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水色のコラール  作者: 大路まりさ
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第十四話 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ

水色が消えると、春日夜羽は驚愕した。

水色とともに、謎の人物は消えて、割れた窓ガラスも元に戻っていた。


「天草・・・・・?」


先ほどまで一緒にいた水色がいない。

夢じゃない。

そう思うと夜羽は泣きたくなった。


そもそもに、あんなにもアクティブな水色を初めて見た気さえする。

いつも大人しい水色が、あんなにも大きな声を出すなんて。


(天草・・・・)


どうすればよいのかわからない。

夜羽はどうすればいいかわからないからもどかしくて仕方がなかった。

とぼとぼと帰路を進んだのはいいが、気持ちが詰まる。


「あら、夜羽ちゃん?」


そんな時だった。

後ろから聞こえた声は、水色の母親であった。

そして、その横には水色の祖母の姿があった。


「練習頑張ってるんですってね、夜羽ちゃん」

「はい。おかげさまで」

「お母さん、夜羽ちゃんよ。水色が今歌を教えてる子なの。今日はなんだか元気ないけど・・・・何かあった?」


何かあった、とはとてもじゃないけど言えなかった。

水色が歌を歌ったら消えてしまっただなんて。


「夜羽ちゃんと言ったね」

「はい」


水色の祖母はにこりと笑った。


「ピアノを聞きに、今から来ないかい?」

「え?」

「音楽は癒しの力があるときもあるからね。

良かったら、なんだけども。」


夜羽は迷わずに頷いた。

どうしたらいいかわからないこの気持ちを、とにかくまぎらわせたかった。


家にお邪魔すると、水色の祖母は楽器庫へと夜羽を招いた。

そこに水色の母親はいない。

だからなのか、夜羽を見つめた。

夜羽は隠せなかった。

表情にでてしまう。

いちかばちか、夜羽は思いきって話をきりだした。


「あのっ」

「なんとなくわかってるよ。話してごらん」


にこりとそう微笑む水色の祖母を見て、夜羽は我慢を仕切れずに涙を溢してしまった。

と切れと切れになりながらも先ほどの出来事を話すと、しっかりと抱きしめてくれた。


「夜羽ちゃんに、『コラール』のお話をしてあげようね。」

「はい」


夜羽はコラールの昔話を聞いた。

娘が作った十二のコラール。

それを受け継ぎ、コラールを護る十二使徒。


「天草は、大丈夫なんでしょうか!?」

「水色はきっと大丈夫さ。」

「ほんとうに??」

「ええ。だから祈ろうね。」

「はい。」


夜羽は水色の祖母に見送られて、水色の家を後にした。

そして、水色を思い出す。

学校では、ぱっとしないイメージだった。

何が楽しくて、何でそんなに空気になりたいのかわからなかった。

クラスのモブキャラ。

そんな風に思われても仕方がないくらい、影のない人物で。

しかし、よくみるととても顔立ちは整っていた。

穏やかな物言いが密かにクラスの女子からモテていた。


(あれで皆が天草がピアノ弾けるって知ったら、たちまち人気者になるのかもなぁ・・・・。)


思い出す。

水色の弾いていた、アラベスク。

音楽にさほど詳しくない夜羽でも、ドビュッシーのアラベスクは聞いてすぐにわかった。


それから、今日のよく動く水色を見て運動のできることを知った。


(天草って高いとこ苦手そうだけどな。運動苦手に見えたし。)


体育祭で障害物競争をしているのを見た以外は、走っている姿を見たことがなかったのに、あんなにも走るのが早く、さらに女の子一人を担げるなんて、思いもよからなかった。


(天草って男の人だったんだなぁ。)


夜羽は急にそう思った。


帰路の途中に教会があった。


(そうだ、お祈り。)


夜羽は立ち寄った。

正直、教会なんて立ち寄ったことはなかった。

教会からオルガンの音が聞こえた。

牧師が夜羽の姿に気づくと、夜羽は慌ててお辞儀をした。

牧師はにこやかに笑いながら、夜羽を手招きする。

その手招きに応え、夜羽は牧師のそばへと足を運んだ。


「一緒にに歌いませんか?」


牧師は楽譜を夜羽に渡した。


「これは何語ですか?」

「ドイツ語ですよ。大丈夫難しくありませんからね。」


夜羽は不思議な感じがした。

水色の雰囲気に似ていた。


「『目覚めよと呼ぶ声が聞こえ』という曲なんです。

今度の礼拝で歌うのですよ。」


ドイツ語でかかれたそのコラールは、なんとなく読めそうだった。

野ばらを歌うときに少しだけ読んだことがあったから。


しかし、いざ歌おうとすると声が出なかった。

水色のことが気になって、上手く歌えない。


(そうだよ・・・・いつも天草が一緒に歌ってくれてたのに)


音楽祭の練習に向けて、共にいた時間が凄まじく大きなものとなっていた。

それに今気づき、涙がでた。


「私、行かなくちゃ。牧師様、ありがとうございました」

「お行きなさい。」

「はい」

「それからね、覚えておくとよいでしょう。」

「はい。」

「女性の涙は愛おしい人がいるから出るものなのです。貴女を大切にしてくれる人を、貴女も大切になさい。」

「はい!」


夜羽は走った。

水色の家へと。


そして、再び水色の祖母の元へ。

水色の祖母は取り合えずなにも聞かずに楽器庫へと招いてくれた。


「夜羽ちゃん、どうしたの?」

「お婆さん、『コラール』を教えてください」

「『コラール』?どの?」

「天草の歌ったコラールを」


そう、夜羽が言った時だった。


『夜羽ちゃん』


不思議な声がした。

それは水色の祖母の耳にも入っていた。


『私は、ここよ』


「どこなの?」夜羽は思わずそう答えた。

祖母は、あたりを見渡している。


『ここは、カンタータの隣だわ。バッハのカンタータが隣にある。

それから、右は・・・・フーガ』


祖母は指をさした。


「左の本棚の上から二番目だよ。」

「うん、わかった!!」


夜羽がそう言った。

そして、その場所へと行った。


そこには、微かに光が見えた。

これ?と疑問に思った瞬間に、光は強くなった。


(眩しいっ!けど、もう少し、もう少し)


手探りなりながらも、手を伸ばした。


「おねがい、コラール!

私、天草のところに行きたいの!!

天草の力になりたいの!」


そう夜羽が叫んだ瞬間に、楽譜は勝手にするりと楽譜の間から出てきた。

そして、夜羽の前へと現れたのだった。


『水色の元へ、お行きなさい』


その声と共に、コラールの楽譜は夜羽の手中におさまった。


「お婆さん、行ってくるね。」


楽譜は、自然に頭の中に入っていた。

覚えなくても、手にした瞬間にわかった。

夜羽は大きく息を吸った。

そして、水色思い浮かべながらコラールを口にしたのだった。




来たれたみよ この場所につど

来たれたみよ 天に祈れ


天に描くは空の星

安らかに眠る人の子ら

争いは消え、空は晴れ

輝く命、大地あり


天より降りし十二使徒

護れ未来の光たち

天より降りし十二使徒

平和の大地とこしえに


来たれたみよこの場所につど

来たれたみわれに力を













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