは古すぎて使えないですから。」
「仕方ねぇだろ。ここは元々俺らだけの家じゃねえんだからよ。」
「明日にでも買いに行きましょうか。」
僕たちは旅に出る準備を始めた。
元々、楽譜しか持っていない僕にはテナがいろいろと用意をしてくれる。
「水色君には、大事なものを持っててもらうようにしましょう。能力が発動できないってなると戦うのは難しいですからね。私たちが水色君の護衛をするかたちにしときましょう。あ、これ護身用の短刀です。
これは、不思議な力が宿ってるので使ってください。
それから、これ。」
テナは大切そうに私に小さな小瓶を差し出した。
「『命の水』って言って、ある湖でしかとれない水です。水色君にもわけであげます。十二使徒は生命力が高いとはいいますが、もしもの時にはこれを飲んでください。旅は危険ですからね。」
「うん。」
僕はテナが用意してくれた鞄に詰める。
「街はどんな様子?」
僕はテナに尋ねる。
「賑わってはいますけど・・・最近のお店は値上げばかりしてますよ。不況っていうんですかね。」
「値上げばかり?」
「ものの値段は上がるばかりです。不作続きで麦もとれません。
生活が苦しい人は、パンを手に入れるのも大変です。」
そういえば、アルトもお城でそんなことを言っていた気がする。
「アルトとテナは平気なの?」
「あんまり平気じゃないですけど・・・まぁ、そもそもこの不景気は、お城にいる偉い人が招いたことですし、どうしようもありませんよ。」
お城にいる偉い人というのは王様・・・つまり、兵隊が言っていた陛下のことだろう。
「陛下も十二使徒とそれに伴う楽譜を探しています。
そのためにたくさんの費用を召し使いたちに出してますよ。
本当に召し使いたちは探しているのかすらわからないですが。お金をもらって行方を眩ましてもおかしくありませんからね。
まぁ、私らが持っている時点で見つかるはずもないんだけど。
それで財政は厳しくなって、税金は上がりました。」
テナはそう言って苦笑いする。
「王様?はどうして楽譜が欲しいの?」
僕はテナに尋ねた。
しかし、テナは知っているのだろうか。
そう思っていたとき、傍らにいたアルトが口を開いた。
「王様は、隣国が欲しいんだ。
そろそろ王様は隣国に兵をあげようと考えてる。
だからコラールが欲しいのさ。娘の力の宿る十二使徒(楽譜)が。」
「でも」
僕はそう言って会話を遮った。
それを、アルトはわかっているように話をつづける。
「陛下にとっては隣国を手に入れたい。ただそれだけさ。
民のことなど考えちゃいねぇ。
おまけに働き手が徴兵に取られるもんだから、農作ができる人も減っちまった。」
アルトは目を伏せた。
どの世界でも国には問題がつきものだった。
僕の住む世界はこの世界よりはマシかもしれない。
飢えて死ぬ人はいない。
むしろ食料は有り余っていて、捨てる一方だ。
「この国は、狭い?」
僕は聞いてみた。
「いや、そんなに狭くはないはずですよ。
川も通ってるし、運河があるぐらいですからね。」
「運河があるのか!」
「街に通ってるから広い運河じゃないですけどね。」
僕は考えた。
そして、母の言ったことを思いだした。
”コラールは人を幸せに出来ないの?”
”出来るわ。希望に溢れた優しい歌ならば。
神を讃え力に驕らなければ、きっとね。”
そう言った母の言葉は力強かった。
いろいろと考えていた時、すっかりと夜明けは近づいている。
「兄さん、行きます?」
「あったり前だろ。」
「ヘマはよしてくださいよ。また捕まったら面倒ですからね。」
「平気さ。お前こそ捕まったらダセーぞ。」
アルトとテナはこんな時間に外へと出ようとしていた。
「どこに行くんだ?」
僕は慌てて尋ねる。
すると、テナが僕に手を差し出した。
「一緒に来ます?」
何が何だかわからないままその手に自分の手を重ねた。
僕はテナにつかまると、アルトが魔力で空へと飛び出す。
「ど、どこに行くの!?」
「貴族の家。」
一瞬のうちにして、何処かの屋敷へとついていた。
そして、ある一つの部屋に着くとドアを蹴り破った。
「やっぱり、私の言った通りだったでしょう?」
「あぁ。こいつら不正に金を持ってやがったな。」
僕はこの二人の行動についていけない。
まさか、盗むつもりじゃないだろうか。
アルトとテナは、その部屋にあった金貨をそれぞれに一掴みとった。
「アルト!?テナ!?」
「いいから、早く行くぞ!これらは元々俺達平民の金さ。貴族は税金で暮らしてるんだからな。」
「だからって!!」
「水色君!早く兄さんにつかまってください!」
アルトは来た時と同じように、魔力で飛んだ。
そして、そのまま街の広場へと飛んで行く。
「餞別だ!!」
そして、アルトとテナは広場に盗んだ金貨をばらまいた。
「え!?」
広場には民衆が集まっていた。
その民衆は家もなく、食べるものもなく、道端で寝起きをしているものたちのようだった。
「ありがとうございます。」
民衆たちは、アルトとテナが一掴みずつ盗った金貨を多くの人数で分け合っていた。
その様子を建物の屋根の上から、僕たちは見守る。
生きるのにも必死な民に税金を不正に使っている貴族から盗んで民に返す。
そんなことをしなくては生きていけないほどこの国は不安定で貧富の差が激しいのだ。
夜明けがきた。
僕とテナはアルトにつかまると再び丘の上の家に戻っていた。
そして、僕は睡魔に勝てずにソファに座ったまま眠ってしまった。
次の日、街の新聞配達の少年がコンコンとドアを叩いた音で僕は目を覚ました。
アルトとテナは既に起きている。
その上、僕はいつの間にかベッドの上にいた。
「おはようございます。水色君。」
テナがニッコリと笑って言った。
僕に新聞を渡す。
「・・・我ら民衆のヒーロー大怪盗!今回は公爵の屋敷へ!ってどうゆうこと!?」
「こうゆうこと。」
アルトは優雅に紅茶を飲んだ。




