第二十二話 失われた歌の名前
ソプラは口角をあげた。
余裕の笑みを浮かべたあと、剣を構えた。
「失われた歌」
ソプラは僕に剣を突きつける。
その行動に後ろも構えた。
アドルフとエドワードも能力を発動しようとしている。
「手を出さないで」
僕は言った。
ソプラは口を開く。
「コラールの名は失われた歌」
そういった瞬間に、少し離れたところにいたリオが光り出す。
「クソっ!まじかよ」
ステファンが悪態を吐く。
すかさずアルトが叫んだ。
「は!?ステファン、どうなってんだよ!?これ!?」
「異界への扉が開いた・・・・・」
「え!?」
「やべぇぞ!ソプラを止めろ!!」
そんな会話の中で、最初に開かれた扉から見えたのは祖母であった。
それから歴史や場所はさかのぼり、ラヴェルの曲が聞こえた。
次にドビュッシーのアラベスク。
それからヴァーグナーのローエングリン。
ショパンのピアノ曲。
ベルリオーズ。
そしてフォーレの合唱。
バッハのコラール。
グレゴリオ聖歌。
最後に見えたネウマ譜。
「これが君の住む世界か。」
離れていたソプラが詰め寄る。
刃が首にあたった。
そして、突きの構えをする。
「君を殺して僕があの世界へ行く」
ひとつき。
それで僕の首は飛ぶ。
その時だった。
「水色っ!!」
突きと同士に飛び込んだのは、アルトだった。
息が止まった。
僕は目の前の出来事に動けなくなった。
血が流れた。
その血の色を見た時、アルトに剣が刺さっていることを自覚した。
「ばっかやろう・・・・なんて顔してんだよ」
僕を抱くようにぐったりと倒れた。
それを僕は抱え込み、膝をつく。
「アルト・・・・?」
呼んでも返事がない。
黙ったままだった。
顔から血の気が引いていく。
横腹から流れる血が僕につく。
手が血まみれになる。
急にグロテスクになる。
「アルトぉぉぉぉ!!!」
叫んだ。
アルトは動いた。
口を開く。
小さな声が聞こえる。
アルトは僕にしがみつき耳元で何か言った。
「来たれ民よ・・・・・この、場所に・・・集え・・・・。
来たれ、民よ・・・・天に・・・祈れ・・・・。
目の前が何も見えぬ闇に・・・・
光の歌が降り注ぐ
・・・・歌の名を知る使徒一人・・・・・
我・・・・らの・・・・希望は異界から・・・・
天より降りし、十二使徒・・・・・
天空の歌・・・・・呼び覚ませ・・・・
天より、降りし・・・・・十二使徒・・・・・
人を救うは人の歌・・・・・・。」
コラールだった。
「知ってる、はずだ・・・・・・」
息が切れてきている。
僕は聞きながら傷口を縛った。
「コラールの、本当の名を・・・・」
アルトはぐったりと倒れた。
ステファンやシモンが駆け寄り、抱きしめた。
コラールがない使徒たちは、普通の人間であった。
僕は力なく歌った。
小さい頃に曾祖母から教わった、“とっておきの素敵な歌”を。
コラールの娘のように歌で人を幸せにしたい。
救いたい。
助けたい。
お願い。
そう、歌った時だった。
暖かな光が僕を包んだ。
その場所は青く広がる草原。
あたりにはたくさんの草花があり、僕の目の前には春日にそっくりな女性がいた。
僕の手をひいた。
こちらだとばかりに僕を連れ出す。
おかしい。
僕は戦いの最中であった筈なのに、ここは平和だった。
女性の首元に曾祖母の大切にしていた首飾りがあった。
それに見とれながら僕はひたすらついていくだけ。
すると、日陰にたどり着いた。
木の根元には、座っている少年がいた。
女性は少年の横にそっと座った。
僕は、少年に見とれた。
僕にそっくりだった。
「水色だね?」
少年の声に聞き覚えがあった。
男性にしては少し高い。
僕を導いた・・・・あの声は・・・・・
「コラール・・・・?」
「うん。そうだよ。僕の名前は水色」
「え、女じゃないの?」
「うん。僕はカストラートなんだ。だから男でもないし、女でもない。」
チェレステは僕に手招きをした。
「コラールを集めてくれてありがとう。
王国が滅びる前に、世界が滅びてしまう。
だから水色にコラールを集めて欲しいって頼んだんだ。」
僕はチェレステの空いている隣に座った。
「どうしてはじめと喋り方違うの?」
「女のフリをしてたんだ。
僕の隣にいるのはカント。カントを異世界へ逃がしたあと、使徒を守るのに女になった。
けど、夜羽が言ったんだ。
ありのままの僕がいいって。
カントに似てるでしょ?」
僕は頷く。
「カントって君の世界の詩子さんだよ。
君のひいおばあさん。」
「うん。」
「カントって、”歌”って意味なんだ。僕らね、恋人同士だった。」
「うん。」
「でも、僕はカストラートだからどう頑張っても家族は作ってあげれない。
そしたら、カントが言ったんだ。
私を異世界へ飛ばしてくれと。
コラールで繋がってる。
一生離れない。
世界を守るためにも。って。
だから、カントを異世界へ逃がした。」
僕はチェレステを見つめた。
曾祖母があの話をどうしてあんなにも大切にしたのかわかった。
「水色」
「うん」
「教えてあげる。このコラールの名を。
名を唱えたら、コラールは一つになる。
そして力を発揮する。」
そして耳元で言った。
「あの歌は君の歌だよ。水色のコラール」
僕は驚いた。
「さあ、早く行きなさい。
ソプラを救い、世界を救い、王国を救って。
大地の怒りは僕のコラールでしか止められない。」
「え!?」
「それに、もうすぐ隣国の兵が攻めてくる。
コラール探しに躍起になりすぎて兵はほとんどつかいものにはならない。
頼んだよ、水色・・・・!」
その言葉を境に、僕は元に戻った。
そこにはニコールに手当をされたアルトが横たわっていた。
「アルトっ」
「大丈夫。さすが選ばれただけあるね。
生きてるよ、急所は避けてる。気絶してるけど安静にしてれば大丈夫」
ニコールのその言葉に僕は安堵した。
それからソプラを見た。ソプラの背後には王がいた。
「可愛がってやったのにしくじりおって」
ソプラに剣を突きつけて、僕らを脅す。
チルチェンセスは中断され、観客は見ていられないとばかりに数は減った。
「コラールを渡せ。でなければコイツを殺す。」
王様のその言葉にソプラは笑った。
なぜだか余裕の笑みを浮かべていた。
「殺したいならどうぞ。
ここに集められた観客の前で殺生をするというのならね。」
そういったソプラは王様の刀に自分の腹を刺した。
王様はたじろぎ、顔は青ざめた。
ソプラの返り血にびっくりしたのだろう。
テナが慌ててソプラに駆け寄る。
そして傷口を縛り上げた。
「なんてことしてるんですか!?」
「・・・・これでおあいこだろう?」
「馬鹿を言わないで体に力を入れないでください!今止血をしますから」
「・・・・このままでいい。」
ソプラほ笑った。
優しい微笑みだった。
「馬鹿はテナだろう?僕はアルトを刺したんだよ・・・・」
「関係ないですよ。ソプラは家族なんですから」
「・・・・本当かい?・・・・・本当にそう思ってくれる?」
「当たり前でしょう!
昔みたいにまた三人で暮らしましょう!あの家で、三人で。」
「・・・・三人だと、少し広すぎ・・・・じゃないか?」
「そうですね。じゃあ孤児院を開きましょう。子供達は私たちが守るんです。」
「・・・・・いいな・・・・・それ・・・・・」
ソプラは黙った。
テナはソプラを抱き抱えて、アルトの隣に寝かせた。
その時だった。
兵隊の一人が馬を乗り上げて闘技場にきて叫んだ。
「隣国の兵が攻めてきました!」
テナは僕を見て頷いた。
世界を変えよう、大地に返すんだ。
いろんなものを。
「春日、一緒に歌おう」
春日に手を出すと、春日は手を重ねた。
『水色のコラール』




