町中にて
彼女が学校の行為で朝早くから夜遅くまで教室で勉強するようになったので、一人でいる時間が長くなってしまった。
「よう!」
「! あー、久しぶりー」
そんな冬のある日。兄が用事があってこっちに来るというので僕も暇なので、ご飯でも奢ってもらおうかと思って会うことにした。最近寒いから鍋しか食べてない。たまにはポン酢以外のが付いている物を食べたい。
久しぶりに会って顔を素で忘れていた。まぁ、しょうがないね。小学生の時夏休み明けてクラスメートの異性と言うかその間遊ばなかった子の顔ほとんど忘れていたもの。
「お前……まぁいいや。久しぶりだな」
「お母さん元気?」
「元気元気皆元気」
言いたいことを飲み込んだみたいな顔をして兄は笑顔で言う。
「■■□■■■■■■■□■■■■□■■■■■■」
「………」
空を見上げる。息が白くなる。
僕は視線を兄には寄こさない。
「なぁ?」
「え? 何?」
「聞いてなかったのかよ。相変わらず過ぎ」
「何か言った?」
「もういいよ。二回もいう事じゃないし」
「……えっとさ。ユカは元気?」
「ユカ? 誰?」
「いや、いいや」
言っても伝わらないことは言わなくていいや。
「しっかしここヘンなとこだよな」
「どこが?」
「たくさんあり過ぎてどこから言えばいいか……まずいうけど他の町とかでいきなり神様的な存在がコーヒー店に入るとか無いからな。そんなに」
「頻繁にないだけであってるじゃん」
「夏祭りとか降臨祭とか、そう言う特殊イベントの時しか会えないよ」
「ふ~ん」
興味が無いので適当に返事していたら、軽くため息を吐かれた。
「ところでユカは元気?」
「だから誰だよ? あっちいたときの友達か?」
「念のために聞いた」
やっぱもういいや。うんうん。諦めよ。
「ご飯奢っちゃろか?」
「僕飯屋あんまり知らないよ?」
「じゃ適当に入ろ。母さんからもさ、言われてんだよ、ちゃんとしたもん食わせてやれって」
「頻繁に野菜送られてきて困ってんだけれど。野菜だけ」
「栄養たっぷりじゃん」
「うん、そうだね」
つまらない話を楽しくしながら僕らは適当な店で食事を摂り、取り留めのない話をしていると外はあっという間に暗くなっていた。彼女はまだ勉強しているだろう。後で電話しよう。
「それじゃあな、たまには■■■■■■■■□■■■■■■■■□□■■■■□■■■■■■■な」
「あ、うん。また近いうちに?」
「そう言ってお前来ないんだもんな」
「行こうとはしてるんだけど、ねぇ」
察してくれと言葉を濁すように話すと察しのいい兄はこれ以上催促せずに、母から預かっていたと言って封筒を渡された。
「なんか料理のレシピっぽいよ」
「あーありがとう」
「いい加減煮ると焼く以外に食べ方覚えよう」
「他の調理法知らないから」
「そのためのこれだって」
「ありがたく頂戴します」
「後で電話でも入れとけ。喜ぶから」
「うん。忘れてなきゃ電話する」
そして
「兄さん」
「今度は何だ」
「最後に聞いていい?」
「影の事か?」
「うん」
「お前のは見えてるし。俺のもあるぞ?」
「あ~、うんだよね~」
「他の人に言うなよ? 変に思われる。お前からはどう見えてるか分からんけど、俺には見えてるし、他の人もそうだよきっと」
気にするなと言って兄と別れた。見送りはいいと言われた。
遠ざかる兄の背と街灯に照らされできた影を見て僕は足もとを見る。
「やっぱり、ね」
僕の目が変なのかそれとも頭が変なのかよくわからないけれど、今の僕には影はなかった。
(自分のなかでは)キリがいいところまでは7月中に終れました。
後は折り返し。