第十三話 輝きの調べを求めて
真っ黒に塗られていた楽譜を見て、僕は驚愕した。
春日の目には涙がたまっていた。
悔しそうで、でも、涙をこらえているような表情だった。
「何ないてんの?あいつ。」
「水色が手伝ってくれるからって調子に乗ってたじゃん」
「あいつ絶対音痴だとおもう!」
「あははは!だよな!」
そんな野次が飛んでくると、春日は席を立って教室を出ていってしまった。
「悲劇のヒロインのつもりかよ」
「まじでキモい。正義ぶって」
僕は楽譜を見つめた。
油性ペンのような太いペンで塗られていた楽譜は、五線の中はもう読めない。
野ばらの調べが、何もない。
「誰?」
思わず、声を出してしまった。
怒りが爆発しそうだった。
しかし、ここで僕が怒りをぶつけたところでなんの解決にもならない。
けれども
「今、何ないてんの?って言ったの」
退くわけにもいかない。
「この楽譜見てくれる?誰?こんなことしたの。
嫌がらせするのは人の勝手かも知れないけど、音楽祭を春日に任せたのは皆だろ。それをそんな言葉で片付けちゃうわけ?」
クラスが静まり返る。
大人しいグループの女子たちは、これまで見てみぬふりをさしたことに罪悪感を持っているのか、うつむいてしまった。
「誰かが代わりにでてくれるわけじゃないんでしょ?どうしてくれんの、この楽譜。」
僕はクラスのみんなに楽譜を見せた。
一部の男子たちも悪いと思ったのか少し顔が青ざめていた。
「嫌がらせを嫌がらせで返さないのが春日のいいところじゃない?」
普段そんなことを人前でなんて言えなかった。
見てみぬふりをする側だった。
でも、許せなかった。
野ばらの調べが何もない。
あんなに一生懸命に作った春日の歌が消えてしまった。
音楽が消されるなんて考えたこともなかったんだ。
「やった人は謝って。必ず。」
僕は急いで春日を探しに教室を出た。
保健室にも屋上にも行った。中庭にも行った。
いない。
(どこだ?)
その時だった。
右腕が光りだす。
(え?なんで?・・・・・右腕?)
思い出した。
春日におまじないをかけたことに。
廊下を歩く度に光が増す。
ついた先は、音楽室だった。
春日と初めてまともにしゃべった場所だ。
ドアを開けた。
声を押し殺す春日がいた。
「誰?」
「僕だよ。天草水色」
「あ、天草・・・・・ごめんなさい・・・楽譜・・っダメにして・・・・」
「それは春日のせいじゃないでしょ。大丈夫だよ。あれはコピー譜たから。」
「でも、私だけのことじゃないもの!天草が手伝ってくれるから頑張らなくちゃって思ってたのに!!私だけの力じゃ絶対に無理なことだったのに・・・・!!」
春日の顔は涙でグショグショだった。
僕はポケットからハンカチを出して、顔を拭いてあげた。
「協力しようと思ったのは、春日が一生懸命だからだよ。
嫌がらせを嫌がらせが返さないのが春日のいいところだろって、クラスでも啖呵?きっちゃって。
でも、そう言ったことに後悔はしてないんだ。」
僕は自然と言葉にできた。
「一人じゃないんだ。春日が今言ったでしょ?
仲間って、空気よりも自然で、宝石よりも輝いているんだって。
僕の仲間が言ってたよ。」
テナがあの時言ってくれた言葉を思い出した。
きっと同じ。
今、目的を持って同じ方向へ進んでいるのだから。
「大丈夫」
ね?と声をかければ、春日は少し笑ってくれた。
しばらくしてから教室に戻った。
みんな大人しく自習をしていた。
それから、放課後。
塗られていた楽譜を担任に渡して、春日と音楽室へ向かおうと渡り廊下を出た。
事件は、連続で降り注ぐ。
ふと感じた、おぞましい空気。
普通じゃない。黒いモヤのようなものが立ち込めているような・・・・。
気を高める。
(なんだ?この感じ。)
嫌な予感がした。
その時だった。
「見つけた」
謎の声とともに窓ガラスが一気に割れた。
僕は慌てて気を込めて声を出した。
「春日っ!危ない!!」
右腕に光が増した。
聖跡がバリケードを作ってくれた。
能力がわからない今、頼みになるのは自分の気力を出すことしか出来なかった。
「え!?なんなの!?」
「危ないから僕から離れないで!」
僕にもさっぱりわからない。
その時、聖跡から声がした。
僕を初めてコラールへと呼びこんだ少女の声だった。
慌ててはいるが、不思議と冷静な判断をしている。
『水色』
「コラールだよね!?どうなってんの?これ!?」
『やはりこちらの世界にもいたのね。』
「はぁ!?」
『ヤツは私達の世界の追ってだ。詩子を追ってきたようね。』
「ちょ、どうゆうこと?詩子ってひいばあちゃんだよね!?」
『水色、イメージ、イメージをするのよ。水色ならどんな力でも使えるはずだから!さっき・・・・・みたいに!』
段々とノイズが混じり、コラールからの声は聞こえなくなっていった。
「わかった!」
『た・・・・・んだ・・・・わよ』
僕は春日の手をとり走り出す。
とにかく、誰も巻き込まない場所を探す。
「飛ぶから高いとこ苦手なら目をつぶってて!」
僕はとっさにアルトの能力を思い出した。
飛ばなくては。
早く、春日を安全な場所へ。僕はは春日を抱え込む。
「ごめんね!」
彼女の許可もなく抱え込み、僕は割れた窓ガラス外へでた。
「天草!?なんなの!?」
「ごめん」
追っての姿が見えた。
現代人っぽい?
「見つけたよ。コラールの後継者!」
僕は、屋上に着くと春日を降ろして向き合った。
「誰?」
「やっぱり異世界へ逃げていたかカントは。」
「カント?」
「教会に歌集だけを残し、死んだと見せかけた十二使徒だ!」
そう言って凄まじい矢が飛んできた。
「な!?銃刀法違反で警察につきだしてやるぞ、お前!」
僕はとにかくイメージをした。
風が矢を追い返す。
(こいつがいるってことは、何かあの世界に行く方法があるはずなんだ・・・・考えろ、僕がここにいたら絶対に人を巻き込んでしまう。)
「天草、危ないっ!!」
考えているうちに、矢に気づかなかった。
春日がこちらに飛び込んできた。
僕は目の前が真っ白になった。
慌てて春日に近寄る。
春日は無傷だった。
「あれ?私なんともない」
そこには、僕が春日にしたおまじないがあった。
「良かった・・・」
僕は聖跡をなぞる。
そして、念じた。
(一度、楽譜に戻ってくれ。巻き込みたくはないんだ。)
その想いに応えるように、聖跡はあっという間に楽譜になった。
「春日、絶対にこの楽譜のことは誰かに話しては駄目だよ」
「う、うん。」
「巻き込みたくないんだ。」
「うん。」
「僕の右腕の模様のことも。」
「うん。」
ありがとう。僕はそう言って、初めに楽譜の中へと入った時のように歌うことにした。
ブレスをしたとき、春日が僕の服を引っ張った。
「天草は大丈夫なの!?危なくないの!?どっかいっちゃ嫌だよ・・・・!」
「僕は大丈夫だから。必ず戻るよ。一緒に音楽祭に出よう。野ばらを、あの調べをまた歌おう。僕は、行かないと」
「天草?」
僕は再びブレスをした。
来たれ、民よ この場所に集え
来たれ、民よ 天に祈れ
闇から黒い手がのびる時
民はひたすら逃げ続け
いつしかなにも無くなる時
空は黒く成り果てる
天より降りし十二使徒
能力をもつて凪ぎ払え
天より降りし十二使徒
闇を払いて救うのだ
来たれ、民よ この場所に集つどえ
来たれ、民よ我らに力を




