最終話 とっておきの素敵な歌
「お疲れ様!」
音楽祭は大成功に終わり僕は音楽室の扉を開けると元気な声が聞こえた。
夜羽は椅子に腰をかけて、窓から外を見ていたようだった。
夜羽は立ち上がり僕の方に来た。
そして、右手を差し出した。
「今日まで、ほんとにありがとうね。」
僕の好きな夜羽の顔だった。
「私ね、自分に嘘つけない性格なんだ。」
「うん。知ってるよ。」
「だけどね、ひとつ嘘をついていたの。」
夜羽ほ僕の手を両手で包んだ。
「自分に正直になると、友達減るの。
私は自分は間違ったことは言ってないっていいきかせるの。」
「うん。夜羽は間違ってないよ。」
「でね、嫌われるのは慣れてるから大丈夫って思い込むの」
僕は気づく。
「それが、嘘だね?」
「・・・・うん。嫌われてるのは慣れてるよでも」
「寂しくないわけじゃない。」
夜羽の瞳に涙が溢れていた。
涙が頬を伝って流れていく。
どんなに気丈に振舞っても、そうゆうときもある。
人間なのだから。
僕は握られていた手をはずして、夜羽の右腕にとる。
「右腕のおまじない」
自然に笑えた。
「僕ね、楽譜の中を旅してる時に、ふとした瞬間に君を思い出したんだ。
歩いてるときだった。
ただ黙々と森の中を歩いていた時。
夜羽の性格が、僕は憧れだったよ。
自分の意見が言えて、自分の意志がある。
真っ直ぐ素直な夜羽が憧れだった」
ちっぽけな自分が嫌で。
なんで自分だけこうなんだろうって嘆いた。
でも、そんなことない。
みんな似たようなことを悩んで、成長していく。
「だから、君が僕を動かしてくれた。」
右腕のおまじないをした。
「僕らの世界にも、歌はあるよ。
だから一人じゃない。
とっておきの素敵な歌は、これから先もずっと人を救っていくんだ。」
夜羽は笑った。
僕が好きになった、明るく素直な笑顔で。
****
「うえええええん!!おじいちゃーん!!」
月日は流れた。
長い長い年月が流れて、再び「コラール」を語る時が来たのだった。
僕らは年を老い、すっかりと老いぼれてしまった。
人並みに結婚をして、子供も出来て。
それでも「コラール」の中に入り、冒険をしたことは一生忘れないだろう。それから、その中で出会った人たちも。
「どうしたんだ、有人」
「みんなが僕を馬鹿にするの!!」
「どうして?」
「男の子がピアノ弾くなんて女みたいだって!!僕、もうピアノ辞めたいよ!!」
僕は孫のその質問に僕は苦笑した。
小さな孫に手招きをして、膝の上にちょこんと座らせた。
「男の子がピアノ弾いたってどこも変じゃないよ。」
「なんで?」
「じいちゃんもピアノ弾くじゃないか。」
「・・・そうだけど・・・・」
有人はふてくされた。
そんな有人の頭をなででやる。
「作曲家は男の人が多いよ。リストも、ショパンも、モーツァルトも。どこもへんじゃない。」
僕は有人の右手を取った。
「有人に右腕のおまじないをしてあげようね。」
おんなじようにいじめられたことがあった。
だから、僕はあの時と同じように右腕のおまじないをしたのだった。
そんなことをしていたら、隣に夜羽が座った。
・・・・僕らはあれから、ずっと一緒にいたんだ。
「おじいちゃん、おばあちゃん、「コラール」のお話して」
有人はおまじないをしてあげると笑顔になった。
僕らは顔を見合わせた。
「僕、あのお話大好き。」
ちょこんと自分の膝の上にすわる愛孫を見つめて、にこりと笑った。
「有人、有人は十二使徒から名前をもらったんだよ。」
「え?そうなの?」
「ああ。アルトはな、勇敢でかっこいい。仲間を思いやるし、意外と心配症でさ」
僕はここまで話すと目頭が熱くなった。
それに、夜羽が続いた。
「いつも、いつも見守っていてくれているの。」
ニコリと笑う夜羽の姿は本当に変わらない。
「おじいちゃん、泣いてるの?悲しいの?おまじない、僕もしてあげるよ!!」
そういった有人は僕の右腕をとった。
・・・・聖跡はもう消えてなくなってしまった。
しかし、きっとまた誰かに宿るかもしれない。
「水色のコラール」が語り継がれる限り・・・・・・。




